そう、異世界ならね
調査団が学校に戻ると、教師が校門で待ち構えていた。
教師の先頭に立っていた海原広大は『お前が唆したのか?』と、昭夫を見つけて呆れ顔だった。
「海原先生、昭夫を連れ出したのは僕です」
「生徒会長の卓造が、なんで昭夫を学校の外に連れ出すんだ? 状況がわかるまでは、校内に残るよう全校生徒に伝えておいただろう」
「いつまで経っても状況がわからないから、僕らで行動しようと決めたんです。では、僕らにはやることがあるので失礼します」
広大が『話は終わってないぞ、昭夫』と、校舎に戻る昭夫たちを呼び止めるが、誰も振り返らなかった。
「会長、お待ちしておりました。園芸部から新グラウンドの農地転用許可申請、パソコン部と無線部から校内におけるプライベートネットワーク構築、Wi-Fiスポットの設置が可能との報告が上がっています。ほかにも駐車場に停めてあった四輪駆動の所有者ですが――」
「春菜くん、報告は生徒会室でまとめて聞こう」
「はい。わかりました」
下駄箱で靴を履き替えている彼らのもとに、ルーズリーフノートを胸に抱いた長崎春菜が現れる。
生徒会副会長の春菜は、調査団が異世界探査にでかけているとき、部活動の部長を招集して会議を行っていた。
「手回しがいいじゃねえか」
「異世界転移してから三日間、僕が何もせずに手をこまねいていたと思ったのかい」
「まあ外出するときは、いつでも声をかけてくれよ」
「待ちたまえ、君たちも生徒会室に付き合ってもらうよ。今回の探査で、昭夫ならではのアドバイスが貴重だと判断した」
「俺ならではのアドバイス?」
「僕は、戦略家であって戦術家ではない。昭夫の指示した野球部とサッカー部の連携攻撃、幼馴染の瑠璃くんを囮役に使う非情な判断、どれも現場指揮を任せるに足る的確なアドバイスたったと思う」
「べつに瑠璃を囮にしたのは、いざとなれば俺一人でもゴブリンくれえ倒せると思ったからだ」
「そ、そうだよ。昭夫は、非情なんかじゃないわ」
「ふふふ、君たちは、お互いを信頼しているようだ。この難曲を乗り切るには、生徒会にも昭夫のような剛の者と、彼を支える理解者が必要だ」
卓造は、教室に戻ろうとする昭夫と瑠璃を生徒会室に引き入れた。
日もすっかり暮れた生徒会室に入ると、薄暗い部屋の中で生徒会書紀と会計の男女の双子、園崎ユリ子とバラ夫が会議で使った長テーブルを拭いている。
「ユリバラ、電気くらい点けたらどうだ?」
「会長っ、姉さんと名前を続けて呼ばないでください! ボクらをユリバラと呼ばないでと、何度もお願いしてるじゃないですか!」
卓造が蛍光灯を点けると、学ランの美少年と、セーラー服の美少女、制服の違いがなければ見分けのつかない男女の双子がいる。
双子は二年生、昭夫と瑠璃は初対面だったが、瓜二つの男女双子の噂を聞いたことがあった。
「へえ、噂の双子は生徒会役員だったのか」
「あーっ、あ、昭夫先輩じゃないですか!? どうして昭夫先輩が生徒会室に!?」
バラ夫は、顔を真っ赤にして驚いている。
「いや、てめえのところのボスにスカウトされてな」
「ま、まさか、昭夫先輩も生徒会に入るんですか?」
「話次第では、そうなるかもな。なんだ、てめえは反対か?」
「大賛成ですよ! ボクは、昭夫先輩に憧れて南粕上高校に入学したんです! 中学時代に築いた数々伝説、喧嘩上等で負け知らず、雨に打たれた子犬に傘を刺して殺った伝説、粕村中学の生徒で知らない奴はいません」
「ちょっとまて、雨に打たれた『子犬に傘をさしてやった』伝説な。『子犬に傘を刺して殺った〙は、真逆の意味じゃねえか」
「すいません! 憧れの昭夫先輩と話せて、なんかテンションがあがちゃって……はしゃいじゃって、みっともないてすね」
浮かれたバラ夫が昭夫の手を握るのだが、隣にいた瑠璃が違和感に気が付いた。
なぜなら幼馴染の手を握っているバラ夫は、学ランで椅子に座っているユリ子を『姉さん』と呼んだのに、セーラー服を着ているからだ。
「私も一つ聞いても良いかしら……あちらの椅子に座っている学ランの方が園崎ユリ子さんで、昭夫に抱きついているセーラー服のあなたが園崎バラ夫くん?」
「はい。そうですよ」
女装男子のバラ夫が臆面もなく答えるので、瑠璃は頭を抱えてしゃがみこんだ。
「瑠璃くん、そんなこともあるよ。異世界だし」
生徒会長の卓造は、瑠璃の肩を叩いて執務机に向かった。
瑠璃は『異世界だしって何?』と、呟きながら調査団の面々が着席した長テーブルのパイプ椅子に腰掛ける。
「諸君、調査団メンバーは改めて紹介の必要がないと思うので、生徒会役員の紹介だけ簡単に済ませよう。僕の隣に立っている春菜くんは生徒会副会長で、主に食料の配給や電力の管理などインフラ整備を担当してもらう。また僕が不在のときは、彼女の判断に一任しようと考えている」
春菜はぺこりと頭を下げる。
「次にユリバ……書紀のユリ子くんには各種申請書類の精査と、会計のバラ夫くんには一般生徒からの相談窓口になってもらう」
「ユリ子です。ワタシは他人に興味ありません。以上」
「バラ夫です! 姉さんは普段から気取っていますが、中身はとっても少女趣味なんです。先輩方、ボクらと仲良くしてやってくださいね」
「黙れ、ホモ野郎! ワタシは少女趣味なんかじゃない」
「えーっ、だって姉さん、いつも可愛らしい女の子の写真みながらニヤニヤしてんじゃん?」
瑠璃は『それは少女趣味じゃなくて、少女が趣味なんじゃないの?』と、ぼつりと呟いたら、卓造が目敏く気付いて『そう、異世界ならね』とウインクした。
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