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アイコン三国志外伝  作者: 小金沢
蜀の章
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14/16

掌編(何祇伝)      一人でしゃべる男

~~~益州(えきしゅう) 何祇の邸宅~~~



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「おや。これは珍しいお客さんだ」



挿絵(By みてみん) 張嶷(ちょうぎょく)

「………………」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「それにしても久しぶりだねえ。10年、いや20年ぶりかい?

幼馴染と言っても大人になったら他人同士、すっかりご無沙汰だ。

まあそんなとこに突っ立ってないで上がんなさいよ」



挿絵(By みてみん) 張嶷(ちょうぎょく)

「結構」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「上がりたくないって? なんか事情がありそうだね」



挿絵(By みてみん) 張嶷(ちょうぎょく)

「依頼」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「何か頼みがあると。お前さんあいかわらずその二文字縛りをやってるんだね。

まあ二文字でもしゃもじでも伝わるなら大丈夫だ。

幼馴染のよしみでなんでも話してくださいよ」



挿絵(By みてみん) 張嶷(ちょうぎょく)

「借金」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「これはわかりやすい。この世で一番わかりやすい二文字だね」



挿絵(By みてみん) 張嶷(ちょうぎょく)

「切望」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「切望するほど金に困ってると。

いったい何があったんだい。

お前さん、酒や女で身を持ち崩す人じゃないだろうに」



挿絵(By みてみん) 張嶷(ちょうぎょく)

「病気」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「病気か。そりゃなかなか避けようがない。雨や雷と一緒だ。

でも見たところ、どこも悪そうな感じはしないけど」



挿絵(By みてみん) 張嶷(ちょうぎょく)

「家族」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「お前さんじゃなく、家族の誰かが病気になったのか。

そりゃ大変だ。よしわかった! いくらでも融通しようじゃないか」



挿絵(By みてみん) 張嶷(ちょうぎょく)

「利息」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「何を水臭いこと言ってるんだい。困った時はお互い様、

それも離れていたって幼馴染じゃないかい。

返せる時に返せるだけ持ってきてくれればいいよ」



挿絵(By みてみん) 張嶷(ちょうぎょく)

「…………感謝」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「それじゃあちょいと待ってておくれよ。

あいにくと今は手元が不如意でね。

金になりそうな物を見繕って、質屋に駆け込んでくるよ。

だから時間が掛かりそうなんだ。遠慮せず上がって待っといてくれ」



~~~錦屏山(きんべいさん)~~~



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「やれやれ、あれだけ御礼なんかいらないって言ったのに律儀な男だね。

地図と紹介状なんて押し付けやがって。あたしをどこに行かせようってのかね。

それにしても険しい山道だ。こんなとこに誰が住んでるんだか。

おーい。誰かいますかい?」



挿絵(By みてみん) 紫虚上人(しきょしょうにん)

「………………」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「おやまあ、また無口なお人だよ。

張嶷さんの友達なだけはあるね」



挿絵(By みてみん) 紫虚上人(しきょしょうにん)

「友人ではない」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「よかった、二文字以上はしゃべってくれるようだ」



挿絵(By みてみん) 紫虚上人(しきょしょうにん)

「何を占って欲しい」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「おお、誰かと思ったら占いをやる人だったのか。

張嶷さんはあの通りろくに説明してくれないからね。

わけもわからずここまで来たんだよ」



挿絵(By みてみん) 紫虚上人(しきょしょうにん)

「何を占う」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「ううん、急に言われても困ってしまうな。

特に占ってもらわなくてもいいんだが……」



挿絵(By みてみん) 紫虚上人(しきょしょうにん)

「義理は果たさねばならぬ」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「仙人みたいな人でも義理人情を感じるんだね。

それにしても仙人に義理があるなんて張嶷さんはすごいな」



挿絵(By みてみん) 紫虚上人(しきょしょうにん)

「………………」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「はいはい、占いたいことだったね。

そんな恨めしい目で見ないでおくれよ。

ええと、なんにしようかね。

そうさなあ……昨日見た夢とかでもいいかい?」



挿絵(By みてみん) 紫虚上人(しきょしょうにん)

「話せ」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「あたしの家の裏庭にね、井戸があるんだ。

その井戸の中から桑の木が生えてきたっていう夢を見たんだ」



挿絵(By みてみん) 紫虚上人(しきょしょうにん)

「寿命だ。

桑という字は十が4つと八が1つと分解できる。

井戸に木が生えれば植え替えることになる。

お前が48歳で死ぬことを表している」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「ははあ……。それはなんともはや。

聞きたくなかったような、聞いて良かったような」



挿絵(By みてみん) 紫虚上人(しきょしょうにん)

「天命には逆らえない」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「まあこんな戦乱の世の中だ。

若者や子供も死んでいくのに、48まで生きられれば御の字だろう。

残りは……ええと12年くらいかな。大事に生きるとするよ。ありがとさん」



~~~益州 成都(せいと)~~~



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「なに、また視察が来るって?

この暑いのにご苦労なことだね。

この前来た馬謖(ばしょく)さんだろう。

また鼻薬を嗅がせてやれば、良いように報告してくれるだろうさ」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「馬謖じゃないです。私です」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「…………こりゃどうも」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「良いことを聞いたです。帰ったら馬謖を収賄でとっちめるです」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「いやあ、さっきのは軽い冗談というかなんというか。

よしてくださいよ。冗談で馬謖さんがとっちめられたら寝覚めが悪いや」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「安心するです。お前もとっちめるです。

怠けてると聞いたです。本当なら殺すです」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「な、怠けてるだなんてそんな滅相もない」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「証拠を見せるです。収監してる囚人は6人いるです。

全員の罪状と処罰を30秒以内に答えるです。1、2、3」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「右から暴行、傷害、窃盗、暴行、殺人、窃盗。

棒打ち10、20、戒告、棒打ち10、死罪、棒打ち20」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「28、29……。

一人目の窃盗は戒告で二人目は傷害と同罰の理由はなんです」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「一人目は初犯で二人目は重犯、

それも故意ではないといえ被害者に怪我をさせています」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「わかったです。命拾いしたです。帰るです」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「…………やれやれ、なんとかしのげましたかね。

こんなこともあろうかと、とっくに処罰の決まってる囚人を残しといたのと、

カンペを用意しておいた甲斐がありましたよ」



~~~数年後 益州 広漢(こうかん)~~~



挿絵(By みてみん) 楊洪(ようこう)

「またサボっているのか」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「いやいやいや、サボってるだなんて人聞きの悪い。

楊洪さんが見えるまでは働いてましたとも。

たまたまこうちょいと一呼吸入れた時に、ちょうど来られた次第で」



挿絵(By みてみん) 楊洪(ようこう)

「よだれの跡を拭いてから言い訳するのだな。

その怠け癖さえなければもっと出世できたろうに」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「下手に出世したら忙しくなって、おいそれと怠けられませんからね。

そんなのまっぴら御免ですよあたしゃ」



挿絵(By みてみん) 楊洪(ようこう)

「だがおかげで私はいい迷惑だ。口さがない者たちは、

お前の出世を私が妨害していると勘違いしている」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「はあはあ、あたしも耳にしましたよ。

なんでも楊洪さんがあたしにこう聞いたそうですね。

おい何祇、どうしてお前の馬は走らないんだい?

そしたらあたしがこう返した。

そりゃ当たり前だ。乗ってるあんたが走らせないんだから!」



挿絵(By みてみん) 楊洪(ようこう)

「フン、つまらん話だ」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「まったくですよ。そもそも楊洪さんは馬になんて乗れやしない。

筋金入りの勉強嫌いで、馬に乗る勉強も練習もしたくないってんだから」



挿絵(By みてみん) 楊洪(ようこう)

「乗馬ができないのはお前も同じだろうが」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「あたしはそもそも馬に乗ろうなんて発想がありませんや。

だいたいなんのために馬に乗るんです?

急ぐためでしょうが、あたしは生まれてこのかた急いだことがありゃしない!」



挿絵(By みてみん) 楊洪(ようこう)

「威張ることではあるまい」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「だからあの話もこう変えるべきですよ。

楊洪さんがあたしにこう聞くんだ。

おい何祇、どうしてお前の馬は走らないんだい?

そしたらあたしがこう返す。

しっかりしてください、馬なんてどこにもいやしませんよ!」



挿絵(By みてみん) 楊洪(ようこう)

「私がただの馬鹿になっているではないか」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「おや驚いた。馬だけじゃなく鹿もいたのか!」



挿絵(By みてみん) 楊洪(ようこう)

「………………」



~~~数年後 益州 広漢~~~



挿絵(By みてみん) 治無載(ちむさい)

「おい何祇、しっかりしろ!」



挿絵(By みてみん) 蛾遮塞(がしゃさい)

「カシサン、ガンバッテー! ガンバッテー!」



挿絵(By みてみん) 李意其(りいき)

「………………」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「ははは、あたしゃもう駄目ですよ……」



挿絵(By みてみん) 治無載(ちむさい)

「何を弱気なことをぬかしやがる。

お前はまだ若い。48歳だろうが」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「48だから駄目なんですよ。

と言うのもあたしが若い頃に…ごほげほごほ」



挿絵(By みてみん) 治無載(ちむさい)

「無理にしゃべるんじゃない。おとなしくしていろ」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「なんとご無体な。あたしからしゃべりを取ったら何も残りゃしませんよ。

あたしを引き立ててくれた楊洪さんって人もそう言ってました。

そうそう、楊洪さんといえば面白い話があってね、

ある時、あたしにこう聞いたんだ。おい何祇、お前の馬はごほげほごほ!」



挿絵(By みてみん) 治無載(ちむさい)

「だからしゃべるなと言ってるだろ!」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「やれやれ参りましたね。あたしの親はお前が黙る時は死ぬ時なんだろうって、

よく言ってましたがごほげほごほ!!」



挿絵(By みてみん) 蛾遮塞(がしゃさい)

「カシ…………」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「あたしゃ幸せ者だ。羌族のあんたらと仲良く出来て、

好き放題しゃべりながら死ねるなんてね。

口から先に生まれて来た身にゃあこれ以上ない果報ですよ。

だからどうか最後まで聞いててくださいな」



挿絵(By みてみん) 治無載(ちむさい)

「わかった。もう何も言うまい。

異民族の俺たちをお前は平等に扱ってくれた。

お前にならと俺たちは従ったんだ。お前の頼みならなんでも聞く」



挿絵(By みてみん) 李意其(りいき)

「………………」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「ところでその、さっきから黙って横に座ってる爺様は誰ですかい?

あたしにだけ見える死神ってやつですかね」



挿絵(By みてみん) 治無載(ちむさい)

「ああ、一言もしゃべらないからよくわからんが仙人らしい。

たぶん見舞いに来たんだろう」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「仙人ですって。するってえと張嶷さんに紹介された……。

そういえばあの人の名前も聞いてなかったな。

たぶんあの仙人の知り合いなんでしょう」



挿絵(By みてみん) 治無載(ちむさい)

「あんたは羌族だけではなく仙人にも慕われてるんだな」



挿絵(By みてみん) 何祇(かし)

「恐縮です。そうそう、こんなあたしにもね、無口な友達がいたんだ。

張嶷さんっていう人でね。これがもう筋金入りの極端な無口で、

なんせ一度に二文字しかしゃべらない。いや冗談じゃなくて本当なんだ。

それであたしがある時ごほげほごほ――」



~~~~~~~~~



かくして何祇は一人でしゃべり続けた。

その裏表のない性格は羌族にも慕われ、

彼のいるところ、賑やかな声が絶えることはなかった。

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