幕間 ハミルトン最近どうした?
拓海君は人たらしかもなー
「……なあ」
「なんだ?」
「最近のハミルトン、見たか」
昼休みの談話室の隅。
声は小さい。
この学校では、あまり名前を大きく出すべき相手ではない。
「見た」
「あぁ、見たよな」
一拍。
「……叫んでた」
「思いっきり叫んでたな」
静かな同意。
「あれ、何だったんだ?」
「さぁ…わからん」
「なんかの儀式らしいぞ」
「儀式?」
「東洋の精神統一だとかなんとか?」
「……精神統一?」
誰も納得していない。
「それだけじゃない」
こそっと別の声が入る。
「この前、上級生に“宣戦布告”したらしいぜ」
「は?なんだそれ」
「しかも、”日本語”で」
「日本語で?」
「何言ってるかは解らなかったが、とにかく逃げたそうだ」
…………全員沈黙。
「……いったい何を言ったんだ」
「知らん」
「だが、ヤバかったらしい」
便利だな、その言葉。
「原因は、あれだろ?」
視線が一斉に向く。
誰かが中庭の方を指さす。
「……あの日本人」
「あー、、佐伯、だったか」
「そう、あの留学生」
「浮いてるやつ」
ちょうどその時、
中庭のほうで声がする。
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「タクミ」
声が響く。あの声だ。
振り向く。
エドワード・ハミルトン。
変わらない。
いつも通りの顔で、
ただ一人を呼ぶ。
「来い」
「今か?」
「今だ」
「お前なぁ」
いつものやり取り。
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「……なんであいつなんだ?」
「さぁ、わからん」
「ハミルトンが選んだのか?」
「あり得ないだろ」
「だよなぁ」
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だけど、様子を見ていると
気が付くことがある。
「なあ、それ、、」
拓海に声がかかる。
別の生徒だ。
「これ、どう思う?」
「んー?」
自然に会話が始まる。
距離が近い。
躊躇がない。
「それはさ――」
彼は普通に話す。
誰にでも、同じ温度で、同じ態度で。
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「……なんで普通に話せるんだ」
「さあな」
「怖くないのか」
「わからん」
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エドワードは、その様子を見ている。
何も言わない。
止めもしない。
ただ、当然のように受け入れている。
「……変だな」
誰かが呟く。
「何が」
「ハミルトンが誰かといるのは」
それだけでも異常だ。
「しかも」
一拍。
「あの日本人だ」
ちょっとした沈黙。
少し冷たくなった秋風が通る。
少しだけ寒くて、少しだけ暖かい。
「……けどさ、」
ぽつりと声が落ちる。
「悪くはないよね、これも」
「は?」
「前より、近づきやすい気がする」
「誰が?」
「……全員?」
少し、ぼんやりとした曖昧な言い方。
でも、誰も否定しない。
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「タクミ」
呼ばれる。
「ん?」
「“静か”は日本語で何と言う」
「静か、だけでも色々あるぞ」
「そうか」
相変わらず、よくわからない会話。
それなのに、その周囲だけ、
空気が少し柔らかい。
「……ハミルトンさ、ほんとに」
誰かが小さく言う。
「最近、どうしたんだろうな」
答えはない。
ただ一つ、確かなことがある。
あの日本人が来てから、何かが少しだけ、変わった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




