04-13.飼い猫はご主人様
たしかこの辺りだったわね。
「ダンジョンをお探しで?」
「ええ。もしかして知ってるの?」
「はい♪ 案内はお任せを♪」
まあそりゃそうか。氷姫なんて呼ばれる凄腕冒険者みたいだし。
王都近くのダンジョンなら把握しているわよね。
「頼りになるわね。流石私のメルメルよ」
「お・れ・い・は~♪ 添い寝で良いですよ~♪」
「あら。慎ましいのね」
「なんですと!?」
ダーリャの妹とは思えないささやかなご褒美ね。安いもんだわ。
「お姉ちゃんとはどこまでやったんですかぁ~~!?」
「初めて出会った頃からセクハラ三昧だったわよ」
「うらやましい!! 私だってされたことないのに!!」
この子、私よりダーリャの方が好きよね。なんか癪だわ。
「メルメルだからじゃないかしら」
「どういう意味ですか!?」
「メルメルは特別よ。間違いなくね」
実の妹だからかしら。ダーリャがあんな態度を取る相手はメルメルだけだ。興味の無い相手にはそもそも反応しないタイプだし。ただキレるならともかく、罵倒までするだなんてらしくないくらいだ。
「えへへ~♪ そうですか~♪ やっぱりお姉ちゃんですもんね~♪ えへへ~♪」
ちょろい。
「けどこんな場所のダンジョンに今更なんの御用ですか?」
いきなり素に戻らないでほしい。
「あのダンジョンには隠し通路があるのよ」
本来初心者向けのダンジョンだが、とある条件を満たすと最高難易度エリアが解放される仕組みになっている。
シナリオ終盤のレベル上げはここでやるのが定石だ。
「はぇ~。何度か通いましたが、全然知りませんでした」
表向きは初心者向けだものね。隠しエリアを除くとかなり浅いのだ。じっくり調べようとする者もいないのだろう。
「狩りはいいんですか? 折角見繕ったのに」
ギルドで見繕ってもらった魔物の出現情報ね。それはそれでやるわよ。資金稼ぎも必要だし。
「少しだけよ。今回はレベル上げが目的なんじゃなくて、欲しい装備アイテムがあるの」
終盤に攻略するダンジョンなだけあって、ゲーム本編でも最高レベルの装備が手に入る。
そういえば学園にもあるのよね。けどあっちは三年時にしか開かない扉の先にある筈だ。とはいえ様子を見ておこう。元生徒会長であるメルメルなら何か知っているかもしれないし。
「さっと行ってさっと取ってくるんですね♪」
そういうことよ。手短に済ませましょう。
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洞窟型のダンジョンに乗り込んだ私とメルメルは、初心者向けの弱い魔物たちを蹴散らしながら、奥へと進んでいった。
狭いダンジョンの最深部まで進んだところで目当ての部屋を見つけ、壁の一部に仕込まれた隠し扉をくぐり、空気の違うエリアへと足を踏み入れた。
「これは……」
メルメルが警戒している。魔物たちの強さが格段に上がったためだ。
「想定以上だわ」
ここらに出る魔物たちのレベルは精々五十程度の筈だ。もっと奥まで行けば七十くらいまでは上がるけど、隠しエリアに入った直後のこの辺りでは、今の私たちが警戒する程の魔物は出てこない筈だった。
しかし違う。もっと強い。たぶん今の私よりも。それくらい大きくて強い気配を感じる。
「装備はどうしても必要ですか?」
「ええ。最高性能の杖とローブよ。お父様を納得させるのに必要なの」
「本当にそれで納得します?」
「正直賭けね」
家出も既にバレている。お父様の怒りと不安は計り知れない。だから少しでも安心出来る要素を示さねば。伝説的な装備アイテムなら多少は相殺出来るかもしれない。
「夏休みが終わる前に帰れないかもしれません」
「それは困るわ。イベントもこなさなきゃだし」
そっちは必須でもないけれど。一年時の夏休みに起こるイベントは軒並みチュートリアルみたいなものだったし。初戦闘がこのタイミングだからこその構成だ。
「無茶を言いますね。ご主人様は」
「私には頼りになる剣があるもの。問題ないわ」
「その手の言い回しはあまり好きではありません」
「あら。メルメルは私の騎士様じゃない」
「私がご主人様と呼ぶのはそういう意味ではありませんよ」
「私はあなたに『私の剣になりなさい』と言ったのよ」
メルメルだって歓喜しながら承諾したじゃない。それから主と呼び始めたんじゃない。
「心構えの話です。私は騎士という在り方を好ましく思ってはいないんです」
それは意外ね。
「メルヴェール家の一員であることに誇りを持っています。家業を含めた全てを愛おしく想っています。ご主人様が引き抜かなければ、騎士としての在り方を全うしたでしょう」
愛しているのに好ましくないの? ややこしいわね。
「結局何が言いたいの?」
「騎士でも剣でもなく、ご主人様のものになりたいのです」
……呼び方の問題かしら?
「つまり恋人になりたいって話?」
「近いですが違います。守るべきもののために戦うのではなく、守りたいもののために戦いたいのです」
「英雄になりたくないってこと? 公正であることが嫌なのかしら? 誰かに守らされるのが嫌なの? 私がメルメルを自分の剣として振るうのは嫌だけど、メルメル自身が剣を振るって私を守るのは良いってこと?」
「完璧です。結局私もイグナイト家の人間なんです」
よくわからないわ。むしろ逆じゃないかしら。
「とっても自分勝手なんです。本来の私は」
「それは知ってるわ」
でなきゃ私の隣にいないし。
「私にとってのご主人様とは、私にとってのお気に入りという意味なのです」
「そう。なら好きになさい。好きに守って。好きに敬って。好きに導いて。好きに手を引きなさい。これが最初で最後の命令よ。今後他の命令は無視して構わないわ」
ついうっかり命令してしまうことはありそうだし。
私はメルメルの拘りを理解しきれているわけでもないし。正直自由を願う思春期の曖昧な言い分にしか聞こえないから。
「ご主人様」
早速抱きついてきた。結局こういうことがしたかっただけなのかしら?
「すぅ~~~~~~~~~~」
おいこら。
「ちょっと。くすぐったいわよ」
「すぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
いや吐けよ! 肺活量凄いわね!?
「ごっくん」
ごっくん!? どこに入れたの!?
「えへへ~♪ ご主人様ぁ~♪」
スリスリすんなぁ~! 私は猫かっ!?
そうか! こいつ私を飼い猫だと思ってるのね!?
飼い猫をご主人様と思う類の人種なのね!?
「大好きです♪ ご主人様♪」
「ダーリャに言いつけるわよ」
「ぜひぜひ~♪ お姉ちゃんが相手をしてくれるだなんてご褒美ですし~♪」
無敵かっ!?
「行きましょう♪ ご主人様♪」
うわっ!?
メルメルの身体から一瞬で冷気が広がった。
辺り一面が凍りつく。魔物たちだって丸ごとだ。
視界がバグったかと思う程、一瞬の内に全てが白銀に覆われた。
「私が連れて行きます♪ ご主人様の欲しいものは全て私が手に入れてさしあげます♪ さあ♪ さあ♪ さあ♪ その身の全てを私に委ねてください♪ ご主人様♪」
メルメルがバグったぁ~……。




