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Deviant ー妖魔転生ー  作者: 是色
第六章 侵食
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6-5


 ナニ?


 なんで、この話の流れで断るんだ?


 オーガの言葉を聞いた限りでは、裏社会のヤツラに対する不満よりもゴブリンに買われる忌避感の方が大きいと言った感触は無かったよな?

 なら少なくとも、ここで俺の俺の提案を断る選択は無い筈だろう?


「……なぜだ?この機会を逃せば、先ず間違いなくアンタは殺されるか、悪趣味な変態のオモチャだぞ?」


「テメェなんぞに良いようにされるのは、気に食わねぇんだよ!」


 言葉は憎々しげだが、オーガの表情には恐怖が混じっていた。

 そんなに怖がられるような事をした覚えはないんだが……?


「さっきまでとは、ずいぶんと反応が違うじゃねぇか?」


「テメェは、ヤバイ。

 ゴブリンのクセして人間みてぇな格好をやがるからヘンなヤツだとは思っていたが、絶対なにかトンでも無い事を考えてやがるだろ!?」


 ずいぶんと警戒されたもんだなぁ。

 まぁ森のゴブリンを知っていれば、知恵の回るゴブリンを薄気味悪く思うのも無理はないか。

 このまま縁が切れたところで俺には損はないし、そう言う事ならクスリで眠らせて無理やり集落に運び、後の事はイルメラにでも任せよう。


 ――と思っていたんだが、俺が行動に移す前にリサが動いた。


「妖精?このヤロウ、ゴブリンの分際で妖精に好かれてやがるのかよ!」


 ずうっと帽子の上に居たってのに、今更リサに気がついたのか?

 いや、妖精の希少性を考えれば、帽子の飾りだと思っていた可能性もあるか。


「うん、そうだよ!レドちゃんはアタシの契約者なの!ねぇ、アタシはリサ。アナタは?」


 更にテンションを上げるオーガに、リサは気にした様子もなく声をかけた。


「オ、オレは……。人間なんかに負けたオレはもう、親から貰った名前は名乗れねぇ」


 オーガはしどろもどろに返答を言いよどむ。

 なんか、リサに対してはずいぶんと殊勝じゃねぇか。


「そぉなの?じゃ、それはおいておいて……。ゴショゴショゴショゴショ」


 リサがオーガの耳元に近寄って、なにやら小声で話しかけた。


「……な!……本当かよ?……いや、疑う訳じゃ……。……わ、分かった」


 オーガはリサの言葉を聞くたびに表情を変える。驚愕、不満、疑惑、懐疑、決意……。

 そして、なぜか最後には希望。


 おい、リサ。

 オマエ、オーガにナニを吹き込んでやがる?


「そう?良かったぁ!レドちゃん、オッケーだよー!」


 ナニがオッケーなんだよ……。

 いや、いまリサに聞くのはまずいか。

 他のヤツに聞かれないように喋ったって事は、聞かれたくないって事だろうからな。


「あー。ナニがどうなったか分からねぇが、俺の言う事を聞いてくれる気になったのか?」


「おう!何でも言ってくれ、ゴシュジンサマ!」


 こりゃまた……。ほんの数分前までとは、ずいぶんと態度が違うな。


「おい、リサ。オマエ、一体ナニをこの女に吹き込んだんだよ?」


「んー。ナイショ!」


 戻ってきたリサに小声で聞いたら、そう答えた。


「……ああ、そうかい」


 リサとオーガの繋がりとなると、オーガを雇って深層にまで入り込んだルーテシアの関係か?

 それとも、以前の契約者の中にオーガが居たとかかな?

 どちらにしろ、リサに言う気がなければ分からない。


 まぁなんにしても、オーガが言う事を聞いてくれるのならその方が面倒が無くて良いか。


「とりあえずご主人様はやめてくれ。俺の事はニグレドで良い」


 奴隷達には魔法の所為でご主人様と呼ばれているが、他人にあるじだなんて呼ばれるのは性に合わないんだよなぁ。


「分かった。じゃあ、ニグレドサマだな!」


「様も勘弁してくれ」


「じゃあニグレドのダンナ!」


「……まぁそれなら良いだろう。

 とにかくオマエは集落に戻ったらオーガを探して引き渡してやるから、それまでは大人しくしてろ」


「ええ?オレはこれからダンナの子供をバンバン産むんじゃないのかよ!?」


「何でそう言う話になる?」


「だってよぉ……。男が女を買うんだったら、他に目的なんか無いだろ?」


「あのなぁ……。オマエが売られたヤツラは俺の身内に不始末をしでかしててな?その詫びとしてオマエが俺に譲られるって話になっただけだ。

 俺は女に困っちゃいないし、子供もいらねぇんだよ」


 魔法でパイプカットしたから、どれだけヤってもできないしな。


「オレが、こんな体だからか?」


「あ?手足がねぇのも図体がでかいのも関係ねぇよ。顔も綺麗なもんだし乳だってでかいしな。

 ただ、女なんて一人居りゃぁ十分だからなぁ」


 実際、マルグリット一人でも持て余しているしな。


 ……オモチャにするだけなら、話は別だがよ。

 そう言う意味ではまぁ、俺の頭よりでかいこの胸を思う存分揉んで見たいと言う気にならなくは無い。

 しかし、さっきまでの怯えを含んだ警戒の表情ならまだしも、いまの憧れのアイドルに向けるような目を俺に向けるオーガ女では、どんなプレイも喜んで受け入れそうで興ざめだ。

 それに動けるヤツを動けなくするのは楽しいが、はなっから動けない相手を嬲るのは胸糞悪いだけで面白くもなんとも無い。


「そう言やあ、その手足はどうしたんだ?騎士の一行を壊滅させたって話だから、生まれつきって訳でも無いんだろう?」


 裏社会のヤツラに切断されたとしたら、中年男とまともに会話ができるはずも無いしなぁ。


「こいつは……。森で食いもん探してたらムカつく人間達にってさ。ブツクサ文句言いやがったからぶん殴ってやったら、ツレの魔法使いに焼かれた」


 ずいぶんと端折ってないか?

 ムカつく人間達ってのは騎士の一行の事だと思うが、騎士の一行と言うぐらいだから二人や三人と言う事は無いだろう。

 中層の魔獣を捕獲する用意もしていたようだから、大きな檻も用意してあった筈だ。

 ソレを壊滅にまで追い込んだんなら、主戦力のほとんどが使い物にならなくなるくらいの事にはなったんじゃないのかなぁ。


「手足だけをか?」


「いや、全身火に焼かれたんだけど、死んでたまるかって全力で抵抗したら、こうなった」


 体の末端を捨てて重要器官だけ守ったか。

 雪山なんかで遭難した時に、凍傷で末端組織から壊死していくのと同じ事だろうな。

 鼻や耳、それに髪も無事なのは……、首から上を守る事を優先させた結果だと考えれば理解できなくは無い。


 それにしても……。


「全身を焼かれたにしちゃあ、ずいぶんと綺麗なもんだな」


 着せられている白のワンピースを捲って見ても、その下から現れるのはすべすべした白い肌だ。ケロイドどころかシミ一つない。


「火傷くらいで傷跡が残るオーガはいねぇさ。さすがに無くなった手足までは治んねぇけどな」


「ふぅん。……抵抗するなよ?」


 寂しげに笑うオーガに『自在工房ワークショップ』による再生を試してみても、俺の魔力は上手く浸透しなかった。

 拒絶されている感じでは無いんだが、やはりオーガの高い抗魔力がネックになっているんだろう。


「俺では無理か。

 まぁ生身並みにとまではいかねぇが、それなりに動く手足なら作ってやるから安心しろ」


 深層の魔獣の素材で作ったアレ(・・)の技術を応用すれば、義肢なんか簡単に作れるからな。


「ほ、本当か?」


「ああ。俺は、嘘は言わねぇよ」


「だったら、新しい手足を作ってくれるんなら兵隊の一人として使ってくれてもいいんだ。 オレに勇者の従者としての栄誉をくれ!」


 ……勇者だぁ?


 いや、オーガの勇者か。

 ルーテシアの作った装備を使って蒼箆鹿ペイルエルクを討伐したオーガが、確か勇者と呼ばれていたよな。

 睨むようにリサを見ると、リサは舌を出して肩をすくめていたがその目は笑っていた。

 このオーガが俺に対して態度を変えた理由がコレか。

 蒼箆鹿ペイルエルクを倒した事で、オーガからも尊敬を得られるようになったって事で正解のようだな。


 この事が外に洩れると面倒な事になりそうだが……。

 裏社会の連中に口止めは無駄だよなぁ。精々が俺の情報を売る時に値段が跳ね上がるようになるくらいだろう。

 いっそっちまうか?

 すっかり空気になっていた中年男は、話について来れずに呆然となっているようだ。

 今なら一瞬で終わらせる事ができるだろう。

 オーガが暴れてかみ殺したって設定なら、俺に責任は発生しないしな。


 ……いや、この部屋が盗聴されてないとも限らないからやめた方が良いか?

 魔法によって強化された聴力で離れた場所から聞いているとかってタイプの盗聴だと、俺には感知できないしなぁ。


 まぁなるようになるか。


「栄誉ってのは、オマエにとってそんなに大事なモノなのか?」


「……オレ達オーガにとって、戦って死ぬならまだしも、捕まって見世物になるなんて恥さらしもいいとこだ。

 この恥をそそぐには、恥が霞むほどの栄誉を得るしかねぇ」


 オーガってのは力と誇りを重要視するらしいので、汚名返上の機会があるのならそれに固執するのも分からなくはない。

 だからと言って俺がソレに協力してやる義理は無いが、戦力としてみた場合ならオーガは十分魅力的だ。

 戦闘用の義肢を作る事は可能なので四肢が無いのも問題は無いし、俺に従う事が目的なら名誉を傷つけるような命令さえしなければ裏切る事も無いだろう。


「なぁ、頼むよ。もう一暴れして死んでやろうかと思ったけど、恥を雪ぐ機会があるならオレはソレにかけたいんだ!」


 もう一暴れ、ねぇ。


 ……あ!


「もしかして、コイツラに売られた後でも暴れたのか?」


「おう!こんな体だから、バカの腕を一本食いちぎってやったので精一杯だったけどな!」


 中年男に目を向けると、冷や汗をかきながら顔を引きつらせる。


「……ははは。いやぁ、若いのが粋がっちまいまして……」


 なるほど、いらんちょっかいをして食い殺されかけたか。

 裏社会の連中がこのオーガを早く処分しようとしているのも、それが関係してるのかもしれないな。


「の割には、今は大人しいじゃねぇか?」


「……それ以来メシが出なくなって、腹が減って力が出ないんだよ」


 もしくは餓死しない内に処分したいか、か。


「良いだろう。勇者なんて柄じゃあないが、俺に絶対の服従を誓うって言うのなら使ってやるよ」


「誓う誓う!ダンナの命令だったら、どんな事だってやってみせるぜ!」


「しかしそうなると呼び名が無いのは不便だな。オマエの名は、本当に名乗れねぇのか?」


 俺の言葉に、オーガ女は喜びの顔を一転させて悔しげにゆがめる。


「あ、ああ……。二度と名乗らないと決めた以上、ダンナに使ってもらう事になってもやっぱり名乗りたくない」


 粗暴で単純で一徹者。

 オーガをそう評したのはルーテシアだが、確かにそんな感じだな。


 鬼なら丑寅だが、太く湾曲した角は牛に似てるし丑のバサラでいいか。


「よし!それじゃあ、オマエの名前はこれからバサラだ。いいな?」


「バサラ……。イイねぇダンナ!なんかすっごく強そうだ!」


 さて、これで後は……。


「おい、このオーガは前の奴隷と同じようにしばらく預かってもらえるのか?」


「あ、いや。できれば今日にでも引き取っていただければ……」


 中年男に聞くと、もう係わり合いになりたくないとでも言うように全身で拒否された。


「なら、夜にでもマルグリットの家に運んでくれ。その代わり、コイツも貸しだぞ?」


 どう梱包した所で、こんだけでかいモノを昼間に運べば目立つからなぁ。


「ありがてぇ。貸しの方は何らかの形で必ずお返ししますんで、どうかご安心を」


 えらい喜びようだが、本当に返す気があるんだろうな?

 まぁ裏社会の人間の言葉なんて話半分、いや一割程度と考えた方が無難か。

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