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愛した彼はもういない  作者: ととこん


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2/2

1日目

起きるとすでに彼はいなかった。

彼女のご機嫌うかがいで早々と家を出たのだろう。

何が仕事だ。

息を吐くように嘘をつく。

わたしの愛した人はそんなクソ野郎になっていたなんて。

でも彼がいないほうがいい。

一緒にいても不快なだけだ。

そう思うと千佳は身支度をするために起き上がった。


キッチンへ降りていくと家政婦の田中さんが食事を作っていた。

「透悟は何時に出て行きました?」

「私がきた時にはもうお出かけになられたようです。」

車がなかったのだろう。

きっと彼はわたしが眠った後静かに出て行ったのだろう。

心にずきっと痛みが走る

「朝ごはんはいかがいたしましょう?」

「コーヒーだけいただけますか。」

田中さんはそっとわたしの前にコーヒーを置いた。


コーヒーを飲み終わると彼の実家へ向かう用意を始めた。

気が重い。

彼の実家はわたしを毛嫌いしている。


彼、坂下透悟の実家は指折りの資産家だ。

わたしとの結婚をよく思っていない姑からはいつも心無い言葉で傷つけられる。

じっと我慢してきた。

今日はもう我慢しない。

そう心に決めて向かった。


車で30分麻布にある彼の実家へ

いつ見ても立派。

玄関の呼び鈴を鳴らし、家政婦に案内され応接室へ

「いらっしゃい。」

姑の坂下美和子と義妹の坂下梨香子がソファに座っていた

反対側のソファに座る

「透悟はどうしたの?」

「仕事だそうです。」

短く答える

「そう。1人だったら来なくてよかったのに。」

来なかったらこないで文句を言うくせに。

「いえ。お約束ですから。」

結婚時に毎月必ず顔を出すことを約束させられた

透悟が仕事でどうしても来られなかった時に翌月に2人で伺うと連絡したら散々嫌味を言われた

それ以降透悟が仕事であっても1人で来ている

「今日もお綺麗なこと。」

嫌味を言うだけなら呼ばないでほしい。

夫も息子もたいして寄りつかない家で嫁でもいじめないと気がすまないらしい。

「わたしなんてそんな。お義母さまと梨香子さん今日も素敵です。」

「これ見て。」

姑の首にはこれでもかと主張するエメラルドのネックレスが着けられている

「こなあいだのオークションで美香ちゃんが薦めてくれて、透悟が落札してくれたの。」

これ見よがしに首のエメラルドを触っている

「美香ちゃんはほんといい子よね。素直で可愛くて。」

美香とは透悟の初恋の人そして不倫相手

4人で行ったなんて聞いていない。

「そうなんですね。素敵なものが見つかってよかったですね。」

「透悟たらずっと美香ちゃんにつきっきりで、美香ちゃんが目を輝かせるたびに落札してたのよ!」

「ほんとお似合いだったよね!」

梨香子も姑に加勢して2人で美香の話を始めた

そんな話全然聞きたくないけど。

心の中で呟きながら、ソファから立ち上がった

「顔も見せたことですし、そろそろ帰ろうかと思います。この後友人と約束がありますので、失礼します。」

千佳は2人の話を無視して、玄関に向かった

いつもだったら2人の話に相槌をうち、愛想笑いをして話を合わせていたが、もうそんなの必要ない

応接室を出る前に姑がなにか言ったようだが、よく聞こえなかったし、聞きたくもないので無視してそのまま車へ乗り込む

はぁ。

ため息が出た

離婚したら2度とあの人たちの顔を見ないと思うとすっと心が晴れた

いつもいつも同じような嫌味ばっかり


千佳は車に乗り込み恵比寿の会員制レストランへ向かった

友人の福岡なつみとお昼を食べるために


レストランへ着くと店員が個室へと案内した

個室にはすでになつみがおり、熱心にメニューを眺めていた

「ごめんね。待った?」

「大丈夫。てか千佳は何食べる?わたしはサラダランチでいいかなーって。」

「同じものにする。」

店員へサラダランチとアイスティーを頼むとなつみはまじまじと千佳の顔を見た

「痩せた??」

「ちょっと痩せたかも!」

ここ最近あまり眠れず食欲もない。

体重計には乗ってないけどきっと痩せたんだろう。

「なんかあったの?どーせ旦那さまとまた喧嘩して仲直りしたんでしょ?」

にやにやしながらなつみは言う

「離婚する。」

千佳は短く、でも決意を込めて言った

「え?なんで?なんで?」

「初恋の女と不倫してるから。」

「え?まさか?ほんとに????」

「ほんと。あの女の臭いつきで帰ってくるの。」

「えっ千佳、大丈夫?」

「大丈夫ぢゃなかったけど、大丈夫になってきた。」

「なつみ!!とりあえず証拠を集めていかないと!まずは油断させて2人の不貞の証拠を掴みたいの!協力して!!!」

その日2人はサラダランチを頬張りながら透悟の悪口をひたすら言い合い、後日また会うことにして個室を出た。


個室から体を出しなつみがふと止まった。

「どしたの?」

千佳は聞く

「ねえ、あれ?噂の透悟くんぢゃないの?」

なつみが指を指したほうを千佳は見た

千佳が見つめた先には、透悟と美香が腕を組みながら歩いていく後姿があった。

千佳すぐに携帯でムービーを撮り始めた。

どうやったら前から撮れるかな。

でも今わたしが怪しんでるのはさとられないほうがいいよね。

千佳は個室に消えていく2人の背中を撮り終えるとなつみと共に車へ向かった。

「なんでここにいるの?」

なつみは眉間に皺を寄せながら呟いた

「知らない。ここのランチ食べたくなったんぢゃない?」

千佳はたんたんと答えた

「なんでそんな落ち着いてられんのよ!!!あんの最低やろう!!!!」

千佳以上に口汚くののしるなつみに笑いながら、千佳はまた近々会う約束をして別れた。

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