62. もう一台の携帯電話
「……どうしてここが?」
「知ってるか?
携帯電話を紛失したと言って携帯電話会社に問い合わせたら、おおむねどの範囲にあるか答えてもらえるんだ。
そして番号と身元さえ正確に答えられれば、携帯の緊急停止をさせることもできる」
「…………」
慶史は、背中の筒型ケースに手を回す。
「おっと。なーんで自分の身元と電話番号がばれたのか、ってことか?
それは調べるのに骨が折れたぜ。大学までなんとかわかったのに……あの女、まるで自分のことを周りに話してやがらねぇ。
あとは目撃証言か……と思って、総出でSNSを探して漁らせたらな」
黙っていられないほど嬉しいのか、ファルス本山は次々に語る。
「牧ノ瀬覇華が見学先のサークルに来ていたやら、宙返りする背の高い女がいたやら……無警戒に書き散らしてるガキどもがいてな。
そいつらの身元を特定して吐かせるなんて造作もねぇ。
あとは、特定できたそのサークルとやらの部室から、部員名簿を漁ったってわけ。
あの女…三条大橋で加勢に来た男を『今井くん』と呼んでたそうだ。
そんな風に呼ばれる奴は、今井慶史。
名簿にお前しかいなかったからなぁ」
筒型ケースを肩から外すと、慶史は、無言でそこから四尺の棒を出した。
「おっと。俺はまだ何もしていないぜ?」
「俺もまだ何もしませんよ」
慶史は構えないが、棒を斜め下に向けて片手に持ち、そこにもう片方の手を添えている。
いつでも構えられる、風に見せているだけ。まだまだこの棒は慣れない。
「今まであなた方がしてきたことを考えれば、これぐらいの警戒は当たり前でしょう」
「そうか。じゃあ、もう一つ良いことを教えてやろうか?」
ファルス本山の向こうに距離を置いて、仲間らしき男たちが待機するようにこちらを見ている。
2、3…4人。もっといるかもしれない。
「よそ見してんじゃねぇよ。その携帯電話、どうしてわざわざ止めたかわかるかぁ?」
「…………?」
「良いこと教えてやる。携帯電話をなくすと困るよなぁ?
そんなときはいーい方法があるんだ。
まずは警察に言って、身元を名乗りながら遺失物届を出すだろ? そしてその受理番号を書いた紙を、携帯ショップに持っていったらなぁ……」
にかぁ、と、汚い満面の笑みを浮かべながら、本山は続けた。
「おんなじ番号とメールアドレスが使える、代わりの携帯電話を貸してくれるんだよ。わかるか?」
「…………!!」
「かわいそぉぉに。
いま、まさに、三条和希は、てっきりお前の携帯の番号だと思って出た電話に呼び出されてるのよ。
俺の仲間にな。
さんざんナイト気取って残念だったなぁ?」
まさか、と思いながら、冷たいものが背中を走る。
(俺のせいで?
俺が、携帯の異常にすぐに気づかなかったせいで、俺だと思って…?)
混乱と後悔と罪悪感と。
「おーお。顔色が紙みてぇに白くなりやがった」
……ふざけた口調の本山への怒りと。
「それで、俺に何を?」
「おじさんもなぁ、鬼じゃぁないんだよ?
アイツが、そーんなに、昔やってたことをもう一回やるのが嫌だって言うなら、まぁ仕方がないけど。
落とし前ってのが必要なんだよなぁ世の中。今井クーン」
つか。つか。と、本山が慶史に近づいてくる。
「お前、俺らに黙ってついてきて、代わりに半殺しにされろや」




