7. 嵐の予兆
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大学のサークルは、授業と極力重ならない時間帯・曜日に活動することが多い。
特に多いのは、4限目や5限目の講義枠が終わった夕方以降。
そうした活動が終わると夜8時や9時前後。
自然と、そのまま夕食を皆で食べて帰ることが多くなる。
和希の所属するこの運動サークルにも、活動後に皆で食事をして帰る習慣があった。
今日は何と、見学しにきた新入生が最終的に15名弱。
普段よりもかなり大人数のまま、活動終了後は集団で学食に移動したが……。
「珍しいな、三条。ここのところ」
学食の食事用の盆を抱えて主将の日比谷がつぶやいたのを、聞こえないふりをして和希はスルーした。
基本的に和希は今まで、練習には参加してもそのあとはさっさと帰っていた。
それが4月に入ってから練習後の食事には必ず出席しているのだから、首をかしげているのだろう。
「―――――あ、三条さん。お先どうぞ」
今井慶史に、譲られ、テーブル席に着く。
慶史は和希の隣の席に座った。
和希が食事に欠かさず出ているのも、例の新橋からの依頼のせいだ。
慶史に対して日比谷が何か『余計なこと』を言うとしたら、練習時間中よりも、むしろ食事の席の方だろう。
なのでこの食事の時間は、常に今井慶史の近くにいるようにしていた。
幸い、最近あと2人新入部員が入ったらしく、日比谷の関心も分散しているようだ。
今井慶史以外の新入部員。
和希はまだ一言も話していないが、しばらくの間は避けたいと思っている。
これは和希の個人的事情からだが。
「……三条さん。
それだけで大丈夫ですか?」
「ん?」
慶史の前にある盆には、大盛りご飯にボリューム感のあるカツに小鉢のおかずがみっちりと載る。
新歓期間中につき、食事は上回生のオゴリ。
それをフルに活用している。
一方。和希の前にある盆に並んでいるのは、皿の上にさくっと盛られたサラダバーの生キャベツと、小皿の冷ややっことキムチのみ。
少なすぎやしないか?と慶史の顔が言っている。
「………ああ。大丈夫。
帰ってからちゃんと食べるから」
和希は、パック入りのキムチをぱかっと開いて、冷ややっこの皿に投入した。
主食なし肉魚なしのそのような献立を盆に載せているのは、ほかに誰もいない。
強いて言えばタッパー詰めのご飯を持参している者が二、三人いるぐらい。
「普段あまり学食には来られないんですか?」
「そうだね、自炊。
嫌いなわけではないけど、食べられるものが少ないから、自炊の方がまだ栄養が偏らなくて」
そこで日比谷の号令がかかり、和希も慶史も手を合わせて
「いただきます」
と大人しくつぶやいた。
「今井くんは、取る授業は大体決めた?」
「あ、はい。
専門と語学は決まってます。
でも全共は……数が多くて、選びきれなくて」
講義は、各学部・学科の専門科目と、全学共通科目に分かれる。
全共は、教養・自然科学基礎の科目であり、学部横断的に受講が可能だ。
内容的には人文・社会系から自然科学、健康・スポーツ科目、キャリア形成科目など多岐に渡る。
「専門と語学とスポーツ実習の時間を先に確認しておくのと、自然科学系の実験とか実習は、履修登録の前に履修申し込みが必要だから」
「え? あ、本当ですか?」
慌てて慶史は食事をとめ、自分のリュックサックから分厚いシラバスを引っ張りだし、ページをぱらぱらめくって「ああ、これかぁ」とつぶやく。
「単位、ややこしいですね。
結構しっかり確認しておかないと必要なのが取れていなさそうで…」
「単位コレクターだった人が必須なの落としていて留年するとか、ちょいちょい聞く話だしね
あと、ブラックバイトに捕まって、授業に出れなくなるとか」
そう話しながらドレッシングなしのキャベツをかきこみ、続けて冷ややっこをかきこむと、和希一人、食事が終わってしまった。
慶史の方も食べるのが速い方らしく、もう残り3分の1ぐらいになっているが。途中で帰るわけにもいかないだろう。
手持ち無沙汰のままに、和希はスマホを取り出し、いつも見るサイトをずっとスクロールしていて。
ふと、ある文章を見つけそれに見入った。
(……………………これは…………?)
思わず息を呑む。
「どうか、されましたか?」
慶史に尋ねられた。
後輩の顔は心配げだったが、極力なにげない風を装って、
「何でもない」
と携帯をバッグにしまった。
……鼓動が、密かに早まって。
胸の辺りに、息が止まりそうな痛みが走った。
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