到着
スヴァーティ王国王都。
一行を含む騎士団第十二師団は、しばらくぶりにその正門をくぐった。
レンガ造りの建物が整然と立ち並び、それを埋め尽くすかのようにいたるところに緑が生える。その景色は圧巻だ。
正面入り口から市民街、騎士団宿舎街、貴族街、と続き王城はその際奥に聳え立っていた。
赤いレンガ造りの街並みと同様に赤く、所々に侵食する大樹の緑が目に鮮やかだ。
建国から今まで、その大樹は城と共に在る。
むしろ、その大樹があったからこそこの城はここにあるのだ。
精霊樹。
世界の魔力を管理する精霊たちの住まうとされる、樹齢千年を優に超える巨大な樹木である。
その大樹を傷つけぬように配慮しつつも、大樹の正面位置に王座が来るように配された作りのこの城は、築城より数百年、改修と増築を繰り返して存在している。
「そんなわけで、あの城の中は迷路だ。迷宮だ。一回曲がる所を間違えただけで目的地の反対に出てしまうくらいに入り組んでいる」
「…えっと」
謁見のため、最礼装に着替えるため、その他諸々の理由で騎士団の寄宿舎に戻ったレーヴェたち。
自室で汚れを落としたレーヴェと、団の女性陣に引きずられて湯浴みと採寸をさせられたリューシャは食堂の一角で休んでいた。
というのも、リューシャ含めて客人となる人間の部屋がここにはないからだ。文字通り寄宿舎であって、来客用の部屋は貴族街にホテルとして存在している。
村長や、町長、領主の三名とその付き人はそのホテルへと泊まる事になっている。問題が解決していないため仮という形だが、騎士師団に所属することになったリューシャはこちらに部屋を用意されるのを待っているのだ。
そして、なにやら力説するレーヴェにリューシャは困ったように首をかしげた。
「本当に、気をつけてくれ」
「レーヴェ、もしかして……?」
「……」
あまりの念の押しように、これはもしや、と思う。
声をかけた瞬間、視線をそらしたのでどうやらビンゴらしい。
「方向音痴でもないレーヴェが迷うくらいなら、本当に複雑なんだね。わかった、気をつけるよ」
「悪いな。地図は色々問題があって仮入団状態のリューシャには見せられないし、な」
「それは、気にしないよ。とりあえず、勘違いの件を片付けるのが先だもの」
国王との謁見は残り三時間後。
後半刻もたてばドレスの着付けなどでリューシャは拘束される。
レーヴェは騎士としての最礼装な上に男なのでそんなに面倒ではない。今は風呂上りで乾いておらず解いたままである、というくらいか。
リューシャは遅い昼食をとるレーヴェを見る。
いつもは地面に付きそうなくらいに長く細い三つ網にされた銀色の髪が、解かれ、水気を含んで彼の首筋に張り付いている。
細い細い銀の糸。
(キラキラ、綺麗)
ココアを一口飲みながら、ふとそんなことを思う。
触ったら、ふわふわなのだろうか。猫、というものは見た事がないけれど、聞く限り彼の髪はきっとそんな感じの手触りなのだろう。
猫っ毛で、癖がつくとひどく面倒だと、ぼやいていたのを覚えている。
「リューシャ?食べたいのか?」
「ふぇ?」
ぼんやりと見つめていたら、どうやらデザートである林檎ジャム入りヨーグルトを見つめていたように勘違いされてしまったらしい。
一口食べただけだから、と差し出されてしまった。
(わたしは、今、何を、思ったのだろう…?)
首を捻りながら、リューシャはヨーグルトを受け取った。
頬張ったヨーグルトは、ココアを飲んでいたせいか甘い林檎ジャムがたっぷり入っていたというのにひどく酸っぱく感じた。




