↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/21

謎の転校生

 正門前で行き倒れていた少年は、保健室のベッドに寝かされていた。

 彼を担いできた啓二は、剣を杖のように身体を支えていたが、どこにも外傷が見当たらないので、脱水症状じゃないかと所見を述べている。

 保健室には啓二、卓造、春菜の他に、校内放送で呼び出された昭夫と瑠璃がいた。


「なんで俺たちを呼び出した?」

「少年から武器と防具を取り上げたが、彼に魔法でも使われたら困るからね」

「俺は用心棒じゃねえんだけどな」


 昭夫がベッドに仰向けになっている少年の顔を覗き込むと、寝ていたはずの彼と目があった。


「お、目が覚めたか」

「ここは何処だ……君たちは誰だ?」

「そりゃこっちの台詞だぜ。ここは何処だ? てめえは誰だ?」


 少年は保健室の天井を指差した。


「知らない天井だ」

「おいおい、聞き覚えのある台詞で誤魔化すんじゃねえよ。ってか、こいつが異世界人なら、なんで日本語が通じるんだ?」


 昭夫に問われた卓造は『なるほど』と、顎に手を当てて納得している。


「僕は前々から異世界転移した主人公が、日本語で現地人と会話しているのが不思議だったのだが、ここが平行世界(パラレルワールド)の日本だとすれば腑に落ちる」

「パラレルワールド? 俺にもわかるように説明しろよ」

「この異世界は、平行宇宙にある『もう一つの日本』ということだ。遠くに噴火している山が見えだが、あれは僕たちの学校から見えていた富士山と同じ場所にある。つまり僕らの見ている火山は、僕らの知らない『もう一つの富士山』だ」

「もう一つの日本とか、もう一つの富士山とか、ぜんぜん意味がわからねえ」

「そうか? 君以外の人は、今の説明で理解したと思うけど」


 昭夫は『てめえもわかったのか?』と、寝ていた少年に聞いた。


「いいや、全くわからない」

「こいつもわからねえってよ」


 卓造は肩をすくめて、昭夫の変わりに少年の前に立った。

 少年が現地人ならば、この世界には少なくとも日本語を話せる人類が存在する。

 労せずして、現地人とのコミュニケーションが可能だった。


「僕は、南粕上高校の生徒会長の吉野卓造だ。僕らの学校の前で倒れていた君は、いったい何者なんだ?」

「え、ええ……何者と聞かれても、ここが何処かさえわからないのに答えようがない」

「そこにいる啓二くんが、倒れている君を介抱してくれたんだ。名前くらいは名乗るべきだろう」

「そうしたいのは山々だが、ここが何処か、自分が何者か、何も思い出せないんだ」

「まさか記憶喪失?」

「気が付いたときには深い森の中で、街明かりのような光を目指してここに辿り着いた。どうして森で倒れていたのかも覚えていないが……たぶんモンスターと戦っていたんだろう」

「モンスターを既知として語るなら、君が現地人なのは確かだ。しかし記憶喪失では、なんの手掛かりも掴めない」


 卓造が弱った顔をすると、昭夫が肩に手を回して耳打ちした。


「いいや、この世界には人間がいるとわかったし、異世界人に日本語が通じるのもわかった。こいつは、大きな収穫だぜ」

「まあそうだが――」

「てめえには、こいつから聞き出したいことでもあったのか?」


 卓造は、何者かが学校と何かを入れ替えて空間転移をしたと疑っている。

 大きな剣を帯刀して立派な鎧を着ている少年は、誰がどう見ても『勇者』にしか見えない。派手な赤いマントを羽織る少年が『村人A』なわけがない。彼が単なる村人だとしたら、人里は勇者ぽい村人で溢れかえっている。

 そして少年が勇者ならば、大規模な空間転移を引き起こした張本人の可能性もあるし、でなくとも事情くらい知っていただろう。


「聞きたいことは山ほどある」

「じゃあ、こいつが何か思い出すまで殴ってみるか?」

「そこまでは望まない。それに記憶喪失だからといって、森に追い出すわけにもいくまい。少年の身柄は、転校生として校内で保護しよう」


 話が見えない少年は『僕はどうなる?』と、不安な顔で聞くので、瑠璃が仲間として迎えると説明した。


「サイクリング部の隆史くんには、やはり道の先に人里があるのか確認してもらう必要があるな……。昭夫、少年の処遇について任せて良いか?」

「かまわねえけど、てめえはどうする?」

「調査団と一緒に、隆史くんを石畳の道まで案内してくる。あと、ここの地形が日本の粕上町と同じなら、近くに粕川も流れているはずだ。水源が確保できれば、ここでの生活水準を向上できる。やることが山積していて、彼のことまで手が回らない」

「俺が同行しなくて大丈夫か?」

「少年が記憶喪失のふりで騙し討ちを企んでいるのなら、対処できるのは君くらいだろう。くれぐれも武器の類は渡すなよ」

「そいうことなら、わかったぜ」


 卓造と春菜が保健室を後にすると、それに続いて啓二も朝練の続きに参加すると掃き出し窓から校庭に出ていった。

 謎の転校生と残された昭夫と瑠璃は、校内では目立つ金糸の刺繍が施された青い服を、南粕上高校指定の青いジャージに着換えてもらうことにした。

 指定ジャージを着せた方が、校内を連れ回すのに都合が良いからだ。

 教室に戻った瑠璃は、体操着などが入ったサブバッグを持参して保健室に戻ってくる。


「はい、これ私の体操着ね」

「え、僕はルリ殿の服を借りるのかい?」

「昭夫の体操着だと大きいでしょう? 背丈が私と同じくらいだし、うちのジャージは男女共用だから問題ないよ」

「そうですか、では遠慮なく借りますね」


 昭夫は『ちっ』と舌打ちする。

 幼馴染の女の子が、躊躇せず自分の服を貸したのが気に食わなかった。


「ジャージーという服は身軽で良いね」

「ジャージーじゃねえよ」

「ジャッキー?」

「ジャージーだよ! じゃねえやジャージだよ! 日本語が通じても、こっちの世界にない物はわからねえのか」

「ところでアキオ殿、僕が持っていた勇者の剣を返してもらえないか? あれを手にしてないと、なんか落ち浮かなくてね」

「おい、なんで刀の名前が『勇者の剣』だと覚えているんだよ?」

「なんでって……そんなこと言ったら、タクゾ会長が出ていたのは『ドア』だし、僕が寝ていたのは『ベッド』だと覚えているのも不思議だね」

「そりゃ不思議だがよ、てめえが勇者なのは確定じゃねえか」

「なんで?」

「勇者の剣を持っていたんだから、勇者に決まってるじゃねえか」

「おおーっ、アキオ殿は頭が良いな!」

「もしかして、俺を馬鹿にしてんのか?」


 昭夫は、啓二が保健室に置き忘れていった金属バットを転校生に渡そうとした。


「昭夫、武器は渡しちゃ駄目でしょう?」

「いや、だってこいつが何か持ってないと手持ち無沙汰だって言うからよ。金属バットは、武器じゃねえだろう? 武器っていうのは、俺の持ってる釘バットのことだぜ」

「いやいや、金属バットも十分凶器になるよ」

「じゃあ剣道部から竹刀とか木刀でも借りてくるか?」

「もっと駄目でしょう……仕方ないなあ」


 瑠璃はサブバッグを漁ると、リコーダーを取り出した。


「剣の代わりになるかわからないけど、私の縦笛(リコーダー)を貸して上げる」

「ルリ殿、何から何までありがとう」

「どういたしまして」


 転校生は瑠璃のリコーダーをジャージの腰の辺りに携えると、彼女の手を取って跪いた。


「おい、てめえ。瑠璃のリコーダーを舐めたら、俺が承知しねえからな」

「僕が、なぜルリ殿から賜った聖剣(リコーダー)を舐めるんだい? 舐めたら、何か良いことでもあるのかい? アキオ殿が変なこと言うから、ぜひ舐めてみたくなったじゃないか」

「興味持つんじゃねえよ!」


 瑠璃は険悪なムードを察して、二人の間に立って止める。


「そんなことより、彼に名前を付けてあげよう! 名前がないと不便だし、ね、ね」

「名前か……ポチとかタマで良いんじゃねえか」

「そんな犬猫みたいな名前はだめだよ。そうだな彼は勇者だから、例えばユウジ――」

「おい、三(さん)下(した)。俺が、校内を案内してやるからついてこい」

「あ、はい」


 昭夫に『三下』と呼ばれた転校生は、何の反論もしないまま保健室を出ていく。

 瑠璃は『三下で良いの?』と聞いたものの、本人が納得しているようなので転校生の呼び名は、三下(仮)に決まった。

面白かったらブクマしてね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。