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傷だらけの関係を君と。  作者: 真曽木トウル
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3. 河川敷

◇◇◇



 京都を象徴するこの鴨川。

 その河川敷は、近隣の住民や学生たちの憩いの場となっており、しばしばサークル活動にも使われる。今日の活動場所だ。


 和希は、ふわっと鼻先をくすぐった風に、くしゅん、とくしゃみをした。風邪気味だったのを思い出す。


 すでに練習場所の芝生の上にいるのは、和希と慶史、3回生が2人と、見学者がもう1人。

 後の部員はぼちぼち遅れて来るという。

 サークルの雰囲気はかなりゆるく、だからこそ和希も、退会せずゆるゆると在籍し続けている。



 長座体前屈の姿勢をとる慶史の後ろに立ち、意外と広いその背中をゆっくり押しながら。


「ゆっくりね、ゆっくり。息吐いて」


 つい先ほど、教育係を任命されたばかりの和希は声をかけた。



「背中は丸めずに、腰の方から折っていく感じでね」


「は、はいっ」


(てゆーかキミ、相当かたいね)


 思わず口に出かけた言葉を、和希はかろうじて呑み込んだ。



 しかし今井慶史は、緊張で多少どもることがあるのを除けば、挨拶あいさつも態度もしっかりしたものだ。新橋から話をされたあの件がなければ、別に教育係などまったくいらないだろう。



 強いて言えば。


「三条先輩、……あの、バンソウコウ俺持ってますけど、使いませんか??」


「……かさぶたになってるから。大丈夫」


 こちらの顔の傷にまで、少々気を遣いすぎているところが、ちょっとうざいぐらい。

 それは自分が『先輩』ゆえ、なのか、『女の子』ゆえなのか? 気にしだすと若干もやもやするので忘れよう。


 慶史の開脚と、股関節のストレッチを終えて、一度、和希は慶史と交代した。



「あ、押します……」


「や、いいや」



 さっと座ったらそのまま至極何気なく、和希は180度開脚して地面に胸をぺったりつける。

 慶史は目を丸くする。



「キミ、とりあえず、このサークルの活動はわかって入ったんだよね?」


「ええ。個人がそれぞれ自分の運動能力を向上させるためにメニューを組んで練習していく運動サークルってことで、いいんですよね?」



 正解。

 それにしても、こんな非常に地味なサークルに、新入生がわざわざ好き好んで入るのも不思議な感じがするが。



「何でこのサークルに入ったの?」


「えっと……え、あ、その」妙に慶史は動揺する。


「だ、大学でも何か運動やりたくて、自分の弱点を強化し、ようかなと思っ、たんですよ」



 動揺しすぎなのか、よくわからないタイミングでかむ。

 それなら主軸にするスポーツを先に決めたほうが良いような。



「むさ苦しいし、部員の礼儀はなってないし。ウチのサークルそんな取り柄ないと思うんだけど?」


「そ、そんなことないです。

 す、すごく居心地いいですし……

 日比谷さんとかもすごく面白い人ですよね」


「ふうん…………」



 一応和希はうなずいた。

 その<日比谷さん>が、まさに和希が教育係を任命された理由だった。


 和希は、先ほどの新橋の言葉を思い返す。



『さっき見ててわかったろ?? 彼いい子なんだけどさ 、極度のあがり症っぽいんだよね』


『日比谷が絡んだり、もっと男らしくしろとかうるさく言ってきそうじゃん。今井くんが遠慮して萎縮したりとかしないで、楽しくサークルで過ごせるように、面倒見てあげてほしいわけ』


『日比谷のやつ、悪気はないんだけど、無意識にマッチョ信仰ってか、男らしくない男は男じゃない!心構えしだいだ!弱い男はじぶんで何とかしろ!みたいなとこ、あるからさ』



 そして。



『なぜ自分に?』

……と和希が問うた時の返事はといえば、



『だって、いざってとき日比谷に真っ向から刃向かえるのなんて、うちのサークルじゃ三条ぐらいじゃん?』



 だそうだ。



 確かに言われてみれば腑に落ちる。

 和希を選んだところまで含めて。



 ストレッチを二人で続け、慶史と些細な言葉のやり取りを重ねながら、和希はふと、ため息をついた。



「三条さん?」



 また、慶史が心配げな目で見てきた。

 和希は鬱陶しそうにその視線を視界から外す。



「…………あの」



 ストレッチを終えたタイミングで、慶史が和希に声をかけた。



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