14. レイプとは何かを知らない大学生
◇◇◇
「いや、だってコレ、毎年恒例のうちのサークルの裏イベントで……。
毎年やってるけど、女の子から後から何か言われるようなこと、ないって。
嫌がってるの無理矢理ってことも、してないしっ!?
ただ、ここまできて、そんな気なかったんです~なんて言われたらズルいから、ちょっと強い酒飲ませて潰してるだけ。
それがレイプだなんて……」
深夜の個室居酒屋の壁に追いつめられたこの男は、支離滅裂で矛盾だらけな言葉を吐き続ける。
そして、その横では。
「レ、レイプだとか言われても……だって、ほら、ケガさせたり脅したりとか、していないでしょ?
お酒飲んで、気持ちよくなって……ついでにそのまま、もっと気持ちいいことしちゃえ☆みたいな…話、じゃない……
なんなら私も新歓コンパであったし、その……みんなで初えっち?
お酒でちょっと刺激的な体験、っていうか食べられちゃった☆っていうか……
……だから…その…男子に頼まれて、軽い気持ちで……女の子に声かけ……」
このサークルの先輩学生らしい女子は、ぐちゃぐちゃになった髪もかまわず、うわごとのようにこちらに弁明をつぶやき続ける。
「お、おまえだって、傷害罪だぞ! こんなことして、許されると思ってるのか……
うちの先輩にだって、弁護士はいるんだからな…!!」
男の言葉を無視して、三条和希は、つい先ほど自分が起こした惨状をぐるりと見回した。
畳敷きの部屋の中、死屍累々という言葉が似合いそうな形で、10人近くの男子学生がごろごろ転がって呻いている。
全員酒はそれほど飲んでいなく、倒すにも手加減しておいたので、中には回復しつつある者もいるだろう。
不穏な空気に、逃げ出そうにも逃げ出せないというところか。
ほかに、2人の新入生女子―――1人はこんこんと眠り込み、1人は先ほどまで嘔吐を繰り返して、いまもつらそうに休んでいるが―――に、ひとり無事な男子学生が水とおしぼりを持って寄り添っている。
本日、また週末。
ただ今、某学生サークルの、第2回新歓コンパ3次会の現場である。
このサークルの一部の男たちは代々、新入生の女に狙いを定め、新歓コンパを利用して酔い潰し、2次会、3次会で少人数になったところで<食べる>という行為を毎年繰り返していた。
手口自体は、反吐が出るほど使い古されたものだった。
対象は、加害者とは結婚も交際もしているわけではない、また性行為に同意もしていない女。
その女を、何らかの名目で、食事の場や宴席などに呼び出し、酒で酔いつぶすなどし、意思確認なく抵抗のできない状態にして、性的加害、強姦を行おう、という。
あまりにテンプレすぎて、被害者が被害を訴えようものなら
【その気がないなら来るわけがない】
【被害者も同意していたはずだ。こちらが嵌められた被害者だ】
と、これもまた使い古された<落ち度>をよってたかってあげつらって無理矢理口をつぐませるのだろうという卑怯な腹づもりまで読めてしまう。
つい先日、第1回コンパの何次会だかの襲撃時にも会ったばかりの首謀者の男。
そちらに和希がにじり寄ろうとすると、女子学生がかばう様に彼の前に出て手を広げる。
「………だ、だって、だって、3次会まで来てる時点で、女もその気、ちょっと内心期待とか…あったりするじゃん?」
鼻声で再び、自己弁護を彼女は繰り返す。
――――いや、擁護か。
「で、その……その気が、もしなかったとしても、嫌な思いはしないって。
うちのサークルの男子なら悪い子いないし、優しくしてくれるもん…。
だから、ちょっと、大人の階段昇っちゃった☆みたいな……
わた、私は、嫌じゃなかったもん……」
必死なエクストリーム擁護か、そもそも認知自体の歪みなのか。
話がまったく通じない予感に、女も含めて全員ぶっ飛ばしてさっさと酔いつぶされた女の子たちを家に送るなり病院連れていくなりしたほうがいいんじゃないか?………という投げやりな考え方になっている自分に気が付き、和希は自制した。
そして、言葉を選んだ。
「そうですね。“あなたは”そうだったんでしょうね、“あなたは”」
「いや、だって……
そんな、私はビッチかもしれないけど」
「そんなことは言っていません。
同意のないセックスは犯罪です。単純に、あなたはあなたの考えのもと、それを許した。
あなたにとってはそういう状況でそういう相手だったんでしょう。
それは、あくまでも、たまたま、あなたにとっては、です」
しごくあたりまえの常識を言っているだけだ。
でも、『同意のないセックスは犯罪であり、相手を酷く傷つける行為である』ということを、小中高ではどの教科でもまともに教えない。
そして親は親で、かなりの高確率で性的な情報を子供に与えることを忌避する。
重い性的被害を受けた者の、その先などは、なおさら知らないだろう。
「同じ被害を後輩に与えてはいけない。
自分の体のことは、本人だけが決める権利があるんです」
もしかして彼女も、どこからも教えてもらうことはできなかったのか……しかし免罪はできないが。
女子学生はぐすん、ぐすんとしゃくりあげながら、男に覆いかぶさるようにして抱き締めている。
彼を守ろうというのだろうか。
「なんで?
なんで、あなた、自分でもない人のこと、被害だって決めつけるの?
やったら気持ちいいかもしれ、ない、じゃん……」
それでも女子学生の言葉は弱弱しくなってきていて、和希は荒いため息をついた。
「ここに来ているからその気があるはずだとか、うちの男子ならいいだろうとか、殴る蹴るがなければいいだろうとか。
酔いつぶして、彼女たちの自由も意思表示の機会も奪っておいて、彼女たちの意思を勝手に都合よく決めつけているのはあなたたち。
悪いことしてるって、わかってるんでしょう?いい加減」
「……………」
「少なくとも、この間。
同じくこのサークルの新歓の何次会だかから私が連れ出した新入生の女の子は、一切セックスしたいなんて思っていなかったそうですけど?
嫌な感じはしたけど、先輩たちだから気が引けて、触られても自意識過剰かもしれないと思って言えなかった、と。
一体、どこに同意がありますか?」
首謀者の男に覆いかぶさったまま、言葉を発さない女子学生。
和希に何を言われようが、立場を曲げない気だろうか?
「おい………」
女子学生にかぶさられたままの、首謀者の男が、憎々し気にある名前を呼んだ。
ぐったりした新入生二人に緊張した面持ちで寄り添っている――男子学生の名前である。
「前の時も、こいつ呼びやがったの、お前だったんだな。
この裏切者……」




