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傷だらけの関係を君と。  作者: 真曽木トウル
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63. 見よう見まねの杖術戦

「………………」


 慶史は言葉を返さず、そっと四尺棒の先端をわずかに上げた。

 切っ先(と、杖術の棒の場合も呼ぶのかはわからないが)の延長線上にファルス本山。

 これ以上近づくなのこれ以上ない意思表示。


「おお?話聞いてたのか?

 お前のセンパイ、俺たちが捕まえてるんだぜ?」


「今、捕まえようとしてる、ということですけど……どうでしょうか。

 まだ電話も三条さんにはつながってないかもしれない」


「は?」


「俺が糺の森に入る前に、携帯が使えたことを確認しています。

 あなたがたが、たまたまその直後に、携帯ショップの人を騙して俺の携帯を使えなくして、この世に同じ番号を持つ携帯がもうひとつ出現したとします。

 それでも、30分たつかたたないか。

 その間できることはせいぜい、三条さんに呼び出しの電話をかけるぐらいですね」


「お、おう。だから、今、待ち合わせて…」


「それで、誰が俺の声真似をするんです?」


「……は?」


「疑われずに三条さんを呼び出せるほど、俺の声やしゃべりの真似をできる方がそちらにいるとは思えないんですが」


「センパイが俺の声を間違えるわけないです、ってか。随分な自信だな?」


「下手な声真似をするよりも、確実な呼び出し方があるんじゃないかと言ってるんです。

 『お前の後輩は預かった。後輩の携帯電話からかけているのがその証拠だ』とか」


「ふぅん…」


 ひそかにファルス本山が舌打ちをしたのを、慶史は聞き逃さなかった。


「でもこれも、2つ弱点があります。

 番号以外に、俺がいま人質になっていると示せる証拠がない。

 もうひとつは、携帯電話の持ち主である俺が早々に気づいてしまったら、三条さんとあなたたちのお仲間が会うより前に、携帯ショップに行って番号の不正が発覚し、俺が三条さんに連絡を取ってしまうかもしれない。

 そちらは、それだけの大人数いるんです。

 さっさと力づくで俺を拉致するなりして、三条さんを呼び出す人質に使った方が、確実なはずでしょう?」


「う…うるさいガキだ。どうしようが俺たちの勝手だろ……」


「何を隠しているんですか?

 そこに隠れている人のカメラとマイク、一体何を撮っているんですか?」


「!?」


 ファルス本山が、ばっと振り返る。


「ばかやろう!

 何してんだ、マイクの先が、木から出てんじゃねぇか!?」


「もしも、考えられるとしたら……俺を半殺しにして落とし前つける、とかそんなことじゃなく。

 あなたの『作品』で俺にも何かをさせるために、()()()連れていきたかった、とかでしょうか?」


「てめぇ………」


 ファルス本山があごで後ろの連中に合図をすると、複数の男たちがばたばたと駆け寄ってきた。ファルス本山を入れて全部で6人。

 3人は木刀を持っている。

 まぁ、京都だからいくらでも木刀売ってるところはあるか、と、妙なところで納得した。


「そんなにお前が怪我したきゃ、ボロ雑巾にして連れて行ってやるよ…!!」


 あんまり話したくなくて、慶史はその言葉には答えなかった。

 まだ自分自身慣れないエモノ一本を握り、正眼に構えて深呼吸。

 鍔がない分少しでも安定させるために、両手をやや開け気味に棒を握っている。


 四尺棒を警戒してすぐには入ってこられない男たちの中で、木刀を持った男の一人が慶史に真っ先に躍りかかってきた。


(きた)


 相手の、斜め上から袈裟懸けさがけの軌道で力いっぱい振り下ろしてきたその手元を迎え撃つように、棒の上四分の一で水平に鋭く撃った。


「ぐ、があ……」


 木刀をとりおとした手をさらに撃ちすえると、その棒の先で真っすぐ相手のみぞおちを突く。

 突きながら続く者たちが近づいているのを慶史は察していた。

 棒を引きながら慶史は大きく跳ね下がった……


 先ほどの男はみぞおちを押さえながら苦しみ。

 先ほどの機会に間合いに入り損ねた男たちが、じりじりと、慶史との距離をどう詰めようかと迷う様にすり足する。


「な……なんだよ、そのエモノ……」


 そう、ひどく絶望的な声音でつぶやく奴がいたが……それでも1対5人。状況は全く慶史に有利なものではない。

 というか、四尺棒に慣れない慶史だからさっきの突きぐらいで済むのであり、剣道経験者(けいし)の竹刀の突きなら生身の体にするのが恐いほどエグいのだけど。


(2人以上の人間に挟まれないように、かつ相手の1人の体が邪魔になってもう1人がかかってこれないように、常に相手を一直線上におくように闘うって、三条さんは言っていたっけ)


 で、相手が5人の場合。一直線上にはおけないわけで。

 できるだけ棒の切っ先で威嚇できる位置に全員をおくように(と表現したがもちろん動くのは慶史自身である)、一人一人大怪我させない範囲で戦闘不能にして減らしていかないとならない。


 1対多数の実戦。まさかそんなものが、とうの昔に剣道を辞めた人間に降りかかってくるとは思いもしなかった。


(三条さんは、いつもこんなことをしてるのか…)


 知らす知らずのうちにピキピキ心臓が痛い。

 そのくせ変な脳内物質でも出てるのか、頭はいつも以上に回転するのを感じる。

 今さらだが、メガネの視界には端の方のレンズがない場所に死角ができる。早いとこコンタクトレンズにしておけばよかった……と、若干後悔した。


 2人めの敵は、袈裟懸けの軌道は危ないと学んだのか、早々に頭の上にまっすぐ木刀を振りかぶる。

 いわゆる大上段の構えで、大袈裟に見えるけれど、降り下ろされれば重力が乗るので厄介だ。


「でやああああああああっっ」


 大声をあげながらまっすぐに入ってくる男。


(!)


 とっさに慶史は横身にぐっと低く身を沈め、片手で握りしめた棒の底にもう片手を添えて、男の腹をついた。


「あ……あ、あ……」


 降り下ろされた木刀は慶史の頭と肩に届いたが、それより先に入った突きと高さのせいで、ほとんど慶史にダメージはなかった。


(三条さんのカウンター蹴りの応用……)のつもり。

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