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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月29日
48/87

48.危険地帯

 「優一さん、今日はお掃除なさらないのですか?」

 一階の廊下で立ち尽くして悩むオレに、メイドさんが声を掛けた。


 「いっ……いや、あの、すっする。するけど、タンス捨てたくって、その……でも、君、部屋に入っちゃダメだし、オレ一人じゃ無理だし……」

 「では、どうすればいいのか、ご主人様にお伺いしてきます」


 あーッ! オレ、何を口走ってんだよ! 

 今のじゃメイドさんに手伝ってもらう気みたいじゃねーか。

 つか、ムネノリ君に入室の許可取るんだよな?

 見える所にヤバい物はないけど、メイドさんに、あの害虫飼育箱はダメだ!


 「いや、まっ待って! 待って!」

 「はい?」

 メイドさんは、靴を履きかけた姿勢のまま振り返った。


 「いっいや……うぁ……あの、さっ三枝(さえぐさ)……三枝さんに、言って……」

 「ご主人様と、三枝さんにもお伺いすればよろしいのですね」

 「いっいや、その……うっうん……」

 メイドさんは庭に出て行った。残されたオレは、全身がギシギシと軋むように痛んだ。


 ……ああ、これ、筋肉痛なんだ。


 痛みの正体に気付いた。

 超久し振りに重い物を持って、階段を何往復もしたからだ。理由がわかったところで痛みが和らぐ訳ではないが、腑に落ちてちょっとすっきりした。


 「お部屋の様子を見て、入っても安全そうなら私が、そうでなければ三枝(さえぐさ)さんが運ことになりました。お部屋、拝見しますね」

 メイドさんは軽快な足取りで階段を上り、すぐに降りてきた。部屋のドアが開けっ放しだったからだろう。

 そのまま玄関を出て、三枝を連れて戻って来た。


 え? オレの部屋ってまだ危険地帯扱いなの?


 「優一さん、三枝さんが『重力遮断』の魔法を掛けてくれますので、一分以内に運んで下さい。玄関までで結構ですから、頑張って下さい」


 一分……持続時間、短過ぎんだろ! で、オレ一人かよ!

 途中で切れたらやべーじゃん!


 「昨夜も、優一さんお一人でゴミ出し頑張られてたみたいですし、きっと大丈夫ですよ」

 「いや、あ……ま、まぁな。タンス一個くらい、オレ一人で充分だ」



 三人で二階へ上がる。

 丸洗い魔法、机周辺は避けてもらったから、あの辺のカーペットには、まだ……虫が居て、メイドさんは入れないんだろうな。

 寝てる間に、洗浄済みゾーンに幼虫が移動していることも有り得る訳で……よく考えたら、メイドさんを部屋に入れるとか、とんでもなかったわ。

 オレは、虫を踏んだ足の裏の感触を思い出し、身震いした。


 ……ダメ過ぎる。

 オレの部屋、危険地帯だったわ。虫的なイミで。


 三枝はさっさとオレの部屋に入り、タンスと本棚の間に立って手招きした。

 オレが部屋に入ると、共通語で何か説明し始めた。


 「いや、ちょっ……待て、オレ、共通語は……読解はイケるけど、きっ聞きとりは、その……」

 「優一さん、タンスの正面に立ってしっかり抱えて下さい。術が発動したら三枝(さえぐさ)さんが合図します。それから持ち上げて下さい。とても軽くなりますから、気を付けて下さい」

 「いや、え……お、おう。わ……わかった」

 三枝はタンスの側面に掌を押し当て、多分、湖北語で呪文らしきものを呟いた。

 短い詠唱の後、三枝はタンスの側面をポンポン叩いて、俺に頷いてみせた。

 オレはタンスにがっぷり組みつき、一気に持ち上げた。

 空の段ボール並の軽さに拍子抜けし、勢い余って二、三歩よろよろ後退する。


 ああ、これ、ホントにオレ一人で充分だわ。


 体勢を立て直したオレは、廊下に出た。


 カサカサカサ。


 引き出しの中で虫の蠢く音がする。さっさと捨てよう。

 足下に注意しながら階段を降りる。

 軽くなったタンスを抱えたまま、靴に足を突っ込む。きちんと履いている余裕はない。新品の靴の踵を踏み潰し、玄関を出た。

 後はムネノリ君の前に置いて、あの爆炎魔法で灰にするだけだ。

 オレは顔だけムネノリ君の方へ向け、タンスを抱えて蟹のように走った。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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