第45話 予想外の一撃
「ああ、私は鏡の国の平和の為に戦う。」
決意に満ちた言葉と共にマゼンダ色の霊子を収束させ「鉄の杖」を具現化し、抜き放つ。
してイノセントの首に切り掛かった一瞬、
予言者の笑みをイノセントが浮かべ、
イノセント本来の翠色の目に未来視の魔眼が切り替われば・・
「病塔」の中腹下部が土煙を吐き出した。
して私は未来視の魔眼を起動し、第二特性での情報の収集を終えた。
そうして、私は未来視の魔眼で目を見開いた。
◻︎
黒を基調とした青い波紋の剣「鉄の杖」
白を基調とした赤い波紋の剣「鉄の杖」
この二種類の杖を私は持っていた。
今、手に握っているのは黒を基調とした青い波紋の剣の方の「鉄の杖」だ。
これは私が今初めて自分で操った霊子で暴走した時に使っていた、「鉄の杖」を元に作った物である。
暴走していた時の記憶は私には無い。
第五特性「全知全能」を第二特性で解析して、
得た記録を元により私に合った「鉄の杖」の贋作を作り出したのだ。
偽物で構成された私に相応しい武器である事は言うまでもない。
そして、この杖は、
魔女の血を飲んだ時に与えられたであろう本物の「鉄の杖」よりも数段劣る強度と鋭さを持ちながら、
どうしてか、私の手によく馴染んでいた。
「だからこそ、貴方の首を両断出来る筈だった。
けれど、随分やるんだね。
愚鈍のエーイーリーとしての言葉は吐けないけど、褒めてあげるよ。」
「・・・それは光栄ですね。
無神論のバチカルとしては受け取りかねますが、喜ばせていただきましょう、予言の魔女」
バチカル・・いいやイノセントのそんな冷静な言葉を、隣の「病塔」から上がった土煙の向こうから聞いた、私である。
裏切り者の魔女の代理について、私は正体を知っていた。
傲慢の魔女の代理、明星葵である。
憤怒の魔女の代理ではなく彼が疑わしいと出会った当初から私は感じていたのだ。
だからこそ、彼から私は適度に距離を保った
警戒をしていたのだ、
向こうには筒抜けだろうが続ける必要のある行為だった。
だからこそ、その裏切りを知っているであろう紫藤と赤神は入ってこれない様にしている。
気づかない様に扉に魔術を掛けたのだ。
今頃は外で慌てふためいている筈である。
「・・・・・・・」
「病塔」の中腹に裂けるように空いた穴から静かに私はイノセントを見ていた。
そして未来視の魔眼で見たのだ。
彼が首を絶たれた光景を
けれど土煙が晴れてそこに合ったのは。
首締めの魔女が持つ「依代の杖」に似た「形代の杖」で攻撃を防ぎ切って、
立ち上がった予言者の姿であった。
第二特性情報の「収集」と「集積」で解析した、
イノセント達"旗持ち"隊員が持つその杖は魔力を吸収する。
「依代の杖」とは違って制限はある物の、
その力によって周囲と私の魔力を奪い、
弱らせてイノセントは私の攻撃を受け止めていたのだ。
しかし、それでも納得が出来ない事柄が一つあった。
矛盾しているのだ。
彼を殺した未来を未来視の魔眼で見ていたと言うのに、
確かな手応えがあったと言うのに、
彼は隣の「病塔」の部屋で平然とした顔で立っていた。
これは一体どう言う事か
「未来視の魔眼が矛盾した光景を映し出した様ですね。
無理もありません、
都市を滅ぼせる程の魔力を持っていて、
けれど、それが七割程度しか回復していないと言える程の莫大な魔力を持つとは言っても、
今の貴方は偽物で全てが構成された魔女です。
自身の力を制御出来ていないのも無理はない。
五つの特性や預奪の魔術を持っていても結果は変わりません。」
「・・・何の話をしてるの」
「貴女の未来視の魔眼は所詮偽物だと言っているのですよ。
偽物の未来視の魔眼では予言の魔女とは言えど私程度のせいで未来を読み違えても無理はない。」
「どう言う意味」と聞きつつも理解する。
未来視の魔眼、
暴走した時の左手に在った筈の赤黒い瞳を私は扱え切れていた。
奇跡だ、
私は第二特性でそれを瞬時に解析した事によって、
その制御方法すら理解できていたのだ。
だが、無神論のバチカルにはとある力があった。
未来視殺しの魔術
それを彼は自分の周囲数メートルに展開しているのが第二特性の解析で理解できた。
イノセント自身が未来視の魔眼を解いた時、
発動したそれは対象の未来視の魔眼に誤った未来を映させる。
今回の場合、私の魔眼に干渉し、
その目に映った未来を殺して見せたのだ。
だかろこそ、私は「鉄の杖」を握りしめてこう言った。
「貴方の魔術は未来視殺しの魔術、
これで私の未来視の魔眼を殺して自分が死んだ幻覚を見せたんだね。
恐るべき力だ。
正直見くびってたよ、イノセント・エフェソス。
私の協力者」
「理解した様ですね。予言の魔女
これで貴方の未来視も、
そしてその先の力も使えはしない。」
「あっそ。」という言葉と共に靴先で二回瓦礫の山を叩けば、それを蹴り跳躍した私である。
地面だった物がクレーターに変わり、
病塔の中腹から再び土煙が吐き出された。
その光景を第二特性で認識した瞬間、私は未来視の魔眼を閉じる。
誤った未来が映される以上、開いていても意味がないと判断したのだ。
そうしてイノセントの背後に回れば「鉄の杖」を片手で振りかぶり、振り下ろした。
圧倒的な速度のそれはけれどイノセントには余り効果が無かったようだ。
土埃が舞う中、それが晴れればそこには在った。
瞬時に「形代の杖」でイノセントが「鉄の杖」による一撃を受け止めていた姿が
「もう、未来視の魔眼を閉じたのですか
なにか作戦はある様ですが、
今度はこちらが未来視の魔眼を使うだけですよ!」
「へぇ、そんな事させる様に見えるんだ。心外だな、それぐらい心得てるよ」
だからこそと「鉄の杖」に力を込めて押し込めば、「ぐっ」と思わずイノセントの口から声が漏れる。
未来視の魔眼を開いたイノセントの姿があった。
けれど、それすら気にならない私である。
未来殺しの魔術は第二特性情報の「収集」と「集積」で解析中だ。
掛かる時間は2分と言った所か、
比較的攻略が簡単な魔術だった。
問題なのはイノセントの未来視の魔眼だ。
無神論のバチカルとしての力なのか、
彼の未来視の魔眼は私のソレに匹敵する力を持っていた。
都市を滅ぼせる程の魔力を持たない彼は、
基本的に私よりは数段劣る。
けれど「形代の杖」と未来視の魔眼、
それを運用する経験から来るのであろう力量が私の握った贋作の「鉄の杖」を押し留めるに至ったのだ。
本物の「鉄の杖」には劣るとは言え、
この鉄の杖も魔女の代理が持つ杖に匹敵する物であるのにである。
だからこそ、私が取る作戦は単純力押しである。
「「加速せよ」」
身体強化の魔術を協調法を用いて加速する。
詠唱契約を必要とするこの魔術はしかし、禍根鳥が暴走した私に対して使った物を、
第一特性「模倣」で模倣し使った物である。
そうして、「鉄の杖」で「形代の杖」を振り上げれば瞬時に地を蹴った。
地を蹴った、地を蹴った、地を蹴った
土煙が生じる程のその加速にけれど私は身を委ねる。
空すら大地と捉えられる様に透明な足場をマゼンダ色の霊子で作りながらも、
地を、空気や空間そのものを蹴って加速した。
そうして、加速し切った瞬間、
空気が赤熱化する程の速さで私はあらゆる所を足場にして飛び回った。
音速の約十倍、マッハ10の速さに達したその瞬間にけれど私は「鉄の杖」を振り下ろした。
轟音と共に、「病塔」が崩れる音がする。
土煙が起こり、人々の悲鳴が聞こえる中でけれど私は見た。
土煙が晴れればけれど、
イノセントが平然とその一撃を受け止めていたのだ。
「・・・成程、速いですね。
しかし、見えているんですよ。
その姿、足の運び、加速の仕方、全て見えています。」
「・・・へぇ、やるじゃん。」と思わず捨て台詞が溢れた。
赤熱化した「鉄の杖」が、
本来では持っていられない高温の物質がしゅーという音と共に冷めていく音がした。
そんな音と共に冷静になっていく頭でイノセントの未来視の魔眼を見ていた。
その隙をイノセントが見逃すはずが無いのに・・動けなかったのだ。
私は勘違いしていた、"旗持ち"隊員の強さについて
禍根鳥から魔女の代理の十分の一に匹敵すると言う言葉を聞いて、であれば問題は無いなと奢っていたのだ。
都市を滅ぼせる程の魔力を七割程度回復した状態で持ってしまっていたからこそ、
魔女の代理に匹敵する私ならばかならず勝てると誤解しでしまったのだ。
魔女の代理が全力を出した姿を見ていないのに
だからこそ、その十分の一と言われる国家直属近衛部隊、隊員の強さも誤解した。
そして、その強さが今の私の基本性能を上回った。
ただ、それだけの単純な事柄である。
それを私が察した瞬間、
けれどイノセントが予言者の笑みを浮かべればこう言った。
「さようなら、愚鈍のエーイーリー
会えたらまた会いましょう。」
冷酷に告げられたそんな言葉と共に、
けれど「形代の杖」の杖先でイノセントが私を袈裟斬りにした。
けれど、私は魔女のように笑った。
これもまた第二段階「遂行」に移った「計画」の通りだと言わんばかりに
予想外の一撃を放つ者には二種類ある。
単純に力で劣る者か、
皆から舐められていた者だ。
〜人助けの魔女〜




