子うさぎのミミ の、はなし
子ウサギのミミは、あさからばんまでおにわにいます。おにわにうえた花のタネを、だいじにだいじにそだてているのです。
ミミのママがひどい病気になったとき、ミミはないてないてないて、目がまっかになってしまったのでした。
ミミのまっかな目を見て、ママがそうっと、一つぶのタネをてわたしました。
「ミミ、このタネを、おにわにうえてちょうだい。そして、だいじにだいじにまもってちょうだい。ママはしんだら、そのたねにやどって、ミミのために花をさかせるからね」
それからしばらくして、ミミのママはしんでしまいました。
ママがしんでも、ミミはあまり、なきませんでした。タネをぎゅっとにぎりしめて、がまんしました。
ママとやくそくしたからです。このタネをまもるのがミミのしめいなのです。
ママのおそうしきがおわると、ミミはおにわにでて、タネをうえました。
りょうてであなをほって、タネを、そっとおきました。やさしく土をかぶせて、じょうろで水をあげました。
ミミは、まいにちまいにち、おにわにいました。ずっとタネをみまもっていました。
はれた日には水をあげて、雨の日にはかさをさしかけて。
そうして一週間もすると、タネから芽がでました。ちいさなミミのお耳のような葉っぱが二まい、ぴょこんとでてきました。
水をあげるたび、葉っぱは、ぐんぐんおおきくなって、くきをふやし葉をしげらせ、ピンクの花がさきました。
たくさんたくさん、さきました。
「ママだわ。ママのお花がさいたわ」
ミミはうれしくなって、花のまわりを、ぴょんぴょん、とびまわりました。
はれた日には水をあげて、雨の日にはかさをさしかけて。
ミミはまいにち、花といっしょにいました。いっしょうけんめい、まもっていました。
ところが、だんだん、花のげんきがなくなってきました。
水がたりないのかしら?日があつすぎるのかしら?
ミミはいっしょうけんめい、おせわしました。けれど花はどんどんしぼんで、ちゃいろくなっていきました。
とうとう花が下をむいてしまったとき、ミミはおおごえで、うわあんうわあんと、なきだしました。
「お花がびょうきになっちゃった!しんじゃうよ!」
ミミはないてないてないて、あんまりないたものだから、とおりすがりのいもむしが、なにごとかと、のぞきにきました。
「ママのお花がしんじゃった」
ミミがなくのをきいて、ものしりいもむしはいいました。
「しんでやしないよ、だいじょうぶ。このまましずかに、みまもっておあげ」
いもむしは、しずかにほほえむと、もりにかえっていきました。
ミミは、なみだをぐいっとふきました。そうして、いわれたとおり、みまもることにしました。
あついあつい夏がおわり、すずしい秋の風がふきました。
ちゃいろくしおれた花びらがおちて、葉っぱもくきも、ちゃいろくかさかさになりました。
ミミはそれを、ずっと、そばで見つめていました。
ある月のあかるい夜。こおろぎとすずむしが、りんりんころころ、ないているとき。
ミミは、しおれたくきのさきのほうが、ぷっくりと、ふくらんでいることにきづきました。花びらがちった、そのあとのあたりです。
なんだろう?
ミミはそのまま、みまもりつづけました。
まあるいふくらみは、まいにちまいにち、どんどんどんどん、ふえていきました。そして、すこしずつ大きくなって、ある朝、ぽーんとはじけました。
なにか、ちいさいものがとんでいった!
ミミはいそいでおいかけます。
ちいさいものをひろいあげると、それはまるいタネでした。ママがミミにくれたのと、おんなじまるいタネでした。
「ママのお花のタネだ!」
それからつぎつぎに、まあるいふくらみは、ぽーんぽーんとはじけて、タネは、おにわじゅうにちらばりました。
ミミはおおよろこびで、森のいもむしのところへ、かけていきました。タネをみせようと思って、ぎゅっとにぎっていきました。
ところが、いつも、いもむしがすわっていた、きりかぶの上には、ちゃいろく、しわしわした、長ほそいものがのっているだけ。いもむしのすがたは、どこにもみえません。
ミミは、このちゃいろいものも、みまもることにきめました。
それからまいにち、おにわと森をいったりきたりしました。
冬がきました。
しろい雪が、ひらりひらりとふってきて、おにわも森もまっしろになりました。
いもむしのきりかぶもまっしろな雪におおわれました。ミミは雪のつもったさむいみちを、まいにち、いったりきたりしました。おにわと森のきりかぶを、みつめつづけました。
春になりました。
おにわも森も、雪がとけて、ながれていきました。レンゲやタンポポ、さくらもさきましたが、ママのお花のタネからは、まだ芽がでません。
ミミは、じっとまちました。
また、夏がきました。
ミミは森へかけていきます。きびしい日ざしも、森の木の葉がさえぎってくれて、さわやかです。
きりかぶの上のちゃいろいものは、なんだか一まわり大きくなったようでした。まん中に、一ぽんのきれめがはいっています。
ミミがみつめていると、きれめがぴりぴりさけて、中からきれいなはねがみえました。ちゃいろいもののなかには、ちょうがはいっていたのです。
ミミがびっくりしてみつめていると、ちょうが話しかけました。
「ああ、どうやらねすごしたようだ。おや、ミミ、ひさしぶり。わたしがだれだかわからないんだね?わたしだよ、いもむしだよ」
ミミはますますびっくりして、目をまんまるにしました。ちょうは、ひらひら、とびたつと、ミミのいえのほうへむかいます。ミミはあとをおって、かけていきました。
ミミのおにわは、ママのお花でいっぱいです。
じめんにおちたタネが、ミミのお耳みたいな芽を出して、すくすくのびて。くきがふえ、葉っぱがしげり、つぼみがたくさんはえてきて。そうして、花がさいたのでした。
ちょうは花にそっとおりたつと、はなのみつを、おいしそうにすいました。そして、目をまんまるにしたままのミミに、いいました。
「とてもすてきなおにわになったね。来年は、わたしのこどものちょうがやってくるだろう。また、みまもってくれるね?」
ミミはやくそくしました。
こどものちょうも、そのこどものちょうも、ずっとみまもりつづけることを。
花がかれても、もうミミはなきません。
ミミはいつまでも、だいじにおにわをみまもっていました。