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ララからの手紙

メリーアンさんへ


 大切なことを手紙でお伝えする無礼を、どうぞお許しください。

 ここ数ヶ月、私はユリウスと愛を育んできました。

 周りもそれを祝福してくれていたと思います。

 ですが、クロムウェル領に来てから、それは誤解だったということに気づかされました。私は、領地の皆さんの態度を見て、メリーアンさんにとてもひどいことをしてしまったのだとやっと気づいたのです。

 メリーアンさんとは、とうとう和解することができませんでしたね。

 それに私には分かります。

 ユリウスが、まだあなたを愛しているということを。

 あなたがまだ、ユリウスを愛しているということを。


 私とユリウスが出会ってしまったのは、大きな過ちだったのです。ですがどんなことでも、悔いるのに遅いことなどありません。

 もう一度、正しい道に戻れば良いのです。

 

 だから私、メリーアンさんに全部お返ししようと思います。


 あなたの大切な人形を持って、クロムウェル領でお待ちしています。

 卑怯なことをしてしまって、ごめんなさい。

 でも、来てくれますよね?

 あの人形は、あなたが命に換えても守らなければならないものだと聞きました。


 あなたとどうしても話し合いたい。

 卑怯な私を、どうぞお許しください。


 ララ



「どういうことなの、これ……」


 メリーアンは呆然として、震えてしまった。


「おい、一体どんな内容だったんだ?」

 気づけば、いつの間にかエドワード以外の夜間警備員たちが、控え室に集合していた。真っ青になったメリーアンから、ネクターが手紙を奪いとる。


「……」

 目をざっと通したネクターは、声に出してそれを読み上げた。

 そばにいたミルテアが青くなる。


「メリーアンさん、もしかしてララさんが……?」


「そう、みたい……」


(一体なんなの? 返すって、どういうつもりなの?)


 もうメリーアンはわけがわからなかった。

 どうも手紙によれば、ララはユリウスと出会ったことを後悔していて、メリーアンにユリウスを返す、というようなことを言っているようなのだが……。


(訳がわからない。一体何を考えてそんなことを言ってるの?)

 あれほどユリウスのことが好きそうだったのに。

 確かにエドワードに色目を使っていたような気もするのだが、そもそもララは今妊娠しているのだ。ユリウスと別れたとて、完全に縁を切れるわけではない。


「どういうことだい? 人形が盗まれたって……?」


「外で何か騒いでいたようだが、関係があるのか?」


 トニとオルグが首を傾げた。

 ネクターは不機嫌そうな顔をしている。


「おい、小娘。お前の事情はよくわからないが、この手紙の話が正しいなら、妖精の展示室の人形が盗まれたってことじゃないのか?」


「……みんな、本当にごめんなさい」


(私のせいだ……私の事情でみんなを巻き込んでしまった……)


 頭がぐるぐるして、メリーアンは倒れそうになってしまった。

 それでもここで倒れるわけにはいかない。

 これ以上迷惑をかけるわけには、いかないのだ。

 メリーアンは、手短に事情を説明した。


「おい、それは……」


 ネクターが口を開く。


(全部私のせい、よね……)


「そのクソ女を今すぐ火炙りにしろ!!!!」


「へっ」


 思いのほか強いネクターの怒りにメリーアンは驚いてしまった。


「少なく見積もっても頭がおかしいぞその女は!」


「そーだそーだ! いろんな意味でドロボー女ー! せめて人形を返せー! 元彼はいらんー!」


 ドロシーもぴょんぴょん飛び跳ねて、怒りを露わにする。


「ふむ。どんな事情があれ、人のものを盗むのはいかんな。おまけにそれを出しにメリーアンを誘き寄せようなんて」


 オルグが落ち着き払って言った。


「まあ、俺もネクターに賛成だ。イカれた女だな、そいつは」


「みんな……」


 メリーアンは驚くと同時に、どこかホッとしていた。


(私、もっと責められるかと思ったのに……)


「メリーアンさんは何も悪くないですよ。悪いのは博物館のものを盗んだあの人です」


 メリーアンの心を読んだかのように、ミルテアがそう言ってメリーアンの背を撫でてくれた。

 まさかユリウスの浮気がここまで大ごとになるなんて。


(一体どうなってるわけ……)


 ネクターはひどい言い方をしているが、メリーアンはその通りだとしか思えなかった。ララが何を考えているのか、もうメリーアンにはさっぱりわからない。


(でも……どうしてララが博物館の人形を盗んだの?)


 メリーアンはふと気になった。

 それと同時に、いつの間にか外へでていたトニが戻ってきた。

     *

「みんな、おかしなことがあるんだよ」


 そう言って、トニはリリーベリーの偽物の人形を持ってきた。


「見て、これ。かなり精巧な人形だ。よくメリーアンは気づいたね?」


「だっていつも見ていたもの。本物は、もっと鮮やかな色の宝石に、繊細なレースで編まれた羽根をしていたわ」


「……こっちもかなり質は良さそうだが」


 オルグが人形を持ち上げて、あちこちを観察する。

 トニが言った。


「そこなんだよ。そもそも、なんでそのララって人は、メリーアンがこの人形を大切にしているって気づいたんだい?」


「……私、あの人たちに自分が博物館で働いている、なんて言った覚えもないのよ」


 誰かから聞いたのだろうか。

 その可能性はなくもないが、それにしてもだから人形を盗むなんて、考えがとっぴすぎる。


「イカれた女がやりそうなことだ」


 ネクターが鼻息を荒くして言った。


「でもさ、考えて見なよ。今の状況だと、まるでララが、夜の博物館の秘密を知っているみたいじゃないか」


「……」


 メリーアンの頬を冷や汗が伝った。

 トニの言う通りだ。

 しかしこの博物館の秘密は、国家機密。

 夜間警備員、幾数人かの博物館職員、そして王家とそれに連なるものしか、この博物館の秘密を知っているものはいない。


「……いちいち人形を盗んで偽物まで用意するなんて、そのララとかいう奴は、そこまで知恵が回る女なのか?」


「……あの人は、そういうことは考えない、と思うけど」


(じゃあ……じゃあ誰が考えたっていうの?)


 メリーアンが顔を上げると、緊張したような面持ちのトニと目があった。


「そうなんだよ。だってその人、こんなに精巧な人形をすぐに用意できる? 人形を奪うことがメリーアンにとってクリティカルなダメージになることが、想像できるのかな」


「……」


「だからもし、ララって人がその作戦を考えたんじゃなかったとしたら……」


「……他にララを操っている人がいるってこと?」


「そういうこと」


 全員の顔が青くなった。

 顔色が赤くなったり青くなったりと、忙しい日である。


「でも一体、誰がそんなことを……どうして?」


「わからない。でも人形が盗まれた以上は、もう僕たちだけではどうしようもないよ」


 オルグも唸る。


「そうだな。ちょっくらエドワードが来るのを待ってみるか」


 エドワードは今、クロムウェル領のために動いてくれているのだ。

 それだけでも負担だろうに、さらにややこしいことになってしまった……。


(エドワード……)


 メリーアンは不安な気持ちを抱えながら、首にぶら下げたフェーブルの鍵をぎゅ、と握ったのだった。


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