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どうしてあの人が ララの葛藤①


 どうしてあの人が、あんなに幸せそうな顔をしているの?

 私の方が、幸せだったはずなのに。


     *


「どうやら私の役目はここまでのようです」


 目の前で深く頭を下げた侍女──ローザを見て、ララは困惑してしまった。


「どうして? ローザは私に尽くすために存在していると言ったじゃない」


「私は、リルレナ神の聖女を守護するのがその役目でした」


 オリエスタに向けて出発する前日。

 ローザは突然、ララにそんなことを切り出した。

 あまりに突然のことだったので、ララも頭が追いつかなかった。


(ローザの言い方じゃあ……まるで私が、もう聖女じゃないみたいじゃない)


 ララの頬に一筋の汗が流れた。


「それでは、今まで通り私を守って?」


「……申し訳ございません。私はレジェの意思で動きますので」


 ララが何を言っても、ローザは聞かなかった。

 まさかそんなすぐに出て行ったりはしないだろうとその日は話を終えたのだが、ローザは書き置きを残してあっさりとこの家を去ってしまったのだ。メリーアンがそうしたように。


 ララは焦っていた。

 ローザが出て行ってしまったこともそうだが、何より彼女が出て行ったことでより深まった疑念があったからだ。


(私……だんだん、癒しの力が弱まっている……?)


 ララは自分の震える手を見た。

 最初は気のせいかと思った。

 けれどここへ来てからというもの、だんだんと聖女の力が弱まっているような気がするのだ。治癒の術はまだ使用できるが、もう一度ミアズマランドを浄化できるかというと、うまくできないような気もしている。


(妊娠しているせい? それとも、この土地の人たちが、敵意をむけてくるから?)


 ララは自分自身には原因はないと思っていた。

 心当たりがないのだ。

 力を失う原因など。


 考えられるのは、胎児がいることによって神聖な力が乱されているかもしれないということだった。

 だがもしその仮定が正しいとすれば、いずれ力は戻ってくるはず。

 恐ろしいのは、出産後も力が戻ってこないことだった。


(ローザの、あの態度……)


 彼女は今まで、まるで神を崇めるようにララに接していた。

 ララもそれが当たり前だと思っていたのだ。

 けれどあまりにもあっさりと、彼女はいなくなってしまった。


(そんな……まさか、ね)


 ここへ来てからというもの、おかしなことが続いている。


(大いなる流れも、阻害されてしまっている)


 だが。


(メリーアンさんとさえ、話をつければ……どうにかなるはずよ)


 力も、ローザも、みんな帰ってくるはず。

 ララはそう思って、ぎゅ、と拳を握った。


「ララ? さっきからどうしたんだ?」


「……」


 馬車の中で黙りこくっていたララに、ユリウスが首を傾げた。


「顔色が悪いみたいだ。少し降りて休憩しよう」


「いいの! 早く街に行きたいから」


 馬車を止めようとするユリウスを遮って、ララは首を横に振った。


(街に行ってメリーアンさんを見つければ……彼女と何か話せば、この事態もどうにかなるはず)


 領民たちに意地悪をするのをやめるように言ってもらえれば、少しはあの生意気な人々もララのために動くだろう。


 実際のところ、領民たちは自分の仕事を全うしているだけで何もララに意地悪をしているわけではなかったのだが、ララの頭の中ではそういうことになっていた。

 だって今まで、ララのために動かない人はいなかったのだから。


(とにかく、メリーアンさんにお願いしてみるわ)


 心配そうなユリウスの顔にも気づかず、ララは窓の外を睨みつけていた。


     *


 メリーアンはすぐに見つかった。

 街の人に特徴を伝えると、大学、神殿、博物館のあたりでよく見かけると教えてくれたのだ。

 特に目立った容姿をしているわけではないが、街の人々はメリーアンをよく記憶していた。それだけ彼女は注目を浴びていたということなのだろう。


 なんとなく立ち寄った大学のカフェテラスで、ララとユリウスはメリーアンを発見した。

 同い年くらいの少女と何やら話し込んでいる。少女は突然立ち上がると、パッと駆けて行った。ちょうどいいと思い、ララはメリーアンに近づく。


 久しぶりに見たメリーアンは、思ったほどやつれておらず、それどころか以前よりもいきいきしているように見えた。化粧っ気もないし、美しいドレスをきているわけでもないのに。


 けれどやはりララの美しさは注目を浴びるようで。

 話している(というか、ララが事情を大声で一方的に喋っている)うちに、周りの視線がララに寄ってくる。ララは気分が幾分か良くなった。


(そうよ。今までだって、ずっとそうだった)


 いい気分になりつつも、警戒して話そうとしないメリーアンに少し苛立つ。

 

(何も答えないのは、やましいことがあるから?)


 などと思っているうちに、予想外のことが起こった。

 まるでメリーアンの危機を察知したかのように、美しい男性がこちらへやってきたのだ。

 ララは息をつめた。


(なんて美しい人なの……)


 


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