外伝(韓遂伝 〇〇一) 涼州の反逆児
~~~胡族の村~~~
「戦争だーーッ!! 戦争だろうがこんなもん!」
「お、落ち着け北宮伯玉」
「誰が落ち着くものか!
このまま手をこまぬいていれば、俺たち胡族は皆殺しだ!
だったらその前に漢民族を皆殺しにしてやる!!」
「だから落ち着けと言っている。
私も戦争には賛成だ。だが頭に血が上っていては勝てん」
「なんだ、お前も賛成なのか。それならそうと早く言え。
何か考えがあるようだな」
「ああ。いくら無能で横暴といっても相手は漢の刺史だ。
州兵だけでも我々より多いのに、討伐軍も差し向けられるだろう」
「まだるっこしい! 結論を言え!」
「我々は裏方に回り、有力者を盟主に擁立する」
「は? 意味がわからん! ちゃんと説明しろ!」
「つ、つまり漢に不満を抱いているのは我々胡族だけではない。
周辺の豪族はおろか、漢の官民にも不平分子は多い。
だが我々が蜂起しても味方になってくれるのは胡族の仲間だけだ」
「だから名声や人望のある有力者を盟主に立てて、
豪族や官民を巻き込み反漢連合軍みたいなものを作るってわけか!」
「そういうことだ。すでに何人かに目星も付けてある。
早速、接触を図ってみよう」
~~~涼州~~~
「あれ? もしかして勘違いしてる?
違う違う、詐欺とかじゃないから。
みんなで集まって、すげえことしようぜって話だから!」
「むう……。確かに悪い話ではないと予も思うのだが」
「だったら迷うことなんてないじゃん!
そんなコスプレじゃなくてさ、本当の王様になるチャンスだぜ!」
「だが勝算はあるのか? 刺史だけではない。
漢の国そのものを相手にすることになるのだぞ」
「俺らもあの刺史サマの横暴には頭に来てんじゃん。
民のみんなも圧政に苦しんでてさ、餓死者まで出てるし。
だったら俺たちが集まって、この国を丸ごと変えるしかないっしょ!」
「よ、よし。そうだな。民が望むならば予も立たねばなるまい」
「そうそう、胡族と一緒にさ、すげえこと始めちゃおうぜ!」
~~~涼州 金城~~~
「俺を反漢連合軍の盟主に擁立するだと?
寄ってたかって縛り上げて、なんのつもりかと思ったら、
冗談にも程がある」
「正確にはお前の他にもう一人いるんだが……」
「予定通りに現れなかったから捕縛できなかった」
「フン、あいつのことか。
確かにあいつが盟主の座に収まるなら、上手く行くかもしれんな」
「この涼州で最も名声を集めているのがお前とあの男だ。
それに加えて、漢の官吏をしていた宋建と王国も賛同してくれた」
「異民族に俺ら豪族、さらに漢の官吏か。
どうやら本気で国を転覆させるつもりらしいな。まるで黄巾の乱だ」
「黄巾賊なんてお遊びと一緒にするな!
殺られる前に殺る、俺たちの覚悟は本物だ!」
「断ればこの場で殺されるだけ。
俺も漢に不満が無いわけじゃない。いや、不満だらけだ。
いいだろう、その賭けに乗ってやる」
「話のわかる奴で良かった。そうと決まれば――」
「待て! ただし条件がある。
あの男を必ず連れてこい。
あいつが、韓遂がいなければ勝ち目はない」
「ずいぶんと韓遂の実力を買っているんだな。
噂は聞いているが、そんなに腕っ節が立つのか?」
「腕は大したことない。頭もそれなりだ。
だが、あいつは生まれながらの反逆児だ。
反乱軍を率いるにはこれ以上ない人材だ」
~~~涼州 金城~~~
「はーっくしょん!」
「お風邪を召されましたか」
「いやいや、寒いのは確かだけど、
辺章さんが噂してるんですよきっと」
「また遅刻されましたからな」
「えへへ。辺章さん怒って帰っちゃったみたいだね」
「む……気をつけられよ。何者かが我々を見張っています」
「おーっと、怪しい者じゃねえぜ。
隣の奴はすげえ怪しいけどさ。俺は大丈夫。ぜーんぜん怪しくない」
「韓遂であるな。予は待ちくたびれたぞ」
「あ、その派手な服は見覚えがありますよ。
ええと、確か王国さんだったかな」
「いかにも。予が王国である」
「漢の官吏が何用だ。辺章殿はどこだ」
「だから怪しくねえって。俺もこう見えて官吏だから。
それに辺章さんも俺らに協力してくれることになったんだよ。
だからさ、韓遂さんもさ、仲間になって欲しいなあって」
「はは~ん。噂に聞いてますよ。
反乱軍を作ってる連中がいるって。
さてはぼくも誘いに来たんですかね?」
「よ、よく知っておるな」
「話が早くて助かるぜ!
仲間になってもらえるよな? なあ?」
「ええ、いいですよ。ただし条件があります」
「お前も条件を付けるのか。辺章と同じことを言うのだな」
「辺章さんも?
じゃあきっと同じお願いだと思いますよ。
ぼくをね、反乱軍の盟主にしてくれるんだったら、お受けします」
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かくして胡族の二人を皮切りに、反乱軍が結成された。
黄巾の乱の鎮圧から間もなく、
涼州でも戦火が広がろうとしていた。