ダーナ城の決着
「オラオラァ!てめぇの実力はこんなものか!?」
「くっ……」
グレイとニアの攻防は一方的にニアが攻撃を繰り返していた。
グレイはニアの次々と繰り出される激しい攻撃に防戦一方だ。反撃しようにもニアはその隙を与えずに文字通り休まず攻撃を続けるので、グレイはなかなか厄介な相手と出会ったものだと思った。
「もう少し頑張ったらどうなんだ!」
ニアが攻撃にさらに力を込めてくる。
負けずにグレイもだんだんと力を込めて少しずつニアを押し返していった。そのおかげか、だんだんと攻撃は互角くらいになってくる。グレイの勢いを感じて、ニアは一度後ろへ跳んだ。
「やれば出来るじぇねぇか。最初からそうすりゃいいんだよ」
「そうか。ならば望み通り本気で相手をしてやろう」
「それじゃぁ、その本気ってやつを見せてみろよ!」
ニアは大きく跳び、グレイの頭上から槍を振りかざしてきた。グレイはそれを避け、すぐに動けないニアへすかさず攻撃する。しかしすぐにニアは体勢を整え、その攻撃に防戦する。
グレイの一撃とニアの一撃、どちらも鋭く強烈で、まともに当たればひとたまりもないだろう。それが分かっているかのように、二人は攻撃を受けないように、避けたり槍で受け止めたりする。それでも全てを避けることは出来ず、だんだんと二人の身体にも傷が見え始めていた。
「あんたのその槍、結構な代物じゃねぇか」
「ほぅ……お前みたいな雑魚でも分かるのか?」
二人は戦いの最中とは思えないほどの余裕さで、言葉を挟む。それはつまり二人ともまだまだ本気を出していないことなのかもしれない。
「分かるさ。その槍からかなりの波動を感じる」
「なるほど。ただの戦闘狂でもないようだな」
「いいねぇ、その槍。……あんたを殺して俺の物にするぜ!」
ニアの一撃に今までよりも大きな力が加わる。負けずにグレイもさらに力を込めた。
「この槍は俺の命に等しき物。お前如きが触れることさえ叶わない!」
「それはどうかな!あんたが死ねば俺の物になるんだぜ!」
「馬鹿な奴だな」
「何!?」
「お前には俺を殺すことさえ不可能だと言っているんだ!」
グレイはニアから距離を取り、槍先をニアに向けるように構えた。ただならぬ気配を察知し、ニアも攻撃に備え槍を構える。
刹那、グレイが一瞬で消えた。もちろん消えたわけではないが、ニアにはグレイが消えたように見えた。それほどに素早く動いたのである。ニアは一瞬呆然とするが、すぐにグレイを探そうとする。
その時、後ろより大きな殺気を感じ、ニアは本能的にその場を離れようとした。
「ぐっ……!!」
ニアの行動は完全には間に合わず、グレイの槍がニアのわき腹をかすめた。
ニアはかなりの大きな傷を負ったが、これはまだ運が良かった方だった。もし直撃していれば、それこそ命はすでになかっただろう。
「避けたか」
「くそっ!……調子に乗るなよ!!」
ニアは自分が不覚を取ったことを理解しながらも認めようとせず、それを頭から振り払い憎悪をグレイへと向けた。
城の中には予想通り敵兵の姿は全然見当たらなかった。
邪魔するものもなくセインはサーネルの案内の元、どんどん先へ進んでいく。
セインは子供のころにダーナ城へ何回か来たことがあった。そのほとんどが父や兄と一緒で、言わばおまけとしてだ。しかし、そのおかげでセインは今では親友とも呼べるロウエンと出会った。
ロウエンと初めて出会ったのは、まだ二人が十歳のころである。ずっと城で生活してきたセインにとって、ロウエンは初めて出会う同年代の子供だった。何度か城へ来る度に、二人はどんどん中が良くなり、一年後にはすでに親友と呼べる間柄だったのだ。
その時にはまだミーアとは婚約してはいなく、セインにとってミーアは二番目の妹という思いだった。その妹が自分の婚約者となったのは、兄が戦争で死んだ時だ。
セインの兄は国中の人間から慕われていて、セインの目から見ても多少いい加減なとこはあったが、フューリア王国を継ぐべき人物に相応しいことは間違いなかった。
その兄が死んだ報せを受けたときは、国中が悲しみに覆われた。しかし、それもすぐに国の兄への期待がセインへと向き始めた。それまでしていた勉強や訓練がさらに厳しくなり、婚約者も定められた。セインはその時の気持ちを今でも忘れてはいない。
セインには、勉強も訓練も同じ歳だった時の兄にも、負けてはいないという自信があった。事実、兄はいい加減なとこが多く、訓練もよくさぼっていたり、勉強など全くしていなかったのだ。それでも周囲からの人気は絶大だった。その兄の影を周囲がセインに求めていたことは、セインにとって苦痛でしかなかった。
けれど、その苦痛をもセインは乗り越えようと、ただひたすら頑張ってきた。次第にその努力が表にも出始め、数年後には兄のことを口に出す者は一人もいなかった。その時、やっとセインは兄を超えることが出来たのだと思い始めた。
そんな矢先の出来事だった。フューリア王国がヴェルダ帝国に滅ぼされた事は……。
そして兄の影に囚われていた時のセインを支えてくれたのが、ロウエンやミーア、そしてサーネルも含めたハルトス家の者たちだったのだ。
セインは心の中にさまざまな思い出を駆けながら、ロウエンと初めて出会ったダーナ城を走っていた。
「セイン様、あの扉の先にマードックがいるはずです」
サーネルは走るのを止め、セインを振り返った。セインにも見覚えがあったその扉は、城主の間へと続くものだった。
「わかった。敵兵もまだいるだろう。油断するなよ」
セインの後ろには十数人の兵士がいた。この城へは一部隊の百人で来たが、残りの兵は城の中で別れ、今頃城中を制圧しているだろう。
そしてセインは扉を勢いよく開けた。室内が静まり返る。
「な、何だお前らは!」
その静寂の場に、一番に声を上げたのはマードックだった。
「お前がマードックだな。私は反乱軍リーダー、セインだ」
「馬鹿な!反乱軍リーダーだと!?ど、どうやってここへ!」
マードックの周りには六人の兵士がいるだけだった。その兵士たちはすでにマードックの前に守るように立っている。
「この城への抜け道を通ってきたのです。よくも今まで私の城で好き放題やってくれましたね」
サーネルが前へ一歩踏み出す。
「抜け道だと!?そんな馬鹿なことが……」
「覚悟だ、マードック。逃げ場はないぞ!」
「えぇい!反乱軍のリーダーならちょうどいい!お前ら、その男を殺せ!」
マードックは前に並んでいる兵士たちに命令する。すかさず兵士たちは一人前へ出ていたセインに斬りかかる。しかしその刃はセインに届くことすら叶わなかった。
「切り裂きの刃よ!」
サーネルの魔術が兵士全てを切り刻んだ。
「く、くそっ……!」
「どうした?後はお前一人だぞ」
セインは剣を片手に一歩一歩マードックの方へと進んでいく。
「ふざけるな!私はブライアン軍の将官なのだ!お前みたいなやつにやられはしない!」
マードックは勢いよく立ち上がり、剣を振り上げた。
セインはそれを軽々と避け、マードックを斬りつける。しかし間一髪でマードックは避け、剣先がかすめただけだった。さすがは仮にも将官ということなのだろう。
「サーネル、手を出すなよ」
今にも魔術を放ちそうなサーネルを抑えて、セインはマードックにもう一度攻撃する。マードックはそれを剣で受け止めながら、隙を見て反撃した。その反撃をセインも剣で受け止めたが、一撃が重く、バランスを崩してしまった。それをマードックは見逃さず、チャンスとばかりに止めを狙う。
「死ね!」
「そうはいくか!」
セインはギリギリのところで避け、そのままマードックの後ろへと周る。マードックもそれを見て、すぐに後ろを振り返るが、すでに遅かった。
「もらった!!」
セインは勢いよく、上からマードックの身体を斬りつけた。
「ば、馬鹿な……。私がこんな小僧にやられるというのか……」
マードックは倒れながら、傷口に手を押さえている。すでに剣は手から離れて、後は死を待つだけだろう。マードックの前にセインがゆっくりと立つ。
「終わりだ、マードック。お前がこれまで民たちにしてきた非道の数々、悔いながら死んで行け!」
セインは剣をマードックの心臓に深く深く突き刺した。それは、まるでセインの憎しみの深さを表しているかのようだった。そのまま静かに立っているセインにサーネルが声を掛ける。
「見事でした、セイン様。ですが、これで終わりではありません」
「……分かっている。急いで城の外へ!マードックの首を帝国軍のやつらに見せてやれ!」
その声と同時に、そばにいた兵士たちは歓声を上げながら、未だ終わらない外の戦場へと向かった。
「セイン様、我々も行きましょう」
「あぁ」




