第39話 一人目のマスターピースvs四人目のマスターピース(下)
マスターピースとしての「覚醒」は肉体を悪魔化させる事である。
本来、肉体の悪魔化とは魔女の代理が至る進化そのもの。
いずれ人類が至るべき地点でもある
高次元への干渉そのものでもあるそれはしかしマスターピースの場合異なる。
マスターピースは浸食するのだ高次元そのものに
世界の欠片と言われるのはこれが由縁である。
高次元に干渉出来るが故に現実を曲げ、
高次元に接続するが故に現在を捻じ曲げ、
高次元に浸食するが故に世界を操作する。
魔女の代理とは一線を画した存在、それこそが肉体の悪魔化であるのだ。
けれど「魔王」は疑問に思う、
これは魔女の代理にも出来るのではないか
一部、これは正しい。
肉体の悪魔化とは魔女の代理の進化形態であり、奥義の一つそのものだ。
意味を持つ文字をあてがわれているそれについて知る者は少ない。
まず一つ、それはなり損ないの一つの到達段階である事、
まず一つ、それは魔女の中途の到達段階である事、
まず一つ、魔法使いの最後の到達段階である事、
だからこそ、それは鏡の世界の全生物の辿る結末、悪魔化と言われている。
「不完全な「覚醒」を経ているというのに肉体の悪魔化を・・悪魔化を限定的とは言え成すとは、素晴らしい・・・と言えばそうなのだろうな、「嫉妬」よ。」
ブロックノイズの奔る中、けれどそれが空に消えればそう慈悲深くも野太い声で「魔王」はそう言った。
先程までの乃瑠夏の「覚醒」あれは疑似的な肉体の悪魔化、
いいや悪魔化そのものであると雲一つない空の下、暗闇の下「魔王」は理解していた。
ブロックノイズによって汚染された大地と空はしかし暗闇そのもの・・ではない
目に映る闇、光は無いが人を目に映す事の出来る暗闇、
決して目に映らない光の逃げ場所、
それこそが乃瑠夏と禍根鳥という「魔王」の今居る状況そのものであった。
そんな不思議で不可思議な真っ暗な空の下で”ある事”を「魔王」は振り返る。
マスターピースとしての「覚醒」は三つの恩恵を術者に返す。
まず一つ目は、身体能力の強化と再生能力の上昇。
して二つ目は、基本能力の上昇と自身の魔法の強化。
そして三つ目は、悪魔化と言われる肉体の悪魔化である。
だからこそ「素晴らしい」と慈悲深い声でけれど確かな悲しみを込めて「魔王」は語った。
褒めたのだ、純粋に。
嫉妬の魔女の代理が魔女の一つの到達地点に近づけた事に
鏡の世界に生きる全生物の悲願に一歩足を掛けれた事に対する賞賛の言葉である。
けれどしかし、しかしと不躾かつ無粋にも「魔王」は言葉を付けたす
「どうでも良いが君の「覚醒」は不完全だった。
無粋かつ不躾だろうがこの事実は何も変わらない。
だからこそ覚醒した君の攻撃をあの時喰らってもこうして元気に生きて君と戦いそして反撃が出来たという訳だよ、「嫉妬」よ。
しかしそれも無理もない、君は掴めなかったのだ、希望をな」
して目に映すのは少年、乃瑠夏の体であった。
神聖にも思える朝日のような瞳の形をした光輪を戴き、
肩までの短さの白髪に白と紫の烈日のような瞳を持つ嫉妬の魔女の代理の姿はそこには無い。
焦点の合わない瞳、
ぼさぼさな肩までの長さの黒髪、
昇り初めの下弦の月のような瞳をした黒髪赤目の少年、井伊波乃瑠夏が雲一つない空の下、半裸でそこに居た。
先の一撃で破られ乱れた衣服に覗く白い素肌、
焦点の定まらない目とぼさぼさの肩までの髪の毛、
して破られ散乱した細切れの服とそれ故の半裸という状態、
そして力なく降ろされた腕にけれど霊子化していく穴ぼこだらけの杖を握る手指、
まるで襲われたあとのようなそれは乃瑠夏が先の雲をも飲み込む一撃から自身を守れなかった証であり今、勝者が禍根鳥という「魔王」である証だ。
だからこそそんな言い表せようもなく哀れな様を見て「魔王」は思う。
「覚醒」は一時的な物だったか・・・と。
「希望を掴めなかった」・・この言葉には確かな意味がある。
マスターピースは全員が覚醒するこれは変わらない
しかしそれは一つの条件元でのみ発生するのだ。
そう他ならない希望の為に「覚醒」するという条件の元
「君の覚醒方法では希望を掴めなかった。
君はおそらく自分を殺して基本能力を用いて蘇りつつマスターピースである自分に作り替えたのだろう。
だからこそ、君の「覚醒」は一時的な物で終わった。
ところでそのあられもない姿、まるで犯された処女のようだぞ「嫉妬」よ。
まあ、ある種間違ってはいないか、
「死」の魔力は肉体を魔術的に殺すのみならず人の精神を犯して殺す力があるからな。
通常であればまるで凌辱されたような苦痛を味わいながら死んだはずだ、しかし「安楽死」の魔力は違う。
これは人を安楽死同様安らかに肉体を殺す力、それは精神も同じなのだよ。
多くの「死」の魔力による攻撃を受けた者のようにがただ男に黙って犯された時のような苦痛と屈辱に塗れ精神的な死を迎えたたのではなく、ただ楽に死ねただろう。
これは良い事だぞ、「嫉妬」よ。
世の中には尊厳を奪われ殺される人間など山のように居るのだからな。
しかし「嫉妬」よ、君は蘇るようだ。
見るに受け継いだ魔女の血が濃いからだろう、魔女刻印を受け継ぐ魔女と同じだな、それを持つ魔女の代理という立場と生まれ持って得た魔法使いとしての「強さ」と天才を持っていた幸運に感謝すると言い。
・・・「安楽死」の魔力は基本能力が君の肉体が壊れない範囲で収まったようだ、いずれ君は輪廻転生で蘇る。
魔法使いでよかったな、君はどうやらあの出来損ない以下の妹とは違うらしい。
これが「安楽死」の魔力だからこそ緩やかに逝けただろうが、他の魔力であればそうは行かないだろう・・・・・・・・いいや、違うな、こうじゃない。」
整った顔立ちをしながらも、
一滴の血液を唇の端からこぽという音と共に吐き出す乃瑠夏の様を「魔王」は見ながらけれど野太い声で慈悲深くも珍しくもぐだぐだと冗長にそう語る。
杖が霊子に還ってゆくなか杖をぼろぼろの片手で握り焦点の合わない瞳で尚立ち続けるその姿にけれど「魔王」は思った。
まるで”あの子”のようだと・・・だからこそ貌を近づけ血を拭う。
慈悲深く野太い声が同情の念に揺れていた事を目にしないように
慈悲深く野太い声が同乗の念に揺れていた事を見ないように
慈悲深く野太い声が動悸に邪魔されていた事を蓋をするように
・・・指に付着した血を少し見て、けれどそれを頬にべっちゃりと付けつつ乃瑠夏を「魔王」は見つめる。
疑問に思ったのだ、先程の確かに満たされていた自分自身に
戦いは少しだが楽しめた、それは確かである。
冗長に言葉を尽くした、それは確かである、
先程の冗長に過ぎる乃瑠夏に対しての言葉に嘘は無い、それも確かである、
けれど何故少しだけ満たされたのか分からないのだと「魔王」は我が事ながら理解した、
だからこそ、自身に対して疑念を覚えればしかし「魔王」は察知した、
ある者の気配を、
穴ぼこだらけの杖が完全に霊子に分解したその時に、
それを支えにした乃瑠夏の体が汚染された黒い大地にどさりという音と倒れたその時に。
「・・・・答えは出かかっていたのだが、忘れてしまった。そんな事について君はどう思う、」
だからこそ疑問を投げかける、
目の前に居る人物、
それがよく知る者であろうと
新たにやって来た者に対して、
その蒼い瞳を見つめながら疑念を投げかける、そう自分に対して「魔王」は理解をしていた。
だからこそ、問うた、「魔王」は問うた。
「なあ、なり損ない、君はプネウマに次ぐ六人目の「幹部」としてどう思う。」
沈みかけの上弦の月のような瞳をしたなり損ないに
居るはずの無い黒髪蒼目の化け物に、
「棺」の中に要る筈の少女の面影が残る断髪したような短い洋髪の怪物に、面と向かって問うた。
そうすれば雲一つない空の下、
ただ真っ暗な暗闇のただ中で当たり前のようになり損ないは女神そのもののように笑んだ
なり損ないの面影を持った代わりのように幼女の姿で、
「幹部」のように「魔王」の顔を見て
死んだ、なり損ないの「心」を背負うように
■
”なり損ない”は実質的な「幹部」の一人となり禍根鳥の手に堕ちたのだと魔女は口にする。
しかし私はこれを否定しない
「魔女の代理に匹敵する」
「「魔王」の首を狙っている。」
「「死」の魔力を与えられている。」
以上の三点が「幹部」には共通しているというのが賢人会の理解である事、してなり損ないである私に当てはまっている事も知っていた。
だからこそ私は問いかける、
目の前の少女の姿をした「魔王」に、
透き通るような白髪に澄み切った桃と赤の混じったきっかりとした瞳を持つ野太い声の少女に
「その問いについて私は答えを持っていません、
しかし三つ聞きたい事があるのです。
私は本当に「計画」通り”あの人”の代わりに成れていますか?
████████という私自身の目的の為に、そして貴方の為に。
本当に「幹部」に成れたんでしょうか「魔王」陛下。」
「・・・・・・ああ、君の本体に与えた「死」の魔力は数ある分体の核として用いられている。その一人でもある君は”それ”の恩恵を自身の生という形だがはっきりと受け取っているだろう。
実験は成功だよ、なり損ない。
・・・・・他に何か疑問はあるか?」
暫しの沈黙のあと冗長な言葉を返す「魔王」陛下をしかし私は気にしない。
普通であれば萎縮していしまうような状況においても私はそうしない。
何故ならば、私は今は幼女、
いいや正確には7歳の幼女の姿をしたなり損ないの分体であるからだ。
気に成っているかもしれないが見た目だけでいうならば私は所謂子供である。
17歳の高校生ではなく、7歳の幼女なのだと私自身がはっきりと理解していた。
沈みかけの上弦の月のような瞳を持つ、黒髪蒼目の少女改め、
断髪したような短い洋髪に沈みかけの上弦の月のような瞳を持つ黒髪蒼目の幼女、それこそがなり損ないでありシアである者の分体、所謂、私だ。
「棺」の中で三度目の復活を経たその後になり損ないである私は死んでいる。
「死」の魔力によって陛下に命を断たれたのだ。
「死」の魔力の入った「棺」の中でその役割通り死んでいるのだ。
今はなり損ない死体という肉体を悪魔化させ「棺」の機能で更に「進化」させている状態である。
ところで繰り返すようで悪いが今の私は分体、数あるなり損ないである私の分体の一つである。
だからこそ私が果たすべきはなり損ないである私の代わりそのものなのだ・・が。
今の私は私について殆ど何も知らない。
知っていることがあるとすれば私は陛下に「棺」に残ったシアの死体を元に自身が「死」の魔力を核して生まれた事と「幹部」と呼ばれる存在として認められた事、
そして自身に████████という目的があることとだけだ。
だからこそこの記憶力にはどうにも私は辟易してしまう。
私は陛下の役に立てない無能なのかも知れない・・そう思ってしまう程に。
「君は無能ではないよ、少女が保証しよう。それは君が少ない言葉から私の言葉の含意を理解出来た事から理解出来るからな」
「・・・・はい、その御言葉、心から嬉しいです!」
「幹部」という立場と不思議な生まれ、
そして████████という文字通り不可思議な目的がある事とだけなのだ、私は。
それ以外は何も無い。
陛下から聞かされた事と言えば私は所謂、不死である事と食事と睡眠と排泄が不要な事だけだ。
ニンゲンでは無い・・と陛下は仰っていたが私には分からない。
こんな分かりやすいであろう事が実感を持って受け止められないからこそ私は私自身に「無能なのかも知れない・・」と烙印を押すのだがけれど私には分からなかった。
だからこそ私は嬉しかった、
陛下に褒められた事が、
陛下に頭を撫でられている事が。
頭、そう私は頭を撫でられていた。
他ならない「魔王」陛下に近づいてその足にかしずくようにスッと頭を下げ頭を差し出して・・撫でて貰っていたのだ、まるで、子どものように。
言っておくが私は殆ど記憶を持たない、
持っている記憶と言えば一般常識に対する記憶についてと、
自身の体と生まれの事について、
して立場と████████という不可思議な目的について、
そして陛下と初めて会った時の事についてくらいだ。
だからこそ、私は陛下に触れられる事が嬉しい、頭を撫でられている今など、とっても嬉しいのだ。
頭に触れた柔らかな肌はいつも戦っている者とは思えない程柔らかく指も節くれだってすらいないのがなんだか物足りないけれど、
けれど私にとってこれは陛下の野太くて安心する声を聴く事に並ぶ喜びそのものであった。
頭を撫でれられる度、私は思うのだ。
なり損ないである私はどうして陛下に心を許していなかったのだろうか・・と
なり損ないである私はどうして陛下を心から信用しなかったのだろうか・・と
なり損ないである私はどうして陛下を心から信頼していなかったのだろうか・・・と
なり損ないである私は確かに陛下を信頼していなかった。
なり損ないである私は陛下を心の底から嫌っていた、それはまるで鬼を嫌う人が如く、恐れるように侮蔑するように嫌っていたのだ。
それこそが「幹部」に成らなかった理由であり「死」の魔力を貰った直後にこっそり吐き出していた理由でもある。
信用するなど論外にも思えるそれはしかしけれど正しくその通りだったのだとは・・・私は感じない。
私には分からない、分からないのだ。
どうしてなり損ないである私が陛下を嫌っていたのか?
その理由と動機に至る全てが、
だって私には何も無いから、陛下しか心には要らないから
「そこまで慕ってくれているか・・では頼み事をしようかな。」
「はい!無論です何なりと言いつけ下さい陛下!!」
「・・・・3号と5号と15号そして19号の四名の「幹部」の首と胴の死体を回収してくれ、今すぐにそしてそこで立ち往生を迎えた「嫉妬」の死体もだ。」
物騒と日常の交じり合った複雑な言葉のやり取りと共にけれど私は立ち上がった。
それが例え、非業であろうと
それが例え、非道であろうと
それが例え、非倫理であろうと今は隣に歩ける・・・よく知らない「幹部」の首と胴を持って、「嫉妬」と呼ばれる人の死体を持って陛下について回り尽くせる。
「陛下これから、一杯人を殺して上げましょうね。」
なり損ないである私の代わりとして女神そのもの笑みで陛下に笑いかける、それこそが今の私であると・・私は自分を定めていた。
だからこそ知っているのだ、
”蛇の小道”これが既に「安楽死」の魔力に汚染されていることについてなり損ないである私が知らない事を、
「安楽の地獄」が”蛇の小道”という場所から始まり、
いずれ他の四つの地獄と同じ世界を滅ぼす厄災の火種となる事を、
この場所が研究塔、第13地区15区画17番地という長い名前では無く安楽の地獄の「跡地」と呼ばれる事を、
そして陛下の愛がこの鏡の国を呑み込む事を
「████████という目的を果たす為に、
”人類の平和の為に”、
そして皆の人生の為にお慕いしております「魔王」陛下。」
ブロックノイズの奔る空の下で、
ブロックノイズに覆い尽くされた空と大地の狭間で、
この黒に塗り潰された大地を踏みつけながら真っ黒な雲一つないブロックノイズの空の下で私はそう白々しい程の慕情と黒々とした腹黒な殺意を込めてしっとりとそう言った。
後ろに手を組みながら、
唇を邪悪に細めて、
陛下の揺れる後ろ髪と二つに結ばれた髪束の先を見つめながら、
・・・私は見ていた、まるで「計画」を知るように
・・・けれどその時、目の端である死体の指がピクリと動いたのを見ない振りをしたように




