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[23]出会った二人

俺は列車ごと海に落ちた。そして着水時の衝撃で意識を失った。


あ、死んだ。その時はそう思った。


だが、俺は生きていた。


次に眼を覚ました時、俺は浜辺に横たわっていた。


「……」


空が青い。あとカモメと波の音がうるさい。というか、


「俺、生きてる?」


思わず疑問形。だって密室状態の列車に閉じ込められたまま海に落ちたんだよ俺は?生きている方が不思議だと思ってしまうのはごくごく自然な事だよ。


「あれかな?凄く都合のいい奇跡でも起こったのかしら?」


とか考えてみたが俺一人では答えなど出るわけがない。


とりあえず生きているならそれはそれで今後の事を考えなくてはな。


「って、今後の事ったって……」


と、俺は横たわったまま大の字になるように手足を広げた。


「ん?」


そしたら右手になんか当たった。えらく柔らかい何かが。


なんだろう?と思って俺は右を向いてみた。


そしたらなんとびっくり女の人が横たわっていたのですよ、はい。


で、俺の右手はその女の人の胸をね、そう胸に触れていたのです。


不可抗力です。これは事故なのです。私は無実です。


とか考えている間になんで手を離さなかったのかとか後になって考える事になる訳よこのアホな青少年は。


だってね、


「ん……んんっ?」


女の人がおもむろに目覚めた訳よ。そしたらまず当たり前だけど自分の隣に横たわっている男がなぜか自分の胸部に手を置いている光景を目にする訳よ。


もう警察沙汰よ平成日本ならね。いや平成でなくともそうか。


「な……っ」


「いや、あの、これはどうにも私にも分からない事なんですがいつの間にやらというかですね?」


これが青少年の最後の言葉となった。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「はぶれん!」


べちこーんと。これ以上ないというくらいに教科書通りの平手打ち一発。業界によってはご褒美なんだろうが俺はその業界にはいない。残念。


「ぐ、ぐふぅ……っ」


平手打ちを受けた勢いのままに浜辺をごろごろと転がる俺。を赤面して胸を手で押さえながら親の敵を見るような厳しい目で俺を見下ろす銀髪の女の人。


……銀髪?あれ?というか俺この人見たことある?


「せ、せっかく助けてあげたっていうのに、その仕返しが、その、あれよ、こういう、やらしい事?っていう訳!ふざけんじゃないわよ!この下半身脳みそ!」


ひどい言われようである。


「というか、え?俺あんたに助けられたの?」


「そうよ。この浜辺に打ち上げられていたのを見つけたから、その、あれよ、助けたのよ。そうよ!あれは人命救助だったのよ!私だって必死だったのよ!だからノーカンよノーカン!」


なんだか頼んでもいないのにやかましく喚き立ててくる。なんなんだこの人は。なんだよノーカンって。


「あれはそういうんじゃないんだから……」


ぶつくさと言いながら口元を手で押さえている。よく分からん。


それにしてもこの銀髪の人。本当にどこかで……。


「あ」


思い出した。この人はソニードの都でファミを連れ去った女だ!


「お前あの時の誘拐女か!」


「ひ、人聞きの悪い事言わないでよ。いや、まぁその通りなんだけど……」


一気にトーンダウン。やましい部分があるというのは自覚しているみたいだな。


「あれ?というかお前なんでこんな所にいるんだよ?ウインド達とグルなんだろ?お前も」


「裏切られたのよ。あの涼しい顔した下衆野郎にね」


「下衆野郎って、ウインドの事かよ」


「そうよ。ていうか、まだ名乗ってなかったわね。私はスーファ・リーコン。ファミの実の姉よ」


「へー、って……はぁ!?」


いきなりの衝撃情報に思考が一瞬フリーズする。


「あいつに姉妹なんていたのかよ」


「その様子だとあの子は言ってなかったみたいね。まぁ当然かもね、家族全員死んだと思っていたくらいだからね」


スーファの顔に影が落ちる。


「どういう事なのか、説明してもらえるんだろうな?」


という俺の問いに、スーファは一拍間を置いた後、短く頷く。


「もちろん、こうなった以上私が情報を秘匿しておかなければならない理由はなくなったわ。知っている事は全部話す」


「その方向でよろしく」


「ええ、まずは私についてだけど」


と、スーファからの情報提供が始まろうとしたその時、彼女の声を遮るように爆音が響く。


「な、なんだぁっ?」


「空よ!」


スーファが指さす先、上空を見ると、爆音の正体が俺達の上空を通過するところだった。


「あれは、戦艦っ?」


クラッシュ達の一件で乗り込んだそれとほぼ同型の戦艦だった。


「あれはセガールの、しかもあの方向は……」


スーファは苦々しく呟く。


「ちょい待て、方向って、あれはどこに向かっているのか分かるのか?」


「ええ。あの方向は間違いなくソニード王国の首都へと向かっているわ」


「はぁっ!?え、なんでよその戦艦がソニードに向かってんの!」


「ウインドの目的はセガール、エニック、ソニードの大陸三カ国の統一支配。その野望がついに実行段階にきたのよ」


スーファは真顔でとんでもない事を言いやがる。


「て事はあれか。あの戦艦はソニードに戦争をしに行くって事かよ!」


「その通り。しかもウインドは事前にヒポリトを派遣している。ソニードに勝ち目はないわ」


「ヒポリト?ってあれか。あのエセ関西弁の魔術師とかいう奴か」


スーファは首を傾げつつぎこちなく頷く。


「か、かんさいべん?……ま、まぁヒポリトは万物を固めて像にしてしまう超高位魔術を使いこなす大陸随一の魔術師。下手すればあいつ一人にソニードは負けるわ」


「マジか!そんなやばい奴だったのかよ。てかそういう事ならこんなところでのんびり駄弁っている場合じゃねぇ!」


「ソニードに戻るの?」


「その通り!あそこには世話になった連中とか色々いすぎなくらいにいるんだ。ファミとタマを助ける前にそっちをどうにかする!多分その方が現実的だろうしな」


天秤にかけるような真似はしたくないが、ファミがウインドのホームグラウンドであるセガール帝国に到着してしまっていたとしたら、俺一人の力では救出はほぼ不可能だろう。だったらソニードの戦いに加勢して味方を増やした方がいいだろう。


「そうでしょうね。でもどうやって戻るの?歩きとか言わないわよね、何日かかるか分からないわよ」


とてつもなく痛いところを突かれた。そうだよ、移動手段がないんだよ。


「でも、だとしても、ここでじっとしているなど出来ない!そうだ!俺は例え歩きであろうとも行くぞ!」


「……発言だけ聞いたらただのアホね」


スーファが呆れながらため息をつく。


「じゃあ、とりあえず事情が変わったから俺はソニードに戻る。お前の話は後でじっくりと聞かせてくれ!じゃ!」


と、俺は勇んで浜辺を歩きだす。が、


「ちょっと待ちなさいよ」


呼び止められた。


「なんだよ?」


振り返ると、なぜか不満そうな顔でこちらを見るスーファの姿。


「この状況ではい行ってらっしゃい、なんて素直に送り出す馬鹿がいるとでも思ってんの?私も行くわ」


「え?お前も来るの」


「何よ?駄目なの?」


「いや、正直かなりありがたいけど」


そう。俺一人では戦力的にはかなり不安な面があった。という意味でスーファが一緒に来てくれるというなら凄く助かるが。


「何を企んでる」


「何も企んでないわよ。もうセガールに協力する理由もないし、むしろセガールには恨みすら生まれたわ」


スーファは力強い眼差しを向けてくる。


「それに、私だってファミを、妹を助けたい。すぐに信じてくれなんて都合のいい事は言わないわ。でも、あなたに敵対する意思はないという事は分かってほしい」


「まぁ、その言葉を鵜呑みに出来るほど俺も短絡思考ではないが……」


どのみち情報が足りない。スーファを信じるべきか否か。もう少し話を聞きたいところだが。


と、俺が考えていると、ふと視界にそれが映った。


「……なぁ」


「なに?話なら行きながらでも出来るし、早く行きましょう」


「いや、その行くっていう話なんだが、すこし光明が見えたかもしれん」


俺は段々と近づいてくるそれらを見ながら言う。


「は?何よ光明って……ってぇ!?」


俺の視線を辿ったスーファの顔が一瞬で驚きに染まった。


まぁ、そりゃそうだろうな。


いきなり目の前に熊と猪とヘラジカと狼とオオワシが現れれば人間誰しもそうなるよな。


「な、何!魔物!こんな時にっ」


「待て待て。安心しろ、こいつらは味方だ」


俺は臨戦態勢に入ったスーファを制しつつ言う。動物チームのリーダー格である熊も応じるように鼻息をもらす。


「み、味方っ?この魔物達が?」


「そうそう。で、光明が見えたって言ったろ?こいつらがその光明です」


「え、ええ?」


なんのことやらと状況についていけていないスーファに、熊が近寄る。


「な、なにっ」


そしてべろん。とスーファの頬を舐めた。


「う、うひゃぁっ!」


スーファはよほど驚いたのか飛び跳ねて尻もちをつく。


「な、なにすんのよっ!」


スーファは抗議の目を熊に向けるが、しかし当の熊は頭を低くして目を細めている。


「そいつはファミが可愛がっていた熊だからな。姉であるあんたにも同じ匂いを嗅ぎとったんじゃないか?」


「え?ファミが、この熊の事を……」


言われてスーファはじっと熊の顔を見る。


「確かに、言われてみれば愛嬌のある顔をしている、かも」


ふむと頷きながら呟く。とりあえずファミが絡むと割とOKになるみたいだな。


「で、他の奴らはその熊の仲間達だ。こいつらに乗せてもらってソニードまで行くぞ」


「えっ、これに乗るの?」


「そうだぞ。大丈夫、意外に乗り心地いいから」


俺は早速ヘラジカの背に跨る。


「いや、そうは言われても乗った事無いし……」


と言うスーファに対し、熊が「ぶふん」と鼻を思い切り鳴らしてアピール。ほぼ地面に寝そべるようにしてスーファに背中を見せてるし。


「えっと……」


その意図には気付いているのだろうがしかしどこか踏み切れないでいるスーファ。


「いいから乗ってやれよ。どのみち移動手段は必要なんだし」


「そ、そうよね。……失礼します」


熊に敬語を言いながら恐る恐るその背中に乗るスーファ。


「……」


の事をなんか可愛いなと思ったこの青少年めを誰が責められようか。否、責められるはずがない!


「あ、ふかふか……」


スーファが熊の背中を撫でながら満更でもない様子。この辺りは姉妹といえるかもしれない。


「さて、じゃあソニードに行くぞ!」


俺の号令で、動物たちは一斉に駆け出した。


目指すはソニード王国の首都だ。


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