03-07.悪役令嬢の戦場
私はダーリャの失言を口実に運営への介入を試みた。
我がアルレティア家のメイドが余計なことを口にしたために、生徒会長の辞任が現実的なものとなってしまった。
その責任は私にあると頭を下げた。
審議の為に一旦大会を中止にさせる可能性に賭けたのだ。
結果的に話は上手く持っていけた。彼らもこのままメインヒロインちゃんが優勝するのは困るのだろう。あの子に聖女を導く力が無いのは一目瞭然だもの。本人の能力としても家柄としても、実績としてもだ。
この一月足らずの間、彼女が誰より聖女の側に居たことは周知の事実だ。その結果が現状だ。二人を見ていたのは私たちだけではなかったのだ。だからって誰も聖女を気にかけはしないけど。それはそれだ。
学院や国の大人たちだって、若き令嬢の無謀を見逃す程には薄情じゃない。少なくとも彼女は人として認識されているからだ。
まともな人間扱いすらされない聖女よりも、能力が低いからとかえって気を遣われる男爵令嬢の方に慈悲を向けられるのは、皮肉と言うしかないけども。
こんな大会を開いといてあれだけど、強ければなんでも出来るわけじゃない。優勝者には相応の立場も期待されていたのだ。端っから高位貴族以上が優勝するのは決まっていたことだ。もちろん公言はしていないけども。参加資格に書いてもないし。言わなくても分かるでしょってやつだ。
フララとダーリャが私より強くとも、私にしか出来ないことは少なくない。そんなのは最早常識の範疇だ。今更口にするまでもないことだ。
つまりは最初から出来レースなのだ。
卑怯だとは言うまいよ。私は悪役令嬢だもの。悪役令嬢らしい戦い方で勝たせてもらおうとしよう。女神に立ち向かうには手段を選んでもいられないし。
これは盤外戦術ですらない。最初から悪役令嬢の戦場はこちらだったというだけの話だ。
そんなわけで、少々言葉を追加した。
「私が責任を果たします。ラーゼ嬢とメルヴェール嬢にも魔王討伐のメンバーに加わって頂きます。どうか汚名をそそぐ機会を頂きたく。なにとぞ」
そんな感じのことを言って、どうにかこうにか運営を言いくるめることに成功……ごほん。運営側にも無難な口実を与えることに成功し、決勝戦を行わず、フララとメインヒロインちゃんの同時優勝という形に持ち込んだ。
最終的に予定よりメンバーが二人増えはしたものの、私は聖女リリアーナの監督権を獲得したのだった。
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「見事なリカバリーです♪ ベルベル様♪」
「ありがとう、ダーリャ。そう思ってくれるなら私に免じてそろそろ先輩を放してあげて」
メルメル先輩の顔が真っ青よ。お仕置きのヘッドロックは終わりにしてあげて。
「悪かったわね、ダーリャ。あなたの言葉が無くとも先輩の廃嫡は免れなかったでしょうに」
「いえ。実はそうでもないのです」
「というと?」
「愚妹。自分の口から告げなさい」
「げほっごほっ……は……ひぃ……」
ようやく解放されたメルメル先輩が真実を口にした。
「……だってぇ~。羨ましかったんだも~ん」
も~んじゃないわよ。意味がわからないわ。
「なに? つまりわざと負けたの? ダーリャの言った『奉仕活動』がお誘いだとでも思ったの」
負ければうちのメイドになれると思ったから? そんな理由でわざと手を抜いたの?
「てへ♪」
まさか本当に自覚の無い人だったなんて……。
「あなたのお父様が悲しむわよ」
「ごめんなさい」
私に謝ったってしょうがないでしょうに。
「大丈夫♪ だいじょび♪ 他にも兄弟姉妹はいるもの♪ 私じゃなくても次期騎士団長は安泰よ♪」
「ばっかじゃないの!? メルヴェール家が没落しかねない不祥事だってわからないの!?」
あなた代々騎士団長を務めてきた名家の跡取り娘よ!? 王国一の強さを認められたから守られてきた立場よ!? その看板に傷を付けたのよ!? 本当に状況分からないの!?
「ベルベル様。その心配は御無用です」
え?
「メルヴェール家のチャランポランっぷりは王家もご存知ですから。今更この程度のやらかしで見捨てたりなんてしませんよ。だから安心して放り出してください」
「そんな~!?」
何がそんな~よ……。
あとダーリャも、もう隠すつもりは無いみたいね。これはそういう意味でも腹を立てているわね。
「なに? 騎士団長の家はダーリャやメルメルみたいな変態ばかりなの?」
「失敬な!? ダーリャは変態じゃありません! 愚妹と一緒にしないでください!!」
「えへへ~♪ お姉ちゃんと一緒~♪」
「放しなさい!! ダーリャはあなたなんて知りません! 王家や家が許そうともダーリャはあなたを許しません!!」
「そんな~!?」
そりゃあそう言うわよね。ダーリャって、強さには拘りがある人だし。なんだかんだ努力の人だからね。その成果を愚弄するような人は本当に嫌いなのだろう。
コンコン。
待ち人来たれリ。
「失礼しま~す……」
「いらっしゃい。キリエ」
遠慮がちにメインヒロインちゃんが入ってきた。
その手はもう一人の少女の手を引いている。
「リリアーナも。よく来てくれたわね」
「……」
何もかもに絶望したような暗い目だ。
話は後にしよう。
「帰りましょう。私たちの家に」
先ずは美味しいものをたらふく食べさせてあげよう。
温かいお風呂に入れて、柔らかな布団で包み込もう。
たっぷり愛情を注げばリリアーナだって立ち直るだろう。女神の件も一旦忘れて、今は傷ついた少女を癒すとしよう。




