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竜人の血  作者: バショウ
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終章・其は神聖にして不可侵

最終話です。それぞれの生き様、彼らはこれからどうするのか。みなさんの予想と一致していたら、作者にとって幸いです。


第九章・神聖にして不可侵


1.赦し


 マコトは、誰かに話しかけられていることに気付き、重い瞼を開いた。

 覗きこむ様にマコトを見つめるジュンと目が合い、動揺して体を動かす。下半身は痺れたように動かないが、何とか上体だけは起こすことができた。

「アキから……話は聞いたよ。僕を王にするつもりだったんだってね」

 静かに話すジュンに、怒りや失望は見られない。

 そのことが逆にマコトの不安をあおる。

「申し訳ありません。出過ぎた真似をしてしまい……お怒りになっているのではないのですか?」

 恐る恐る訊ねる。

「マコトは、カゼサキを大切に思ってたんでしょう? 僕が怒る筋合いは無いよ」

「あ、ありがとうござ……」「ただ」

 と、と礼の言葉を遮られたマコトは不安に思い口を閉ざす。

「あの三人は、僕の大事な友人なんだ。……竜人として命ずる。今後、二度と竜人を手にかけることは禁ずる」

「……そ、それだけですか?」

「他に何を?」

 極刑まで覚悟していたマコトにとって、拍子抜けとも感じられる判断だった。

「いっ、いえ。わかりました。二度と御友人に危害は加えません!」

「わかればいいよ。……君にはこれから宰相として働いてもらうからね。優秀な人材は、殺している場合じゃあないんだ」

「はい」

 反射的に答え、マコトは耳を疑った。

 宰相、といえば王の補佐だ。今の言いかたではまるで。

「……ジュン、あなたが王になるということですか?」

「そうさ。この国は、僕とロクヒトで治めることになった。不満かな?」

「ふ、不満などっ」

「……ああ、あるのは疑問か。元々ロクヒトは権力に対する願望が強くてね、真っ先に反対したのはアキだけなんだよ。……追従するサリもそれに従い、ロクヒトも一時は諦めたんだ」

 では何故今更。声に出さないマコトの問いに、事も無さげに答える。

「マコトの覚悟を見て、って所かな。僕も隠遁するつもりだったけれど、翼の欠けたロクヒトだけじゃあ辛いだろうしね。……シンボルとしての竜人はロクヒトに、そして実権を動かすのは僕だ」

 涙が出そうになった。

 早まった行動をしたマコトを許すばかりか、新たな仕事まで与え、さらにカゼサキの遺志も叶えてくれたジュン。

「あ、ありがとう、ございます」

「初仕事だ、マコト。各領地の領主を集めろ……戴冠式の準備を整える」

「わ、わかりました! お任せ下さい……竜人」

 にこりと笑うジュン。その笑みにはカゼサキの面影がかすかに浮かんでいた。



2.旅路


 次々と薬を鞄に詰め込んでいくサリを眺め、アキは頭痛を感じた。

「なあ、サリ。本当にそれ、持っていくのか?」

 一抱えはある鞄の口を縛り、それでもまだ不満そうにするサリへ、恐々と問いかける。

はちきれんばかりの鞄は既に四つとなっていた。

 とてもサリに持つことはできないだろう。抱えて歩く自分自身を想像し、虚しいため息が漏れる。

「大丈夫、馬車があるじゃない」

 馬車は街には入れない。宿まで運ぶのは誰だと思っているんだ。

「……まあ、いいか」

 先ほどのことに比べれば、大した問題じゃない。

 サリの父親、ハルに殴られた痕を擦りながらアキは苦笑する。

 娘が竜人になり、さらにアキと旅に出る。そう聞いたときのハルの反応は、素早かった。何故か横にいたアキを殴りつけたのだった。くらくらする頭を押さえながら文句を言おうとすると、「娘が結婚する時には、相手をぶん殴るもんだ」と大笑いしていた。竜人のことは別に良いのか? と突っ込みたかったが、実際どうでも良いのだろう。

 あれも持て、これも持てと薦めるハルの所為で、鞄がまた増えた。

「ハル、それ以上は持てないよ」

「ああ?」

 絡むように肩を抱き、ハル。

「てめえ、これくらいの荷物が持てないとか言うのか? お前竜人だろ? そんでもって婿だろう? 反対意見は聞いてねえ。大人しく言うこと聞きやがれ」

 既にサリを嫁にやったかのような口ぶりだった。

 このままでは誤解が真実になってしまうような気がして、アキは口を挟む。

「えっと、別にサリとは何も」「何も?」

 ハルの目が危険な光を放つ。

「……結婚はまだ早いかと」

 命の危機を感じたアキは、遠まわしに文句を言う。

「じゃあ、お前はサリのことを何とも思ってないのか?」

「そ、そういうわけじゃないけど」

「じゃあ、もう一度この村に帰ってくる気はあるのか?」

「な、無い」

「じゃあ……」

「お父さん。もう良いじゃない」

 見ていられなくなったか、やっとサリが口を挟む。

「で、でもよう」

「いーのいーの。じゃあ、婚約ってことで?」

 助けてくれたわけではなかった。アキは本格的に頭が痛くなってきた。

「……うう」

 最早何を言っても解ってはくれないのではないか、と厭世観にとらわれる。

 だがこのままではなし崩し的に結婚となってしまう。まずはサリを説き伏せることにする。

「いいか、サリ。俺たちには、無限の寿命が手に入った」

「そうだね?」

「俺の夢は、この世の全てを知ることだ。その為には……こんな所に暮らしてる場合じゃあない。それもわかるか?」

「わかるよ」

「……俺は一言でもサリについてきてくれ、なんて言ったか?」

「ううん。でもそんなの当然。私の居場所はアキくんの隣にしかないからだよ」

 それは勘違いだ。ただの錯覚に過ぎない。

「……なあ、いつか俺達は離れて、自分の道を行くんだ。いい機会じゃないか? サリもそろそろ一人立ちしてみないか?」

「……いや」

 聞き分けの無い子供のようにぷいと顔を背けるサリ。

「なあ、アキ。お前の旅に、こいつは邪魔なのか?」

 とうとう見ていられなくなったか、ハルが口を挟む。

「そうでなければ、連れていって欲しいんだ。……結婚だの婚約だの騒いだことは謝る。それとは別に、こいつの生きる場所を探す手伝いをしてくれないか?」

「……卑怯だよ、ハル」

 そんな風に言われては、断ることなんてできやしない。

「ん、そうかな? 役にたつぞーサリは。今みたいに感情が絡まなければ、こう見えても交渉事には強いんだ」

 そんなことは知っている。二年前、税を重ねて取りに来た役人を追い返したのは、長老でもアキでもなく、サリだった。

 あらぬ方向を向いていたサリの頬がゆるむ。

 お見通し、だな。

「……サリ。準備は終わったのか?」

「終わったよ!」

「じゃあ今すぐ出れるな」

「うんっ」

「……じゃあな、ハル。永遠の別れだ」

「ふん、縁起が悪い挨拶すんじゃねえ……たまには手紙寄越せ」

「じゃね、お父さん。手紙は私出すから」

「ああ。元気でな……言葉の通じない国では、笑顔を忘れるなよ」

「うん……ごめんね、お葬式だせなくて」

「いつの話だっ! まだ俺は五十年は生きる! 早く行ってしまえ!」

 顔を真っ赤にして怒鳴るハルを目の端に止め、馬に鞭を入れる。

「いいのか? あんな別れで」

 隣に座り、手を振るサリに問いかける。

「いいの。お父さんは元気が一番だから」

「そうか、うん、そうだな」

 しんみりとした別れなんて、ハルには似合わない。勿論アキにも、サリにも。

「今度この村にくる時には……」

「ん?」

「……ううん。何でも無い。百年、二百年。いつになるかわからないけど、絶対またここに来ようね」

「そうだな……あいつらにも、また会いたいしな」

「うんっ」

 安物の馬車、固い御者席。

 決して恵まれた環境ではないが、アキは思う。

 三千年以上もの時を過ごした竜人のことを。その昔、戦いの末に手に入れ、作り上げた国から裏切られた、たった一人の竜人のことを。


 サリと共にいる限り、アキに寂しさというものは訪れないだろう。

 きっと、永遠に。



お疲れ様でした!貴重な時間を使ってここまで読んでくれて本当にありがとうございます!

希望があれば続編も書きます……二、三ヶ月ほど待っていただけたら。

えっと、とにかくありがとうございました。また次の作品も読んでいただけたなら幸いです。

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