第28話 腕の中の幼女
物事には順序があると禍根鳥は言った。
例えばまず朝の準備。
朝起きてまず鏡を見る事、
顔を洗う事、
トイレに行く事・・などなど
例えこんな下らないようでけれどしっかり重要な事だけでも多くすることがあるのだ。
朝の準備にだって順序があった。
人間とは大変だと言うのが熟練の魔女である19号の考えだ。
だからこそ、禍根鳥憂喜に問うた。
「どうしてシアをあの培養水槽に浸からせたのですか?」
そう静かにけれど逃さないようなニュアンスで19号は問うた、
その臆面もなく配慮の欠片も無い言葉にしかし禍根鳥は黒布の目隠し越しに目を見つめながら扉の前に立つ19号を見つめる。
19号は気付いていなかった。
期せずして責める様な言葉が出てしまった事を。
予期せずして無礼千万な心が露に成ってしまった事を
後ろにある扉の隙間を見つめながらけれど禍根鳥はこう言った
「我々の「計画」の為だ」
しかしただ禍根鳥は野太い声でこう禍根鳥は言った。
機械的な口調に人間的な言葉、して「魔王」の笑みを浮かべて。
表情とは裏腹な非対称のその言葉にどうしてか19号は頷いた。
一度目の言葉に頷いたのではない。
数度目かのこの言葉にただ頷いたのだ、表情を三日月のような笑みに変え、けれど「魔女」のような笑みにすら変えずに。
・・この言葉は数度目の言葉であるのは彼女達の共通の認識であった。
何度も言っているのだ、「我々の「計画」の為だ」と
ただ言い訳を言うでもなくいつものように慈悲深く「魔王」の笑みを浮かべて。
「当たりまえです。」と言わんばかりのけれど厳かかつ真剣な表情で
・・・扉の奥を見つめながら19号はただ感じる。
なり損ないが眠る羊水のような培養液が、
それを包むような培養槽が下部の管塗れの部屋を覆った桃色を覆う。
しかしそれはブロックノイズの輪郭ごとドクンと脈打った。
なり損ないの心臓があるように
□
「所でプネウマはどこにいる。」
慈悲深くしかし決定事項のように告げられた禍根鳥の野太い声と言葉にしかし19号は答えない
禍根鳥を嫌っているのではない、
当然19号とて禍根鳥の事を悪くは思っていない。
むしろ好いてすらいる、人並み程度以上に
だからこそこう言うのだ
「分かりません、どこにプネウマ様がいらっしゃるか。しかし思い当たる所があります。」
「そうか、それは何処だ。」
「言うまでも、きっとありません。禍根鳥憂喜にとってでさえあと数十歩なのですから。」
少し疑問の残る言葉にしかし口に出した本人である19号はしかし異変に気付いた。
禍根鳥がどこにもいないという異変を
「・・え、マスター。一体どこに?」という言葉のすぐ前にふっと少女の姿は見えなくなっていたと気付いたのは禍根鳥という「魔王」が消えた今、この瞬間であった。
そこに残されたのはただの煙、しかもただの土煙しか残っていなかったのだ
この程度では事態を把握出来ない19号ではない。
基本能力、魔力探知を用い周囲をじっと見つめ検めだした。
しかしそこに残っているのは土煙であった
ただの土煙、土煙でしかなかったのだ。
特徴と言えば視界の端に時折ブロックノイズの奔る事、それくらいの。
魔力探知を用いているが故かすら分からないその異変にしかし19号はしっかりと禍根鳥の位置について理解していた。
後ろには居ないのだ、あるいはどこにでも居て居ない。
普段外套で顔を隠し見せない19号にしてもこれは異常な事態であった。
どこにいるのか。
誰といるのか。
分からない、ただ天井の電球が放つ光が照らすのみなのだ。
けれど近づいても、確認しても判らない。
なにせそこには何も残っていないのだ、残留魔力ですら何も
基本能力である魔力探知でさえその結果を示していた。
何故か逃げたのだろうか・・感じた
目的があって撤退したのだとも・・理解しかけた。
臆病風に吹かれたのかとも・・・・・・・誤解しかけた。
けれど瞬刻赤子の鳴き声とどろりとした気配に目を向ければ、そこには居た、居たのだ。
目的地に到達していたのだ。
禍根鳥憂喜、処刑対象元色欲の魔女の代理が
他ならない黒布目隠しの少女の姿をした怪物が
白髪二つ結びの左右非対称な黒布の目隠しをした野太い声の少女そのものである彼女をしかし19号は、見た。
見た。
瞬間移動でもしたようにそこに立っている禍根鳥をその時にその場所で、両の十字の瞳で。
しかし禍根鳥はこう言った、はっきりと19号に。
目隠し越しにも平静とした視線で
「早く行くぞ、我が子よ。」
「はい。」その一瞬難解で理解に苦しむような野太い声と言葉にけれど19号は頷き足を前に運ぶ。
ただ心が満たされることを理解しながら、満足したように笑んで
蝶番の悲鳴が耳を劈いていくただその中で19号は、
・・・・・三日月のような「魔女」の笑みを一瞬浮かべていた
□
唐突で申し訳ないが「神」とは到底受け入れられない存在だ。
まるで不思議でまるで不可解。
存在しているのかすら分からない、頭の湧いた存在、けれど誰よりも賢しく聡い存在。
それが彼ら「神」である。
故に人々は恐怖する。
斯様な存在がいる者かと、
故に人々は恐縮する。
斯様な存在こそいるべきだと
人が生きているのと同じように当たり前にそれはある種当然の事である。
けれどなり損ないのように、しかしどうすればいいのか解らない存在という者も存在するのだ、当たり前に。
ならば「神」をどうするか・・当然答えは一択。
「殺すしかない・・か、無様じゃな、その程度の知恵しか浮かばないとはわしも人の事は言えないな。」
チリンと鈴の鳴る中そうはっきりと天井を見ながら幼女は言った。
繰り返すようだが彼女の名はクリミナ、ただのクリミナである。
クリミナ本人は気まぐれに口にする。
下の名前などに興味はない・・何せ言葉にしたくないから。
クリミナル本人も決めつけて言う。
上の名前にも価値はない・・・・・・なぜならばそれは罪人の証だから。
けれどそれもどうでもいい。今は時間が無いのだ。
端的に言おう。
クリミナはくくり付けられていた、
否縫い付けられているのだといういのが正しい。
腕と足首、そして首に、枷と鎖を
ガッチリとその細い胴を、
首を逃さず繋がる枷はしかしこれを示している。
チリンという音を耳に垂らした鈴から鳴らす魔王の事では無い。
鈴は今あまり重要ではない。
クリミナの危険性をではない、
今、彼女は危険すら一つもない。
それだけではなくただ単純に実験についての危険性をである。
危険なのだ、「何か」を与えるこの実験は縛っておかなければ対象が逃げてしまわない程に。
「貴様は「神」ではないのだがな。「魔女」と同等の存在に己を喩えるとは・・年頃とは不思議なものだ。口だけではなくな。」
「わしの本当の年齢は知っておる筈じゃが、いちいち一言多い奴が成ってしまったんじゃのお「魔王」に!しかしどうすれば斯様な状態で驕れるのか聞きたいもんじゃなあ!!」
「自意識過剰のようで申し訳ないが何の話をしているのだ!全く以て嘆かわしい!!」
冷たくけれどどこか揶揄うように述べられた鈴の皮肉に返すクリミナの大声での煽り言葉、そして何の空気も読めずに挟まれた晴香の言葉などなど・・
三者三様「魔王」、クリミナ、晴香の順で齎されたそれは正しくカオスそのものであった。
本当に訳が分からないこれらの言葉にしかし反応するのは彼ら以外には居ないだろう。
少なくともクリミナはその一人である。
耳を貸していなかったのだ、クリミナは
なにせ次に返答するなら他ならない晴香であるが何を言っても空明るく何も考えていないように断定してくるだけである。
不毛なのだこの熱血青髪美少女との対談は、蟻との会話の方が意味があると思う程には交わした言葉は何も産み出さないのだと・・そうクリミナは知っていた。
だからこそきっとこれにも気付けなかったのだ。今まで
・・目の前の光。
発するのは電球そのものである。
目のようなそれを取り囲む10・・あるいは12程の禍々しい機械の腕は今出現した。
クリミナと晴香、そして魔王の言葉のやり取り三人に依って作られたカオスそのもの空間の直後に解かれていたその魔法こそが認識阻害魔法である。
認識阻害魔法、それこそがこの不思議な照明擬きにつけられていた魔法だとクリミナは知っていた。
・・・周囲の者のあるいは生物の認識を阻害し騙す魔法。
魔力探知にすら引っ掛からない魔女の代理の法外な権限の象徴たる魔法の一つとして相応しい力を実現させようとする魔法の中の魔法・・・その「思想」が骨子であるというのがこの「魔法」であるのだ。
それが部屋で目を覚ました時から貼られていたのだとこの認識阻害魔法に対して推測するクリミナである。
何せ認識阻害魔法を解き照明器具・・擬きを露わにしたのは晴香ではある。
魔力の仲介と術の補助をしたのは魔王自身だとなんとなしに現状や実力を鑑み予想ができるからだ。
そうでなければ「無詠唱」で認識阻害魔法を解けるはずがないのだから
認識阻害魔法とは禍根鳥憂喜が使う魔法である事というのがクリミナからして見れば少しだけ気に入らないもののしかしこの魔法は「御業」に分類される高位の魔法にして魔法の中の魔法。
魔女の代理のみに許された魔法の心髄そのものでもあるのだ。
それを手助けがありとは言え解除出来た晴香が珍しいのだ。
熱血そのものがヒトの形をしているそんな美少女であったとしても素晴らしい所業なのは言うまでも無い、
そして小憎らしくずる賢いと言われる魔法使いの血を引いていると言われながらも解除出来た晴香は正しく天才と言われる人材である。
いち裁判官にしておくに勿体ない程の人材。
魔王からもそう評価されるであろう晴香しかしこの鏡の世界では殆ど目に掛けられないのが現状であった。
ただ単純に他人に魔法を付与出来ないという理由だけで
・・例外となるのは今回から分かりやすい。
魔王やあるいは魔女の代理の一部の者のみであるというのが現状だ。
ところで魔王とは基本的に時代に一人であるというのが魔女の掟に定められている事柄である。
この例外の無い規則をしかし無視している者が一人だけいた。
正確には自身が魔王であるという規則を作った者が、一人のみ。
「禍根鳥憂喜か・・色欲と王の称号を持つあいつならば「魔王」と名乗ることもあるだろう。ただそれは戦争に利用するだけじゃろうな。」
「全く以てそうだな下らない「王」でない事こそが肝要なのだ!しかし鈴殿こそが「魔王」だというのにこの体たらくに愚弄のされよう全く嘆かわしい!!!」
阿保みたいに大きな声での返答をした晴香に対しけれどクリミナ自身は言葉を紡がない。
「色欲王」ですらないのかという下らない言葉すらクリミナからは出なかったのだ。
それを証明するようにただ鈴を見つめる。
吸い込まれるような髪をバッサリと切って片耳から鈴を垂らした黒髪黒目の女。
所謂”美人”というのが大半の評価である・・がクリミナ自身は気にした事が無い。
なにせ貌を気にするほど世の中暇ではないのだ、ただ一点、見つめるに足る理由がしかしクリミナにはあったのだ。
だからかそ鈴を見つめていれば言葉が聞こえた。
「晴香やなり損ないのような相手であればある程度気になる程なのだ・・とでも言いたげだな。実際その事について話をしていそうだしな貴様は、しかし一体どういうことだクリミナル。最悪「計画」にも悪影響が出るぞ、貴様の見方によっては。口だけでは無くな。」
「・・そうかも知れませんね!クリミナ殿、あ、間違えた魔王陛下!!全くもって嘆かわしい!!!」
冷たいその言葉は他ならない魔王の言葉に反応したのは当然晴香である
その一瞬難解で噛み砕くのが難しいその言葉はしかしクリミナにとっては理解の範疇の言葉である。
単純な事だ。
魔王は顔の良い者に対する発言や見方次第では「計画」に支障が出るとクリミナに言葉にしていたのだ。
これは他ならない霊子の絶対優位性の性質上の問題なのだがしかし「ふむ」と聞き流しながら齎された言葉に思い出す。
・・・鈴、「魔王」から聞いていた言葉を
・・その情報はこれまでずっと聞かされていた情報だった。
どこぞのコミックの敵のように神託を下せる魔女からの言葉である・・と彼女は言っていた。
1+1の答えが2であるようにこれらの言葉はきっと「魔王」本人の談であろうとクリミナは知っていた。
しかしそこには興味もない
隠す理由も重要ですらないだろう、きっと大したことすらない。
必要なのは神託よりも鏡の国に住む者達の安全なのだ。
だからこそここで情報を整理する、緻密に、綿密に。
19号とプネウマ、禍根鳥憂喜の保有している七十二字騎士団とは魔女と魔物の軍隊その総称である。
この軍隊はしかし三つ・・いや四つの地獄に関係していると考えられているのだ。
四つの地獄とは禍根鳥憂喜が起こした地獄そのものである。
一つ目の地獄
命の地獄
生命は尊厳があり、安易に死を選択すべきではない・・その考えの元起こった死ねない地獄、命の地獄。
死亡者10273人
二つ目の地獄
質の地獄
生命の「質」に注目し、充実した人生を送ることを重視する考えの元起こった裏切りの内戦共に居れない地獄、質の地獄。
死亡者20746人
三つ目の地獄
終末の地獄
延命をするおりも末日を重視する考えの元起こった生きれない緩やかな死の地獄、終末の地獄。
死亡者59469人
・・そしてシアと共謀して七十二字騎士団が起こした、
四つ目の地獄
尊厳の地獄
延命を停止し、患者の尊厳を尊重する考えから生まれた体裁を保つしかない地獄、尊厳の地獄。
死亡者100047人
生命倫理学の分野においても広い範囲を占める思想、それを「元」にしたと思われるこれらの地獄はある目的の為に存在したと今は鏡の世界の災害専門家達の間で考えられていた。
それは他ならない死体の回収と戦力の増強である。
これらが示すのは潜在的な国家あるいは鏡の世界転覆の危機であった。
つまりは禍根鳥が死体を回収する度に、七十二字騎士団がその数と性質を増やしていくことに加えて世界すら滅び兼ねないという事である。
これこそが四回目の地獄、なり損ないと処刑対象の元色欲の魔女の代理によって起こされた尊厳の地獄が起きた原因である。
つまりは1万と少しの数が七十二字騎士団の手で殺され9万人の者は四回目の地獄でなり損ないと他ならない禍根鳥に殺されたという事、
四つの地獄の合計190535人の死亡者、
19万人以上の死者それら全て
ある者がその死体を利用するためのものであった・・・
彼らは死体を利用される為に殺されたのだ。
他ならない禍根鳥憂喜の手によって
「しかし、そんな事よりもわしの見方などどうでもいいのじゃよ、分かっている筈じゃ「魔王」。「計画」に何の支障もない事を。
賢人会はまだしも国際議連、あるいはそこいらにいる魔法使いですらそう言うじゃろう。
わしには分かるよ。シアが三回以上死んで禍根鳥の・・・二人目の魔王の「計画」が変更されているであろう今な。」
「・・ああ。そうだなクリミナル」鈴の端的かつ少しだけ冷淡にも思える言葉にしかしクリミナは答えない。
小憎らしくずる賢いと言われる魔法使い、彼らはその血を引く晴香やそれそのものの乃瑠夏同様に優秀なのだ、魔女と同等以上と目される程に。
禍根鳥憂喜や「魔女」でさえ孕む魔女という括りをも超える可能性を持つ彼らは多くの者がしかし興味など殆ど持っていないのだ、
他ならない禍根鳥憂喜の「計画」について
・・タカ派である井伊波乃瑠夏やその同胞を除いて
こちらの手札としての魔法使いが余り当てに出来ない事も、
してともかく相手方の手札が最大最強のマスターピースであるあのなり損ないだけではない事を19号やプネウマ、そして七十二字騎士団などの脅威を鑑みながらもしっかりとクリミナは、して他ならないクリミナ達は理解していた、
代行会という魔女の集団として、
あるいは軍隊として。
禍根鳥憂喜の七十二字騎士団を相手にこのままでは勝てはしないと
・・・ところで賢人会から下された命令はただ一つである。
「”人類の平和の為に”
全ての敵を一部の例外も無く殺し尽くせ」と
五度目の地獄に対する不安と禍根鳥達の戦力増強に対する心配はまるで尽きないもののこれまでの四つの地獄に対する情報は必要以上に集まっている・・・というのが鏡の世界の魔女そのものの考えでである。
これに関しては小憎らしくずる賢いと言われている魔法使いも同意している。
これらについてクリミナはただ思った。
「共倒れを狙っている」な・・と
禍根鳥の勢力と魔女の勢力、脅威と最大規模の派閥の潰し合いを傍観しながらどちらかが弱るまで待ち横合いから利益の独り占めする。
それこそが魔法使いの狙いであるとクリミナは読んでいた。
そしてここに居る者が三者三様にこれを理解し、尚戦場に立つことを選んでいる。
他ならない「”人類の平和の為に”」という理念の元に、
・・所でしかし両方の勢力をも潰しうるなり損ないの現在については少しも考えたくは無い。
最悪の現実など考える必要は無いのだ。
考えるべき事は二つに一つである。
まず一つ目は暴走すれば魔女をも全て殺し尽くせる・・あるいは鏡の世界をも滅ぼせたなり損ない。
そして二つ目は賢人会の傀儡で「計画」の事以外あるいはそれすらも考えていないながらも絶大な権限を持つ「魔王」。
・・二人の化け物は、世界は踊るのだ、手のひらの上で。漁夫の利を狙う盗人猛々しく厚顔無恥な不粋な輩だと賢人会や国際議連に対してそう、はっきりクリミナは理解していた。
賢人会
鏡の国という鏡の世界というクルシアという同じ名前で呼ばれる世界を牛耳る最高権力機構にしてこの世界最大の腐敗と堕落の元凶と言われている彼らと・・
国際議連
七罪都市を超えて鏡の世界の民意を代表する
議員である彼らが権謀術数の罠に彼女ら二人を嵌め漁夫の利を得ようとしていると・・そう考えていたのだクリミナは。
だからこそクリミナはこう言うのだ。
その一人である「魔王」の目を見て、憐れみの感情を向けながら。
「早く「進化」させんか、話が進まんぞ。」
そうニヒルな笑みであらゆる感情を受け止めるであろう「魔王」の顔を見つめながら。
それに目を少し開けしかし魔王は目を閉じた。
その後にこう言った。
「支障はない、口だけでは無くな。」
冷淡で単調かつ感情を押し殺したような表情で鈴は、「魔王」はそう言った。
目の前の光。
電球、目のようなそれを囲む10・・あるいは12程の禍々しい機械の腕が広がる。
六節虫のような関節が腕と腕の間に有るそれは広がる。
クリミナの視界をスッと覆ったこの腕はギュウっと天井により集まればバっと光が消えた。
冷たい空気に暗い闇、
まるで人を何人も残忍に、無慈悲に殺したように思えるその機械の腕によって体が瞬時に覆われる事自体をそんな何も見えない視界の中で理解した。
・・ふわりとした浮遊感、
背中を等間隔に支える腕に身を委ねていれば目のような電球、その光がズッと更に黒く、真っ黒くただ変わった。
「・・・・成程、嵌めおったな「魔王」め。」
ビリリ、ビリリとブロックノイズの奔るその光の中でただ一つ静かにチッと舌打ちつつクリミナが言葉にすれば、視界が機械の腕に覆われ尽くした。
濃くなった暗闇そのもののという新たなる視界を得る、
そんなある種の生の実感と少しの絶望と共に・・
クリミナは意識を失った。




