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傷だらけの関係を君と。  作者: 真曽木トウル
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61. 糺の森

◇◇◇



 ―――――1時間ほどさかのぼる。


 そのとき今井慶史は、下鴨神社の境内の中にいた。


「うおー。門、めっちゃ綺麗…」


 門、なのかはわからないが、赤が映える美しい建築物に、慶史は見とれた。


 京都市内に住むものの、めぼしい京都の観光名所はまだほとんど回れていない。


 下鴨署の近くでどこか時間をつぶせるところはないか……と携帯で調べていて、ふと、まだ行ったことがない上に森に包まれて周囲からは全貌がよくわからない、下鴨神社に行ってみよう、と思い立ったのだ。


 鴨川は、京阪出町柳駅のすぐ近くで高野川と賀茂川という2つの川が合流して始まる。


 その2つの川に挟まれるような位置にあるのが、下鴨神社だ。

 別名を賀茂御祖(かもみおや)神社。

 京都でもっとも古い部類の神社で、できたのは崇神天皇の頃と言われているらしい。

(……崇神天皇って何代目かよく知らないが)


 とにかく、京都の神社仏閣の中でも上位に入る知名度なので、とりあえず一度は行ってみておこう、そういう軽い気持ちだった。


 ……軽い気持ちだったが、鴨川の分岐点から北へ北へ上って行く途中に若干後悔した。

 意外と遠かった。


 しかも、森に入って

(ああ、これが糺(ただす)の森かぁ……散歩コースとかにいいかも…)

とか思いながら歩いて行ったがまたこの森が広い。


(鳥居あるけど、方角合ってんのかなこっちで…)


と不安になり始めたころに、下鴨神社の建物が見えてきて、思わず慶史は走り出してしまった。


 ――――で、今に至る。


 建物近辺には観光客らしき人がちらほらといて、みな同様に建物の美しさに見とれ、写真を撮りまくっていた。



 ここに来る前にスマホで調べたところによると、元々は平安時代以降、21年ごとの式年遷宮が行われていたようだ。


 しかし明治に本殿2棟が国宝に指定されたため、現在は一部を修復するに留めている、と。



(確かに。こんなに綺麗な建物を、21年だかで建て変えちゃうのはもったいないけど……)



 しかしながら国宝に指定され式年遷宮が行えなくなったことで一つ伝統が失われたとも言える。

 もしかしたらこの糺の森も、式年遷宮を想定してこんなにも大きいまま現代に残されたのかもしれないし。


 ところで、ご神体とかは誰なのかな、と思い、再び慶史は、自分のスマホをポケットから取り出した……。


(あれ?)


 画面に輪っかがグルグルするばかりで、検索が、できない。

 よくよく見ると電波が一本も出ていない、圏外の印さえ表示されていない。


「え………?」


 試しに三条和希に電話をかけてみる。

 かからない。『おかけになった番号は…』というアナウンスさえない。

 どういうことだ。

 携帯が、使えなくなった?


(…………まずい)


 時間通りに待ち合わせの下鴨署に三条和希が来ればいいけれど、このタイミングで携帯が使えなくなるのは非常に危険だ。

 まだ待ち時間はある。すぐにでも対処したい。

 どこかに、携帯電話のショップはあっただろうか……?

 それさえも検索して調べることもできない。


 そういえば、賀茂川の向こう、河原町今出川の方にあったようななかったような。

 漠然とした記憶を頼りに、再び南に向けて、慶史は足早に歩き始めた。


 鳥居の真ん中などは神様の通り道なので、基本、道も端を通りながら歩いていると………


(………?)


 木洩れ陽がわずかに入る糺の森の中。


 慶史の足の先に、道の真ん中を堂々とふさぐように立つ男が一人。

 体格よく仕立てのよさそうなスーツを着ているが、その顔色は、記憶にあるものよりだいぶ色白で病み上がりの顔色で。


「イマイケイシくん、というそうだな?」


 そう呼びかける。

 ―――――――この間、三条和希にKOされたばかりの、ファルス本山だった。


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