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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
五章 女神は誰のために
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ウォーレンの策略

 何とか包囲を抜け出たサーネルとセインは後方へと下がり、そこでは何人かの幹部が待ち受けていた。

「ご無事でしたか、セイン様!サーネル殿!」

 真っ先にザインが二人に気付き迎え入れる。そこには張り詰めた空気が流れていた。

「状況はどうなっている!?」

 すぐにシスターが駆け寄り傷の手当をしながらも、二人は今の状況を把握しようとする。

「すでに中央の部隊は囲まれています。残りの部隊が何とか包囲を破ろうと奮闘しているところです」

「くそっ!気付けずに踏み込んだ俺の責任だ……!」

「セイン様!後悔なさるのは後です。今は味方の救出を!」

 一人落ち込むセインをサーネルは叱咤し、すぐにでも味方を助ける策を考える。

「分かっている!あそこにはグレイもいるんだ……!」

 まさかあそこでグレイが現われるとは思ってもいなかった。グレイを残し、自分たちだけ逃げてきたセインは自分の過信を後悔していた。

「……まずは囲まれた味方との合流が最優先。左右から一点を突破し救出を!」

「はっ!」

 すぐに指揮官たちが動き出し、それぞれ部隊を動かしていく。中の部隊が劣勢であるのは明らかで、時間が経てば経つほどその数を減らしているだろう。一刻も早く彼らを助けたかった。けれど状況は更に追い詰められようとしていた。

「伝令です!」

 サーネルの下に一人の兵士が駆けつけてきた。その顔を見れば嫌な伝令であることが分かってしまう。

「何だ!?」

「東より敵の援軍です。その数、千ほど。遠距離攻撃を主とした兵が中心になっております」

「援軍だと……!?」

 想定していなかったわけではない。けれどこうもタイミング悪く現われたことに焦りを感じざるを得なかった。尤も敵にとってはこれほど絶妙なタイミングはないだろう。

「千などと多すぎる……!兵力を割ける場合でもないというのに!」

 サーネルは苛立ちながらも、どう対処すべきか考える。遠距離を得意とする兵が多いならば騎兵で一気に駆け寄り殲滅するのがいいだろう。けれど多くの兵を割けるはずもない。何より騎兵の主力はほとんど中央で敵に囲まれてしまっている。

「どうすれば……」

 必死に思考を駆け巡らせていると、サーネルに近づいてくる人物がいた。

「それ、俺たちに任せてみろよ」

 その声に視線を向けると、そこにはヴィズが不敵な笑みを浮かべて立っていた。

「ヴィズ様……」

「俺たちの騎兵二百で食い止めてみせる。だからあんたたちは中の奴らを助けることに集中しな」

「しかし相手は千です。いくら貴方といえど……」

「目的は援軍を食い止めることだろ?別に殲滅するわけじゃないんだ。それだけで十分だ」

 サーネルは探るようにヴィズの目を見続けた。正直言えばまだヴィズを完全に信用していないのだ。裏切るなどとは微塵も思っていないが、大事な局面で起用するほどの信用はできていなかった。それがヴィズにも伝わったのだろう。苦笑しながらもサーネルに言葉を寄越す。

「ま、あんたの気持ちも分からなくはないけどな。だがこうしてる間にも敵の援軍は到達しようとしているんだぞ」

「……分かりました。ならばその千に関しては全て貴方に一任しましょう」

「了解だ」

 ヴィズはそれだけを残し、すぐに部隊を動かしにいく。その様子を見ながらサーネルは胸中で思う。

 ヴィズの強さ、そしてカリスマ性はサーネルも十分に認めている。けれど指揮官の腕はどうなのだろうか。サーネルが知る中でヴィズが軍を率いたことなど、ゾディアでの戦いの一度きりだった。だからこそ不安も拭えない。しかしいつまでも考えているわけにもいかず、まずはグレイたちの救出を最優先とさせる。サーネルもまた指揮を執るために動き出した。







 両軍が熾烈な争いを続ける中、その東の方角にてカーム軍の援軍千が待機していた。

「状況は?」

 指揮官であるウォーレンが副官の兵へと尋ねる。

「フィロン様の作戦通り、現在敵の一部隊を包囲し、それの殲滅に掛かっている模様です。反乱軍はその包囲を解こうと攻撃を集中させております」

「ふむ……。我らの存在は知られているのですか?」

「恐らくは。すぐにでもこちらへと兵がやってくるとは思いますが」

「分かりました。現われたらすぐに知らせなさい」

「はっ」

 フィロンの指揮の腕はウォーレンも認めている。数の不利はあれども、決して苦戦を強いられてはいないという確信があった。今のところは全てがカーム軍の作戦通りに運んでいるのだ。ここで自分たち援軍に反乱軍がどれほどの兵を割くかが鍵でもある。同じ千とはいかずも、なるべく多くの兵を引きつけたい。

「……もう少し進軍しますか」

「よろしいのですか?」

 今ウォーレンが率いている千の部隊は全て歩兵であった。もし敵が騎兵を駆けつけてくれば容易に追いつかれてしまう。それを懸念してのことだったが、ウォーレンも危険を承知。距離が近くなるほど、こちらへ割く兵も多いと睨んでいるからだ。

 そう思い行動に移そうとしたが、それより前に遠くから反乱軍の姿が移った。

「来ましたか。攻撃用意!」

 ウォーレンは号令を出す。ここにいる兵のほとんどが弓兵と魔術師である。敵が近づく前にその数を一気に減らしておきたいところだ。まずは敵軍の数を確認しようとウォーレンは目を凝らす。

「あれは……全て騎兵ですか。数は……あれだけですか!?」

 まさか自分たちの目的が陽動だということがバレているのだろうか。それともフィロンの部隊との戦いでその数が減りすぎたのか。はたまた自分たちを甘く見すぎているのか。理由は分からなかったが、予想以上に引きつけた敵兵が少ないことにウォーレンは驚いた。

「まぁいいでしょう。ならば全員生きては帰しません。……撃て!」

 ウォーレンの合図の下、味方の兵は一斉に反乱軍に向かって攻撃を放った。







 ヴィズは先頭を走って馬を駆けていく。目的の場所までそう遠くはない。ヴィズの後ろには二人の騎兵が駆け、そしてその更に後ろに二百の兵が駆けていた。二人のうちの一人はヴィズの相棒とも呼べる立場のジャックだ。そのジャックが遠くに目を凝らし、敵が動く気配を感じた。

「……来るぞ!」

 その一言の後、前方から無数の矢と炎が降り注いでくるのが見える。

「さすがに多いな……」

 ヴィズはその数を見ながら少しだけ二百という数に後悔した。けれどすぐに思い直し、後ろを振り返って兵たちを見る。その全員がヴィズを信じて付いてきてくれたのだ。なるべく死なせるわけにもいかない。

「ちょっとちょっと!あんな数防ぎきれないわよ!」

 もはや衝突する寸前、一人憤慨しているのはここで唯一の魔術師でもあるセレーヌだった。ヴィズが頼み込んで付いてきてもらったのだ。

「防がなくていい!二撃目以降を出させるな!」

「ったく、無茶言ってくれるわね……」

 そして敵の攻撃が自分たちを狙い降り注いでくる。ヴィズはその多くを跳ね除けながら、果敢に前に出て駆けていた。その姿に兵たちは震え、そして勇気を貰って習うように駆ける。

「速度を緩めるなよ!俺に続け!」

 かけ声を上げながら走り続ける反乱軍。そしてその中でセレーヌは自分の仕事をするために馬を走らせながら詠唱を始める。

「大いなる炎、空から舞い降りん。燃えつくすほどの光を持ちて、闇を払え。其れなるモノは業火の星よ。我が呼び声に応え、降りたて!」

 その刹那、反乱軍とカーム軍の間の空に大きな燃え盛る玉が現われた。それはまるで隕石のようにカーム軍へと無数にも落ちていく。

「やるじゃん!」

 見るからに混乱しきっているカーム軍。しかしそこにはやはり魔術師が多いのだろう。すぐさまその魔術に対応してくる。特にすぐに現われた大地の堅牢な壁が押されながらも何とかその攻撃を防いでいた。

「あれは……なかなかの術者ね。だけど私の攻撃を防ごうなんて甘く見られたものだわ」

 セレーヌは更に魔力を込め、その炎の隕石を更に巨大にさせてその壁を破ろうとする。その威力は凄まじいもので、敵もそれを防ぎきれないと分かったのだろう。すぐに兵を後ろへと退却させていた。そして遂にその壁を破るも、そこにはもう誰一人としていなかった。

「逃がすなよ!距離を縮めろ!」

 ヴィズはだんだんと縮まる距離を確認しながらも声を上げる。セレーヌの魔術は敵軍に大したダメージを与えられずにいたが、結果としては敵軍の攻撃を止めさせたから良かったことだろう。こちらの被害も少なかった。

「あの先は……」

 走り続けていく中、敵軍が目指しているのが森林だということにジャックは気付く。森林の中では騎兵は大いに不利だ。出来ることなら森林へ辿り着かれる前に追いつきたいところだった。

「急ぐぞ!」

「あぁ。だが……」

「どうした、ジャック?」

 少し考え込むジャックにヴィズは声を掛ける。

「少しな……。気になることがいくつかある」

「何だよそりゃ」

「俺たちがあいつらに向かっていった時、止まっていたよな。あそこから攻撃が届くわけでもないし、援軍にしては妙だと思わないか?」

「様子を見てただけだろ」

 楽観的に見るヴィズにジャックは呆れながらため息を吐いた。しかしジャックにも確証があるわけでなく、ただ気になっただけである。それ以上は何も言わず、今はひらすらに追いかける。

 数の多い歩兵と数の少ない騎兵ではその機動力の差はかなりのものだ。ヴィズたちは後少しで敵に追いつきそうになった。剣を構え、いつでも攻撃に移れるようにする。しかしその時ヴィズたちの足元に異変が現れた。

「これは……!」

 急にヴィズたちが走る地面が陥没し、その溝に馬たちが囚われる。いきなりのことに馬たちは驚き、その場で暴れまわるものもいた。おかげで彼らの進軍は止まり、馬から振り落とされるものも少なくはない。

「地の魔術よ。恐らくさっきの防壁と同じ術者」

 セレーヌが冷静に分析しながらも、逃げていく敵軍の背を見た。後少しのところで敵軍と差が広がってしまい、すでにその先頭は森林へと入り込んでいた。

「どうする?」

「くそっ!どうせ先は森林だ。とりあえずここで馬は置いていく!」

 ヴィズは即座に判断し、兵たちに行動に移させる。すぐにヴィズは走り出し、同じように森林の入り口へと差し掛かった。まだ敵との差はそこまでのものではない。急げば追いつくことも可能だろう。ヴィズは敵と同じようにその森林の中へと入っていく。しかしすぐにジャックが声を上げた。

「待て!」

「……どうした?」

「妙だ。この森林は野生の動物が多く生息していることで有名だ。それなのに今はその気配が一つもしない」

 ジャックはこの近くの生まれであるからこそ、この森林についても詳しかった。けれどジャックがジュールで過ごしたのは数年も前だ。ヴィズはその考えを一蹴しようとする。

「お前がいない間に絶滅でもしたんだろ」

「そう簡単にするものか。それに……どうやら俺たちはここに誘われたみたいだな。恐らくこの森林全域に罠が張り巡らせてるはずだ」

「罠ねぇ……」

 ヴィズは半信半疑であったが、ジャックの言葉はいつだって冷静で信用できた。ジャックが言うならばそうなのかもしれない。そんなヴィズを呆れたように馬鹿にするのがセレーヌだ。

「だからあんたは馬鹿で単細胞なのよ」

「んだと!?」

「ジャックの言うとおりよ。ここは罠がいっぱい。下手に進めば全滅よ」

「ホントかよ……」

「だったら試しに一人で行ってくれば?」

 ぞんざいに扱うセレーヌにヴィズはもう慣れている。いちいち怒ることはしないが、ついつい反撃したくはなってしまう。売り言葉に買い言葉でヴィズは一人先を進んでみようかと思ったが、まずは近くに落ちてる石を奥へと投げつけた。すると奥の方で一瞬光り、次の瞬間数本の矢がそこを横切っていた。

「どうする?」

 もう一度ジャックが確認するようにヴィズに尋ねるが、それを見た全員の意見はすでに一致していた。

「引き上げる。援軍を追い払ったんだ。まぁいいだろう」


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