表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁-えにし-  作者: 狸塚ぼたん
三章
35/104

茜川小学校


葵と真壁は遺族である小宮佳奈の父親に会いに行くことになり、私と巧は茜川小学校の捜査をするため二手に分かれた。


先程の葵とのこともあり、巧と二人になった後もなんとなく気まずいままだった。


「小宮佳奈さんのお父さんは、今でもこの町に住んで娘さんを探しているようです。地域のボランティアとして、子どもたちの朝の通学の見守りも積極的に参加していてーー」


先程から無言の私に気遣い、巧は一人で話続けている。


「この通学路はひよりさんもよく通っていたんですか」


「はい」


「やっぱり、こういう普通の道にもそういうモノはいるんですか」


ええ、今あなたの真横に水浸しの女が。

とも言えず、


「そもそもここはもう、普通の道ではありません」


校門前に辿り着き、そう答えるだけに留めた。

しかし、それはより一層不気味に捉えられたらしく、巧は「マジか」と辺りを見回し始めた。

本当に何も感じないらしい。


土曜の午後の校庭に生きている子どもたちの姿は、ほとんどなかった。

神社ほどではないが、ここも似たような重苦しい雰囲気が漂っている。


「担当職員の方が職員室にいるようなので、そこに寄って行きましょう」


懐かしい校舎を見上げる。

私が在籍していた頃とまるで変わらない。

白いコンクリートの箱のような建物だった。


一歩、校舎の中に足を踏み入れる。

と、その瞬間、全身が冷たい水に浸されるような感覚を覚えた。


「っ……!」


当時からこんなに鮮明な感覚だっただろうか。


「どうかしましたか」


案の定、巧は平然としている。


「真壁さんなら入れなかったかも知れませんね」


二十年前に訪れた友膳がこの感覚を覚えていて、真壁と葵を小学校から遠ざけたのは見事な采配だった。

しかし、もし仮に葵が協力を拒んだとしたら一体どうしていたのだろう。


「こんにちは。保護者の方ですか?」


近くの職員室から様子を見ていたらしい、四十代ほどの男性が出てくる。

黒縁眼鏡をかけたその顔に見覚えがあった。

確か小学六年の時の担任だ。

名前は忘れた。


「こんにちは、佐々木と言います。この方は捜査に協力してくださっている榊さんです。子どもの失踪事件の捜査のため、校舎の中を拝見させていただきたいのですが」


私服姿の巧は首にぶら下げた警察手帳を男性に見せた。


「あ、ああ、警察の方ですね。教員の田辺(たなべ)です。話は聞いています。朝から近くでパトカーも鳴っていたので、そろそろいらっしゃると思っていました」


田辺先生。

そんな名前だったかもしれない。

向こうも私のことは覚えていないようだった。


それにしてもこの人、先程から随分と挙動不審なのが気になる。

この寒い気温の中で汗をかいているし、目線は合わないし、手は小刻みに震えている。

刑事ではない私でも怪しく思えてしまう程だった。


「近くで何かあったんですか?」


と、来賓用のスリッパを並べながら聞いてくる。


「ええ、まあ。その件もあってこちらを調べさせて頂きたいんです。聴取もしたいのですが」


「ちょ、聴取って僕に、ですか?」


「はい。田辺(たなべ)篤志(あつし)さん、あなたにです」


巧が彼のフルネームを口にした瞬間、田辺は顔を真っ青にした。


「僕は何も知りませんよ! 本当に何も知らないんです!」


この上なく怪しすぎる。


「現状では疑っているわけではありませんので」


この後、もし逃げたりしたらどうなるかわかっているだろうな、という圧を感じる。


「校舎の中を見させてください。緊張されているようですので、お話はその後で伺います」


「どうぞ、僕は職員室にいます! 勝手に見てってください!」


田辺は逃げも隠れもしない、とアピールするかのように堂々と招き入れた。

しかし私が彼の前を通り過ぎたその時。


「ひ、ひぃぃ!!」


と、情けない悲鳴を上げた。


「どうかされましたか」


巧はさっと私と田辺の間に入って訝しげに問う。


「い、いや、今……なんか……見えた気がして……」


見えた?

巧が視線だけで私に何か見えるか聞いてくる。

が、振り返ってみても特に変わったモノは見えなかった。

それを伝えるため、無言で首を横に振る。


「すみません。ちょっと、最近疲れ気味で……失礼します……」


田辺はそう言って、職員室に戻って行った。


「あの精神状態で教員ってやばくないか」


内心でその呟きに激しく同意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ