2、だからこそスローライフを送りたい
家に帰ろうとエイルが森の小道を歩いていくと、ドラゴンだかなんだか、よく分からない奴が放った火球に当たる
(痛い!)
「君!大丈夫か?」
冒険者らしき男が駆け寄ってくる
「大丈夫ですっ・・・」
(やけど・・・アロエでも塗るか)
「なんで大丈夫なんだ!?」
冒険者らしき男が驚く
(あー面倒くさそう・・・逃げるか・・・)
立ち上がり、駆け出す
「きっ!君!」
追いかけて来るかと思い、後ろを振り返るが、追いかけてこない
(こんなことになるぐらいなら、飲まなきゃよかった)
数年前、家族とピクニックにいった時だったーー
「エイル、遊んでおいで」
母が優しく声をかける
「うん、わかった」
短く返事を返し、山の方へと歩き出した
「石でもあればなぁ・・・」
ゴーレムを作れるのに、とつぶやいた
ここは雨が多く降る地域だからか、空が澄んでるな
エイルは空を見上げながら歩く、その瞬間、一瞬だけ体が浮くような感覚を覚える
その後、水の音が鳴り響く
(水・・・?)
腰の高さぐらいまで水がある
上を見ると先ほどまでの空が丸く切りとられている
(落ちたのかなぁ・・・)
こういうときの基本は焦らないこと、焦れば命取りになる
ぐるっと辺りを見回すと、壁に、豪華な彫刻が施してある
(自然の穴じゃあなさそう・・・)
壁と壁との間、門らしき場所にエイルは入ってみる
すると、奥に台座らしき物があり、その上には瓶、周りには赤い石が落ちてあった
(伝説のとおりだ・・・)
エイルは息を呑んだ
現在、国で最も一般的な伝説、不老不死の薬と賢者の石、その隠し場所とされる、洞窟によくにていた
(まさか、あれが・・・)
伝説では、触れてはいけないもの、となっているが、錬金術師の好奇心には勝てはしない
ゆっくり手を伸ばしつかむ
(不老不死も悪くない)
そのままぐっと中身をあおる
(なんともないけど、偽ものか)
このとき、だだの水だと思ったが、間違いだった
年を重ねるにつれ、あの水を飲んだときから、あまりに見た目が変わらない、老いないのだ
いまじゃ、飲んだことは後悔してる
いくら痛い思いをしたって、死ねないからだ
(だからこそ、スローライフを送りたい)