終ノ怪 妖しい紅
晴れた青空を部屋の窓から眺める。
どこまでも青い空。白い柔らかそうな雲がぽっかりと浮かんでいる。
「紗枝ー。準備できたぁ?」
「はぁい」
下の階からお母さんの声。窓を閉めて部屋を出る。
リビングにはいつもより気合の入ったお母さんが、一生懸命化粧ポーチをあさって文句を言っている。
「もう、口紅どこにいったのかしら! ちょっと、お父さん! カメラ持ったの?」
椅子に腰掛けて新聞を広げるお父さん。お母さんの声に『ん~』と、聞いているのか聞いていないのか、とぼけた返事をしている。
その光景がおかしくて、思わず口に含んで笑ってしまう。
「あ、紗枝」
聞こえた声に振り返ると、キッチンからリビングにお姉ちゃんが入ってくる。ほぼパニックになりつつあるお母さんを尻目に、こっそり私に耳打ちしてくる。
「帰ってきたら私達からプレゼントがあるから、楽しみにしてて」
「本当? なになに?」
「帰ってきてからのお楽しみ!」
お姉ちゃんは悪戯っぽくウインクすると、まだおろおろしているお母さんに近寄って、「まだ化粧台におきっぱなしなんじゃない?」とアドバイスした。
お姉ちゃんとお兄ちゃん達から、プレゼントなんて。何がもらえるのかな。
なんだか今からドキドキしちゃう。
「ほら準備できたら、早く出なさい!」
やっと口紅は見つかったらしい。
口紅の先を出しながらお母さんが私に言った。
「はーい。じゃ、行って来るね」
家族に手を振って、笑いかける。
年季の入った鞄を手にとって玄関のドアを開けた。
あれから月日は流れ、私は今日、中学校を卒業する。
いまだに紅い鬼は私の前に現れていない。
あの出来事が何の変哲も無い日常に侵食されて、今はもう現実味も無い。
常闇にいた証拠も、妖怪と会った証拠も私には無い。
不確かな私の記憶だけが紅い鬼と私を繋ぎとめている。
いつか私は紅い鬼を、常闇を忘れる日がくるのだろうか。もしそんな日がきたとしても、私は決してあの瞳の色だけは忘れないだろう。
あの、妖しい紅だけは。
これにて、妖しい紅は閉幕とさせて頂きます。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
そして、長くのお付き合いお疲れ様でした。
初挑戦で、楽しいこと大変だったこと、挫けそうになったこと、色々ありました。
しかしここまでこれたのも、皆様のおかげでございます。
また、もし宜しければ「面白かった」「つまらなかった」などの一言や、「○○は良かった」「○○が良くなかった」などのご指摘頂ければ幸いです。
いつか指摘して良かった、と思われるような物の書き方に昇華できればと思います。
最後に生意気を言って申し訳ございませんでした。
そして本当に、本当にありがとうございました。
お疲れ様でした。
2011.04.29 月猫 百歩




