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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
五章 女神は誰のために
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フィロンの策略

 戦いから数刻、一進一退の攻防が続いていた。けれど少しずつその戦況が変化していく。

 中央ではセインが率いる精鋭たちが戦っていた。他と比べその勢いは凄まじく、敵を圧倒させるほどだ。セインも自ら前に出て剣を振るっている。その横では付き従うようにサーネルがその身を守っていた。

「このまま消耗戦になるのは避けたいな……」

「そうですね。しかし何かのきっかけがないといつまでもこのままです。ここは一旦退くのも一つかと」

「退くか……」

 それこそセインにとっては避けたいものだった。早くに勝負を付けたいところであったが、こうも拮抗していてはそれも無理だろう。

「どうしますか?」

「そうだな……」

 サーネルに決断を任せられ、セインは素早く考えを巡らせる。すると前から味方の断末魔が聞こえ、セインの目前へと味方の兵が倒れてきた。その奥には騎乗しながらも軽々と大剣を扱っている男がいた。その男はセインを目にして軽く笑って口を開く。

「リーダーのセインだな」

「……そうだ。お前が指揮官か」

 セインは一目でその男が敵の指揮官だと分かり、警戒するように剣を構えた。

「フィロン=レッターナだ。リーダー自ら前線に出るなんていい度胸してるな」

「後ろで黙って見てるお飾りにはなりたくないからな」

「なるほど。根性はなかなかのようだな。だが、前に出てきたこと後悔させてやるよ!」

 刹那、フィロンの目に剣呑な光が宿り、大剣を軽く振り上げてセインへと向ける。セインもまたそれを受け止め、互いに睨むように威嚇し始めた。そして二人同時に剣を振り上げ、次には激しい攻防が始まる。

「セイン様!」

 サーネルにもフィロンの強さが分かり、セインに注意を促そうと声を上げる。しかしもはやセインは集中していてサーネルの声が耳に届かなかった。

「ハァッ!」

 鋭い攻撃を繰り出すセイン。大剣に比べ身軽な剣の特徴を活かし、相手に反撃をさせないほどに素早く攻撃を続けた。けれどフィロンはそれを難なく受けながら反撃の機会を窺う。しかしそう簡単にセインも反撃させようとはせず、攻撃を止めることはなかった。

「ちっ!面倒だな……」

 焦れたフィロンは馬を蹴り上げ、その場でセインに飛び掛かるように暴れさせた。セインの騎馬へ跳ね上がるフィロンの騎馬。それに威嚇され、セインは少しだけ後ろへと下がる。その隙を逃さず、今度はフィロンが攻撃を仕掛けてきた。

 大剣が横からなぎ払うようにセインの身体を狙う。それをセインは剣で受け止めるが、力強い攻撃に押されそうになった。追撃としてフィロンは更に振り上げてセインの身体を一直線に狙う。だんだんとフィロンの攻撃を受け止めるのが難しくなり、少しずつ押され始めるセイン。

「くっ!」

「覚悟しな!」

 フィロンは更に激しい攻撃を繰り出し、セインを追い詰めていった。けれどセインもやられているばかりでなく、攻撃の合間の少しの隙を見逃さずに反撃に出た。そしてそれと同時に横からフィロンへと岩石の礫が飛んでいくのが見えた。

「ッ!?」

 それは苦戦を強いられているのを見たサーネルの魔術であり、フィロンはその不意打ちをまともに身体へとくらった。それを理解した二人は一瞬戦いを止めてサーネルを見る。セインは戦いに横槍を差したサーネルを咎めようとその名を叫んだ。

「サーネル!」

 それだけでセインの言いたいことは分かっていた。けれどサーネルにも彼自身の信念があるのだ。

「卑怯だと言われようとも、貴方を失うわけにはいかないのです!」

「だが!」

 その気持ちが分からないわけではない。だからこそセインは本気でサーネルを咎めることができなかった。そしてその間に態勢を立て直したフィロンが再び大剣を構えるのを見て、セインはすぐにフィロンへと向き直る。

「その男の言う通りだぜ」

「何?」

「当然の選択だ。間に入るのが卑怯だというなら、入らせないだけの強さを持ってから前に出るんだな!」

 再びフィロンは大剣を振り上げてセインを攻撃する。先ほどの魔術が効いたのか、さっきまでよりその威力は小さかった。

「……なるほど。確かにお前の言うとおりだな」

 セインは自らの中にまだ甘さが残っていたことに驚いていた。それをフィロンに指摘され悔しくなりながらも、すぐにその甘さを捨てる決断をする。

 力を込めてフィロンの大剣を弾き、その隙を以ってセインはフィロンの身体を狙う。一直線に剣が突き刺さろうとするが、瞬時にフィロンは反射的にそれを避けた。それを逃さずにセインは更に追撃を放つ。そして同時にサーネルへと呼びかけた。

「サーネル!」

「はい!……岩石の礫よ、撃ち抜け!」

 前から剣と、横から魔術がフィロンを狙う。それを同時にさばくのは難しく、フィロンはセインの攻撃を受け止めながらもサーネルの魔術をまたしてもくらった。身体を伏せながら傷の確認をし、二人を見て忌々しそうに舌打ちする。

「少しはやるじゃないか……」

「おかげさまでな」

「ハッ!大人しく後ろで踏ん反り返ってれば良かったものを!」

「負け惜しみを!」

 セインは手負いのフィロンに止めを差そうと再度攻撃を繰り出す。フィロンも怪我を負いながらも、負けられずに反撃に応じる。今度はサーネルの位置を注意深く観察し、魔術の軌道上にセインを間に挟むように戦い始めた。それを見たサーネルはフィロンの不意を狙おうと動くが、それに合わせるようにフィロンは常に動きを変えてくる。

「大分威力が落ちたようだな」

 サーネルの魔術はフィロンに結構なダメージを与えていたようで、以前と違い明らかに動きが鈍っていた。セインは自分が優勢に立っているのを感じ、少しの隙も見逃さずに止めを差そうと攻撃の手を緩めない。フィロンもまたサーネルに注意を向けないといけず、セインの攻撃にどんどん押され始めていく。

「……くっ!」

 次々と攻撃を繰り出すセイン。サーネルも所々で魔術をフィロンに放ち、確実に追い詰めていった。周りの味方の兵たちもその勢いに乗り、敵を圧倒して進んでいく。

「そろそろ観念したらどうだ」

「馬鹿言うなよ。それはお前の方じゃないのか?」

「何だと?」

 押されているはずなのに、未だに余裕の笑みを浮かべるフィロン。セインはそれが気に食わず、ますます攻撃の手を早めた。しかしその一方で、全てを見ていたサーネルはその自信がどこから来ているのか疑問に思う。そして同時に周囲に漂う違和感に気付いた。

「これは……いけません、セイン様!」

 もう少しで敵の指揮官を倒せそうなセインは俄然と押していた。それに合わせるように少しずつ退いていくフィロンと敵軍。全てを悟ったサーネルはもう一度セインに向けて叫ぶ。

「セイン様!!我々は囲まれています!!」

 その声でセインはハッとして初めて周囲を確認した。するとさっきまで一列に戦っていたはずなのに、いつの間にか中央にいたセインたちは一つ飛び出る形に敵に三方を囲まれていたのだ。

「これは……!」

「今更気付いても遅い!」

 先ほどとは一転し、フィロンは手負いであることが嘘のように最初に戦った時の力強さが戻っていた。いや、それ以上の強さだった。

「貴様……!」

「もう少し頭のキレる奴だと思ってたんだがな!」

「セイン様!」

 フィロンの攻撃が激しくなり、今度は立場が逆転して押され始める。それと同時にカーム軍全体が動きを変え、突出したセインたちを囲むように動き出した。三方に囲まれて押されていく中、次々と周りの味方の兵たちに犠牲が出始める。セインもフィロンの猛攻に耐えられず、今にもやられそうになりつつあった。

「くそっ!退却だ!全軍退却!」

 セインは周囲の味方へと大声で号令をかけるが、それで素直に退却させてはくれなかった。だんだんと包囲が狭まり、逃げ道が閉ざされていく。それにより反乱軍もはや混乱状態だった。

「言っておくがお前だけは逃がさねぇぜ」

「……ッ!」

 剣と剣が弾きあいながら、もはや言葉も出ずセインはフィロンを睨みつけた。そのまましばらく攻防を繰り返し、そして劣勢になっていくセイン。フィロンの攻撃が鋭くセインを狙い、その力強い一撃がセインの剣を弾き飛ばした。

「終わりだな!」

 フィロンは態勢を崩したセインに止めとばかりに一撃を入れる。セインは致命傷を避け、傷を負いながらも馬上から落馬していった。

「セイン様!!」

 サーネルは周りの敵を蹴散らし、急いでセインの元へと駆けつける。止めを差そうとするフィロンとセインの間に防御魔術を張り、その攻撃を遠くから防ぐ。

「ちっ!」

 防壁に弾かれながらもフィロンはサーネルを睨みつける。けれどこの程度の防壁など力ずくで破壊できそうだった。フィロンはサーネルから視線を外し、思いっきり攻撃を続けていく。その攻撃に防壁は次第に弱まり、今にもフィロンの大剣がセインの心臓を狙おうかとしていた。しかし間一髪でサーネルが間に合い、牽制するようにフィロンと少しの距離を置く。

「セイン様!」

「サーネル……」

「大丈夫ですか!?」

「傷は大したことはない。だが……」

 セインは武器と馬を失い、周囲を見渡した。味方の兵が何とか奮闘しているものの、劣勢である状況は明らかだった。そして逃がそうとしないようにフィロンはセインから視線を外さない。

「ともかく私の馬へ。セイン様はとにかくお逃げください!」

「いや、俺もここで」

「貴方は死んではならないのです!この男は私が止めてみせます。セイン様は早くお逃げください!」

 セインは自らここに残って戦おうとするが、サーネルの初めて見る剣幕に圧されてしまう。思わず何も言えず、ただサーネルを黙って見ているだけだった。

「反乱軍のリーダーは貴方しかいないのです。ヘイス様でもアイラ様でも、ヴィズ様でもない!セイン様しかいないのです!」

「サーネル……」

 それは自分の心を見透かされたようだった。兄であるヴィズが現われたことで、いつでも代わりがいるのだと。ヴィズだけでなく、ヘイスもアイラも十分に反乱軍のリーダーを務める資質を持っていることも。

「さぁ、早くお乗りください!」

 サーネルはセインの手を掴んで自らの馬に乗せようとする。しかしそれを当然フィロンは黙って見過ごさなかった。

「逃がしはしないと言ったはずだ!」

「防壁の加護よ!」

 サーネルは瞬時に防壁を張るも、急いで作ったその防壁はいとも簡単に破られてしまった。それでも何度も防壁を張り直し、セインの身だけは守ろうとする。けれどフィロンの攻撃の余波がサーネルの身体を少しずつ傷つけていく。

「止せ、サーネル!俺のことはもういい!お前こそ反乱軍に必要な人間なんだ!お前だけでも逃げろ!」

「なりません!我が身に変えても貴方だけは!」

「大した忠誠心だ。二人仲良く殺してやるから、大人しく観念しな!」

 フィロンは攻撃を更に激しくし、サーネルに詠唱する隙も与えずに防壁を破っていく。詠唱が短くなると比例するようにだんだんと弱まる防壁。もはやフィロンの攻撃がサーネルに届くのは時間の問題だった。

「くっ……!」

 焦り始めるサーネル。セインを逃がそうにも、もはや動くことすら叶わなかった。しかし二人ともが危機に陥りながらも決して諦めようとはしなかった。そんな時、二人の耳に聞き慣れた声が届く。

「セイン様!!」

 遠くから馬を駆け、槍を振り回して敵を倒しながら向かってくる。

「グレイ!」

 セインはグレイの姿を目にし、その名を呼んだ。グレイは二人の下へと駆けつけ、そのままフィロンに向けて槍を振るう。

「ちぃっ!」

 まさかの助けが入り、フィロンは二人に止めを刺し損ねた。

「お二人は早く脱出を!まだ道はあります!」

「グレイ!?」

「……助かる!さぁ、セイン様、お乗りください!」

 サーネルは無理矢理にセインを馬へと乗せた。そしてすぐに馬を走らせ、グレイを後にして離れていく。

「待て!」

 フィロンは追いかけようとするも、それをグレイが逃さずに立ちはだかる。もはや完全に逃げられてしまい、フィロンの苛立ちは頂点に達しようとしていた。

「てめぇ……よくも邪魔を!」

 フィロンは標的をグレイに定め、グレイもまたフィロンを狙う。

「主君を助けるのは当然のことだ」

「自分の命を犠牲にしてでもか?完全に囲まれんのも時間の問題だぞ」

「それでもだ。……だが俺は自分の命を犠牲にしようとは思わないがな」

「へぇ……そりゃ気が合うな。同意見だぜ」

 二人は互いに睨み合い、そして次の瞬間には動き出していた。


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