↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷だらけの関係を君と。  作者: 真曽木トウル
30/87

29. 隠し刀

◇◇◇


(…久しぶりに、結構顔面食らったわ…)


 直撃は避けているとはいえ。

 あんな細い体だけど正拳突きで板3、4枚軽々と割る、強さと正確さを併せ持つ覇華の拳はなめられない。


 とはいえ、パンチの軌道が主にえぐりこむようなストレートなのは、やはり体格に勝る和希に腕をかぶせて折られることを警戒しているためだろう。

 覇華が本来一番得意とするのは、顎の特定の位置をピンポイントで狙って脳を揺らす軌道だからだ。


 お互いに直撃を避けつつも、なかなか覇華はばてる気配はない。

 さすがに世界レベルのアスリートの蹴りや回転の動きは洗練されていてムダがないと感心する。


 背中側に回る覇華に、和希は後ろ蹴りを当てるが、間合いが近すぎて蹴りこめず覇華を逃がした。


 こういうところがとにかく歯がゆい。

 体格・筋力は 和希の方が上だが、結局長すぎる手足を封じられている感じがするのだ。


 和希は、すっ…、と、さらに距離を置いた。

 逃げ回るかの如く、試合のなかではややあり得ないぐらい長めに距離を稼いだ。


 覇華のステップは見事だが、和希の蹴りさえ当たらないそこまでの距離は想定外だったろう。

 様子を見るように和希への追撃を止める覇華に、呼吸を合わせて、地面の上で軸足を滑らせる横蹴り(ヨプチャチルギ)。


 和希のリーチなら届いていたところを、サイドステップで避けた覇華。

 蹴り足の戻しに合わせて横蹴りがとんでくる。


 和希がガードして足同士が強烈にぶつかり合う形になる。


 足を戻した、二人はオープンスタンス。


 右足を前に盾のごとく構えながら、次は来る、と和希は直感した。


 膝のバネを使いつつ、もう一度、和希は横蹴り。


(!)


 蹴り終わりさえ待たなかった。

 覇華が跳躍しながら 顔面にワンツー。さすがの突貫力だ。


 やや食らいながら、和希は顔面のガードに置いていた手………左手で、覇華の右手首を捕った。

 右手で覇華の後ろ襟を捕る。

 そのまま覇華の突きの勢いを殺さないよう。


 ぐ る ん。


と、大きく回すように和希は覇華を投げた!


 よろけて転がりそうになった覇華。


 ……大きく体勢を崩しながら、どうにかこうにか、ぎりぎりのところで転がらずに踏みとどまり、すぐ距離を開けた。


「……」


 渇いた溜息をついた、覇華。

 すぐに体勢を立て直したが。

 少しは、動揺、させられただろうか? 和希はできるだけ、冷静に見つめようとした。



◇◇◇



「テコンドーに、あんな技があるんですか?」


 驚く慶史に、男は首をかしげて見せた 。


「テコンドーのホシンスル……つまり、立ち技関節系の護身術には、ないんじゃないかな。

 相手の突きの勢いをそのまま回転の勢いに変えて投げるものだから……

 これ、拳法系の人が使っていたのは一回見たことある」


「へぇ…」


「重心が前に行くティミョチルギ、つまりジャンプしてのパンチに合わせたようとしたんだと思うけど…

 テコンドーの体勢からだとそもそも困難なのと、タイミングが遅かったかな。

 突きを食らう前の段階で崩しとくべきだった」


 彼の解説の間にも、覇華と和希は手足という刀で斬り結び始める。


 慶史の目がついていけないほどの速さで。


 段々。リーチが長い和希が押し始めた。

 時折、覇華がリーチをつめるたびに和希がつかみにいくような手の動きをするのが 、牽制になっているようだ。


 以前見せてもらったような、くるくると華麗に回る連続蹴りが、覇華を追い詰めていく。


 それを見ながら、慶史は、違和感を覚えていた。

 和希の蹴りが綺麗すぎる感じがする、のだ。


「さっきのお話ですけど……投げ技も使いたいから、三条さんは、ここを選んだってことですよね?

 構えも変えたのは、牧ノ瀬さんのパンチを捕るつもりで」


 そう口にする。


 あれ?と男は切り返した。


「投げるなら、地面は固いほうが好都合なんじゃないの?

 アスファルトの方がこすっただけで皮膚も破けるし、落ちてもダメージは大きくなるし」


「いえ……でも……だからこそ」


「それじゃ、<使えない>?」


 言おうとした言葉を相手に先にいわれて、慶史は目を丸くした。

 男は、にっ、と笑って見せる。

「たぶんそろそろ、終わるかなぁ」 と言った。



◇◇◇



 すっかり距離をあけた覇華に対して、和希はいつも通りの攻勢に出た。

 ……といっても、いつも通りの動きをせざるを得ないほうに持っていかれた、といっていい。

 それも、攻勢に出ながらも、なかなか、自分が望む決定打を打てないことにいら立ちを感じていたのだ。


 飛びかかと落としからさらに軸足をスライドさせつつ上段前蹴りで、上足底が覇華の顔に当たる。


 ……でも、自分がやりたいのはこれじゃない。


 わかっていたから、力が入らなかった。


 和希は追撃の連続蹴りをかわされた後、右の上段後ろ回し蹴りを選択した。


 絶対よけられないように、あえて高さは少し低めにした。

 この距離ならば、覇華がスウェイしてもかわし切れず、こめかみに当たるはず!


(!?)


 足が止められた。

 一瞬どうなったのかわからなかった…


 なんと覇華が距離を逆につめ、加速がまだ緩やかな和希の膝に近い位置を、肩でぶつけるように受けたのだ。


(ぐっ……)


 そのまま入り込んだ覇華の肩に和希の膝が乗る。

 跳ねあげられるように足を持ち上げられて、一瞬動けない。


 倒される !


 和希は焦って、覇華の側に体を向けるよう腰を思い切り、引いた。


 体勢が変わったのと回転の勢いで弾かれたのとで、右足が覇華の肩から自由になったのを確認した次の瞬間。

 右側の視界の外から来た何かが強烈に和希の脳を揺らし、ふっと、そのまま意識を奪った。



 和希の右手のガードが追いつく一瞬前。

 それは、ごくごくシンプルなハイキックに見えた。



◇◇◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。