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ララとの対決①


 漂う鉄臭い匂いに、メリーアンは呆然としてしまった。 


「ひどい……」


 地下避難所。

 松明の光でオレンジ色に照らされた空間には、不安で震える人々や、怪我や熱に苦しむ人々が集まっていた。

 慈愛とフリージアのエリスの信徒たちが、一生懸命に怪我人の治療をしている。幸いなことに、エリスの信徒たちが得意とするのは、治癒術だ。高度なその神聖術は、今までに何人もの死の淵にたつ人々を救ってきた。彼らがいれば、もうしばらくの間は持つかもしれない。


「め、メリーアン様!?」


「どうしてここに!」


 呆然と立っていたメリーアンに気づいた人々が、驚いたように声をあげた。

 元気な領民たちがわっと駆け寄ってくる。疲れ切っていた顔に、少し希望の光が浮かんでいた。


「みんな、大丈夫? ごめんなさい、こんな状況になるまで、何もできなくて」


 そう言うと、顔見知りの領民たちは口々にメリーアンが無事でよかったと言った。こんな時までメリーアンを気遣ってくれる領民たちに、メリーアンの胸はいっぱいになる。一人一人に声をかけたいところなのだが、時間がない。どうしたものかとオロオロしていると、幼い声がメリーアンの名を呼んだ。


「メリーアン様」


「ポール! 久しぶり! 大丈夫? 怪我はないの?」


 そこにいたのは、まだ幼い少年、ポールだった。ポールは非常に頭脳明晰な少年だった。その優秀さを伸ばすため、メリーアンとユリウスは王都の学園に通わせようとしていたくらいだ。ポールはいつも通りの落ち着いた様子で、メリーアンの袖をついついと引っ張った。


「僕は大丈夫。それよりメリーアン様は、何か大事な用事があってわざわざここへ来たんでしょ?」


 その言葉ではっとする。


「ララは……聖女様はどこにいるかわかる?」


「あっちにいるよ」


 ポールは奥へと続く廊下を指差した。


「ユリウス様と何か話しているみたい」


 ──あの奥に、ララとユリウスがいる。二人は一体何を話しているのだろう。

 メリーアンの胸に緊張が走った。けれどさっさと行って、話を付けなければならない。


 若干の恐怖を覚えるメリーアンの背を、黙って見ていたエドワードが、ポンと叩いた。エドワードの体温で、メリーアンは正気に戻る。


「……ありがとう、ポール。みんなも。必ずこの状態をどうにかするから、もう少しだけ堪えて」


 そう言って、メリーアンとエドワードは廊下の奥へ進んだ。


     *


「ララは悪くない!」


 悲鳴のような声が地下避難所の一室に響いていた。


 ──どうしてこんなことになってしまったのかしら。


 ララは目の前に立つユリウスを前にして、苛立ちを隠せずにいた。

 ユリウスは冷静に見えた。少なくとも、ララよりはずっと。


「悪くないってことは、やっぱり君が何かしたんだな? 帰ってきてから、ずっと様子がおかしいと思っていたんだ」


 この土地が再びミアズマランドと化してから、ユリウスは剣を持って戦ったり、指示を飛ばしたりと忙しそうだった。しかしこの現象に思い当たることがあったのか、先ほどからララを問い詰めて、情報を吐かせようとしていたのだ。


「……ララは、ユリウスとメリーアンさんのためを思って行動しただけ」


(そう、そうよ。こんなことになるなんて、ララは知らなかった)


 ──メリーアンを呼び出せると聞いて、フードを被った人物に渡されたものを持ち帰ってきた。そしてそれを、指定の場所に埋めただけなのだ。たったそれだけで、この地は再びミアズマランドとなってしまった。


「何をしたんだ? 今ならまだ間に合う。頼むから教えてくれ。せめて、聖女の力でこの土地をもう一度浄化して欲しいんだ」


 ユリウスの必死の願いを聞いたララは、思わず叫んでいた。


「もうできないの! 浄化なんて、もう無理なのよ!」


「……なぜ? 君はリルレナの聖女で、厳しい浄化の旅をこなしてきたじゃないか。それなのに、一体どうしてできないんだ」


「……わからないわ。わからない」


 今のララは、すっかり聖女の力を無くしてしまっていた。もう治癒の力さえも使用することができない。


「全部、全部おかしいわ。ララは大きな力の流れに身を任せていればいいだけだったのに。ララの想いが、リルレナの想いだったのに! ララはリルレナの化身だったのに!」


 溜まっていた鬱憤が爆発してしまう。


「ララは悪くない! 元を辿れば……全部メリーアンさんのせいじゃない!」


「そんなわけないじゃない! 流石に聞き逃せないわよ!」


 部屋に鋭い声が響いた。


「誰のせいって、間違いなくあんた自身のせいなんだろうな」


 声がした方に視線を向ければ、部屋の入り口には、肩を怒らせたメリーアンとエドワードが立っていた。



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