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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
三章 紫電の盾
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悲しき者たち

 その場に煙が広がり、やがてそれが晴れていった。

 そしてアレンが驚きに眼を見張ったその光景とは、先ほどまでセレーヌがいたと思われる場所に大きな穴が開いていたのだ。

「セレーヌ!」

 いったい何が起きたのだと疑問が頭を駆け巡り、アレンはセレーヌの名を呼んでその穴を覗く。それは下の階まで突き崩されたものであり、穴を覗いた先にはとても軽症とは言えないほどに血を流しているセレーヌと、身体が麻痺しているのか普通に立てていないカルルの姿があった。

「大丈夫か!?」

「大丈夫……アレンは自分の心配しなさいよ」

「その通りです」

 急に背後から聞こえたライエッタの声にアレンは反射的に横へ転がる。そして今までアレンがいた場所には、ライエッタの槍が深く突き刺さっていた。

「仲間の心配をしてる余裕はありませんよ」

「……」

 ライエッタは再びアレンに向かって攻撃を仕掛ける。その度にアレンは剣で受け止め、そこから追撃してくるライエッタを何とかかわしていた。激しく繰り広げられる攻防に、二人ともがいつの間にか真剣になり、汗を静かに垂らしている。

 ライエッタの槍捌きは上手く、アレンに反撃の隙を与えなかった。しようにも、身長と槍のリーチを上手く使うライエッタに、自分の剣が届かないのだ。無理して攻撃に行けば、きっとライエッタは槍でアレンの身体を貫くだろう。

「なかなか……しぶといですね!」

 その攻防に痺れを切らしたのか、先に動いたのはライエッタだった。その華麗な動きにアレンは攻撃を受けながらも、眼を奪われてしまう。

 ライエッタは槍の尖端ではない方を床に着けて、そのまま自分の跳躍力を生かして飛んだ。そのまま空中で宙返りすると共に、槍も一緒に回転させてその尖端をアレンの背中へと当てた。そのままライエッタは綺麗にアレンの後ろへと着地し、さらに追撃を放つために背中から貫こうとする。

「……っぅ!!」

 それを諸にくらったアレンは痛みに顔を顰めるが、何とか抑えてライエッタに反撃をした。自分の身体を貫いた槍を瞬時に押さえて、抜けなくさせたのだ。ライエッタはそれに驚きの表情を浮かべ、何とか槍を引き抜こうとする。しかし力の差はアレンのが上で、簡単に引き抜くことは出来なかった。アレンはその隙を突いて、剣をライエッタに向けて投げ放つ。

「……きゃぁ!?」

 いきなりの攻撃にライエッタはその剣をまともに受け、後ろへ倒れた。そのためにライエッタの手が離れた槍を、この隙にアレンは引き抜く。それと同時にライエッタも自分に刺さった剣を抜いた。つまりは両者の武器が入れ替わったことになり、そして大きな深手を負っている。

「何て無茶なことを……」

「悪いね。これが俺のやり方でもあるんだ」

 そのままには出来ない傷を負いながらも、アレンとライエッタは何もせずに視線を交わしていた。そして先にライエッタが再び口を開く。

「残念ですが、私は剣も扱えますよ」

「……それは残念だな。けど、俺も槍を扱えるんだ」

「……私は……私は、絶対に負けない!!」

 アレンの皮肉ともいえる言葉を受け、ライエッタは眼を見開いて走り出した。その眼に見える執念にアレンは深い悲しみと、怒りを覚える。悲しみはライエッタに向けて、けれど怒りは帝国に向けてだった。

「終わらせよう……俺には君を救うことなんて出来ないから……」

 そしてアレンもライエッタに向かうように走り出す。お互いの武器が変わっても、その実力に何ら変わりはなかった。ライエッタは床を軽く蹴ると、今度は水平に物凄い速さで飛んでくる。それをアレンは槍で受け止め、反撃する。しかしライエッタは再び床を蹴って後ろへと跳んだ。それを逃がさずアレンは追撃を掛ける。

 今度はライエッタがアレンの攻撃を受け止め、そしてどんどん休みもなしに迫り来る猛攻を耐え凌いでいた。けれど一瞬の隙を見てライエッタが後ろへ避けたために、アレンが槍を床へと思いっきり当てる。すかさずライエッタは今度は上空へ跳躍し、上からアレンに止めを刺そうと剣を振り上げた。

「……すまない」

 アレンはライエッタにも聞こえない程の小さな声で呟き、槍を瞬時に構えて上空へ向けて掲げる。そのリーチの長さから、ライエッタの剣がアレンに届く前に、アレンの槍がライエッタの身体を深く貫いていたのだ。いきなりのことでライエッタにはまともに当たり、そのまま勢いよく吐血した。力が入らずにライエッタの手から剣が綺麗に零れ落ちる。その訪れた静寂の場に、剣が床に落ちる音が綺麗に鳴り響いた。

 アレンはライエッタの身体を貫いている槍を下ろして、ライエッタから引き抜いた。その傷口から血が溢れ出し、アレンはその光景を静かに見つめる。ライエッタは瞳孔を見開いて、口を動かした。

「……ごめん……ごめんね、みんな……。守れな…かった……やく…そ……」

 そして、ライエッタの瞳から一筋の綺麗な涙が零れ落ちていく。アレンはその場にしゃがみ込み、ライエッタの身体を引き寄せた。そして優しくその頭を撫でる。ライエッタはそれに僅かに微笑んで、最後の言葉を口にした。

「あり……が…と…」

 それが誰に向けられたのか、どんな意味があるのかなんて、もう知る術は残されていなかった。







「まったく……あんたのどこに…そんな力があるのよ……」

 セレーヌは傷口を必死に抑えながら、切れ切れに言葉を紡いだ。そしてゆっくりと上を見上げる。そこに開いた大きな穴。紛れもなく、カルルの仕業なのだろう。

「ふんっ……。そっちこそ、おばさんのくせに……随分と高い生命力だ…ね」

 セレーヌの魔術を喰らい、今のカルルは完全に身体が麻痺していた。この隙をやられれば死ぬかもしれない。けれどセレーヌは攻撃することはしなかった。

「逆流」

 その短い言葉をセレーヌが紡ぐと、カルルの身体に巻きついていた電流が消えていく。どうやらそれも魔術の詠唱のようであった。

「……もしかして余裕?」

 電流が消えるとカルルの身体もやがて自由が効くようになり、そうしたセレーヌの真意を探るように睨み付けた。

「そんなわけないでしょ……。動けないあんたを倒したって……つまらないじゃない」

「……ふーん。よくもそんな状態で言えたものだね。後悔させてあげるよ!」

 そしてカルルは傷を負っているセレーヌに、止めを刺すために動き出す。セレーヌはこれ以上まともな攻撃をくらうわけにはいかず、カルルの動きを殺すように魔術を放った。

「流れの炎、立ち昇れ!」

 カルルの前の床から突如現れた炎。それは上空へと伸び、完全にカルルの進路を防いでいた。しかしカルルはそれを見て不敵に笑い、そしてその炎を突き進んだ。

「なっ!?」

 そしてセレーヌの前に立ち、剣を強く振るう。セレーヌは驚きながらも、かろうじてそれを横に避けた。すでにカルルの服は焼け焦げ、ボロボロになっている。その露になった肌を見れば、火傷の痕もいくらか見えた。

「あんなのでオレの動きを止められるとでも思った?」

「……つくづく生意気な奴ね」

「褒め言葉として受け取っておくね」

 次はないとばかりに、再びカルルは攻撃を仕掛ける。そのいきなりの攻撃に、セレーヌは先ほどの体勢から咄嗟に動けずにいた。そのせいでカルルの剣を避け損ね、左足に直撃してしまう。

「ぅっ……!!」

「無理しない方がいいんじゃない?さっきだってオレの剣くらったんだし、その出血じゃ普通の人間なら直に死ぬよ」

「それは……分からないんじゃない……」

 セレーヌは辛そうに言葉を吐きながら、ゆっくりと立ち上がった。その様を感心そうにカルルは見つめる。

「まだやる気なの?往生際が悪いね」

「……一つだけ聞いていいかしら」

「何?特別に死ぬ前に教えてあげるよ」

 カルルは、壁に片手をついて懸命に立っているセレーヌを見て笑っていた。

「あんたのその力はどっから来てるの?」

「あぁ、これ?どっからって元々のオレの力に決まってるだろ。もしかして剣に秘密があるとでも思った?」

「……そう。分かったわ」

 セレーヌはカルルの答えを聞くと、一瞬悲しげな顔を浮かべ、そしてすぐに怒りの顔を浮かべていた。その変わりように、カルルは僅かに瞠目する。

「怖い顔するね。何か気にでも障った?」

「そうね。けど、安心して。あんたにじゃないわ」

「……意味が分からないよ」

「分からなくていいわ」

 そうして話を打ち切り、セレーヌが行動を移そうとする。カルルもそれを見て、警戒の態勢を取った。

 しかしそこに二人とは別の第三者の声が現れる。

「セレーヌ!?」

 自身の後ろから聞き覚えのある声がした。けれどそれに対して後ろを振り返ることはしない。やがてその人物がセレーヌの元へとやってきた。

「お前、何でこんなとこにいるんだ!?それに……その傷は!血だらけじゃないか!!」

 セレーヌの状態を見て一人で慌てふためくヘイス。これからというとこに邪魔者が現れて、セレーヌとカルルの二人はうんざりしていた。

「あんた誰?おばさんの仲間?」

 痺れを切らしたカルルがヘイスに問いかける。その声にヘイスはカルルの存在を初めて認めた。

「お前が……お前がやったのか!?」

 怒りの形相を浮かべ、ヘイスが問答無用というばかりに剣を抜いた。それを見たカルルは気にせずに肯定する。

「そうだよ。それがどうかした?」

「どうかしただと……!?」

 そして今にもカルルに斬りかかろうとしていた。けれどそんなヘイスにセレーヌが一喝する。

「邪魔よ」

「……何?」

 セレーヌに止められたことに意味が分からず、ヘイスは後ろを振り返った。そんなヘイスにセレーヌは再び同じ言葉を紡ぐ。

「邪魔だって言ってるのよ。そいつの相手は私よ」

「何言ってやがる!?そんな傷で戦えるわけないだろ!」

 傍から見ればセレーヌの傷は重傷だった。立っていることさえ困難のはずなのに、それでも戦おうとするセレーヌをヘイスは止める。けれど次のセレーヌの言葉で、ヘイスは押し黙ってしまう。

「何度も言わせないで!」

 その言葉にじゃない。その怒りの顔にだ。ヘイスは邪魔をすれば今にも自分を殺さんとばかりの形相を浮かべるセレーヌを見て困惑する。何かを言おうにも、セレーヌから発せられる何かがヘイスを黙らせていた。その事実に、ヘイスは信じられずに驚愕する。

(俺が……気圧されてるだと……!?)

 冷や汗を垂らしているヘイスの傍を、セレーヌはゆっくりと通り過ぎる。そしてカルルの前へと立ち塞がった。

「やっぱりオレの相手はおばさんなんだね」

「……そうよ」

 やはり以前と雰囲気の違うセレーヌに、カルルも少しだけ戸惑う。おばさんという単語にも何の反応を返さなかった。

「あんたは邪魔だからどこかへ行って」

 その言葉が自分に向けられたものだと分かると、ヘイスは急に身体の自由が効くようになった。

「何を……」

「行けって言ってるのよ!!」

 もはや何を言っても同じことを返してくるのだろう。ヘイスも自分がするべき事があるのだが、それでもセレーヌを一人にするのは戸惑われた。けれどセレーヌは無言でヘイスに立ち去るよう言っている。

「……すぐに、戻るからな」

 その言葉にセレーヌは何も返さず、ヘイスは渋々とその場を通り過ぎた。カルルも自分の横を通るヘイスに何もせず、ただセレーヌだけを見ていた。セレーヌもそんなカルルから視線を外すことはしない。

 自分だけ除け者にされたような疎外感を覚えたヘイスは苛立ち、そして苛立つ自分にさらに苛立っていた。


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