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バイト。

ブブブブブ


スマホの目覚ましが鳴った。


新聞配達のバイトの時間だ。


華を起こさないようにする為、目覚ましの音は出さないようにしている。


「んー!」


俺は伸びをして隣にいる華を見た。


気持ち良さそうに眠っている。


(かわいい…)


俺はそっと華の頬を触り、それから支度をしてバイト先へ向かった。



ーーーーー


「ただいま〜」


「おかえり!早かったね〜」


台所から華の声がする。


「だろ〜!コツを掴んだら早く終わるようになったんだよ」


俺は真っ先に台所へ向かい、華を背後から抱きしめる。


「湊人、手洗いうがいしてきてくださーい」


華は味噌汁の味見をしている。


「俺にもひと口」


「だめ。早く行ってきて!」


「へいへい」


俺が洗面所から戻ってくるとテーブルの上に朝食が並んでいた。


俺はまだテーブルの上にないドレッシング等を運ぶ。


「「いただきまーす」」


俺たちの1日が始まった。


「華、いつもありがとな」


「え、何が?」


「こんなにしっかりとした朝食作ってくれて。あとお弁当も」


「ご飯は大事だからね〜。湊人、バイト頑張ってるし!」


華が微笑む。


「今日も頑張ってくるわ」


「うん!今日は私もバイトだから頑張る!」


「おう!」


ーーーーー


大学の講義が終わり、塾講師のバイト先へ向かった。


早めに着いたせいか事務室には他の先生はまだいなかった。


事務室で授業の予習やポイントを整理していた時、


「おぉ、赤井くん。」


「あ、お疲れ様です。今日、人少ないですね!」


「あれ、赤井くん連絡きてない?」


「え?」


俺はスマホを確認した。


『本日は生徒の多くがウィルス性胃腸炎で欠席の為、授業は行わず自習室のみ開放します。バイトの方々は申し訳ありませんがお休みでお願いします』


「まじか。こんな時期にも流行るんですね。冬のイメージがありますけど」


「本当だよ。まだ初夏なのに。ま、そう言う訳だ。赤井くんは帰っていいよ」


「わかりました!失礼します」


俺は塾を後にした。


俺は何をするか考えた。


久々の予定なし。


「髪でも切りに行くか」


俺は一旦家に戻り、自転車に乗り直して床屋のある商店街へ向かった。




「いらっしゃいませ。今日はどんな感じにします?」


「この前よりあと1〜2センチぐらい短くしたら変ですかね?」


「大丈夫だと思いますよ」


「じゃあ短くお願いします」


俺はフルコースをお願いした。


ここの顔剃りがとても気持ちいい。


「赤井さん、終わりましたよ。お疲れですね」


俺は顔剃りがあまりにも気持ち良くていつの間にか眠ってしまっていた。


「あ、すみません。」


髪のセットまでしてもらった。


フルコースで2,000円。


もっと出してもいいと思ってしまうクオリティだ。


「ありがとうございました!また来ます」


俺は床屋を出て商店街を散策することにした。


(華のバイト先、確かこの辺だよな)


華のバイト先のケーキ屋さんはこの商店街のどこかにある。


スマホで探すとルートが出てきた。


それに沿って歩いていると可愛らしい看板が見えた。


(ここか…!)


華が働いている所を見るのは初めてだ。


(恥ずかしいから店の外から華を確かめたら帰ろう)


俺は外から店内を覗いた。


…見えない。


俺は色んな角度から覗いてみたが華らしき人は見当たらなかった。


(…中にいるのかな?)


俺が考えを巡らせていると誰かに肩を叩かれた。


驚いて振り向くと坂下とその友達がいた。


「先生〜なにしてんの?」


「あ、いや…」


(彼女を見に来たなんて言えないし…)


「分かった!恥ずかしくて1人で入れないんじゃない?」


坂下の友達が言った。


「え…?あ、そう、そうなんだよ!ケーキ買おうと思ったんだけどな、店の中女の人ばっかりで入り辛かったんだよ!」


俺はあまりいい考えが浮かばなかった為、友達の言葉に乗った。


「え、そうなの?じゃあ一緒に入ってあげる!ほら行こう!」


坂下は俺の腕を掴み、店内に入っていった。


「いらっしゃいませ…湊人?!」


「あ、よう…」


店内に入ると華が真正面にいた。


「どうしたの?こんなところに」


「先生、知り合い?」


坂下は不思議そうな顔をしている。


「先生?」


華も不思議そうな顔をしている。


「あ、えーと。今日、塾講のバイト休みになって、それで…」


ここで華の事を見に来たなんて言えない。


「ケーキを買おうと思ったんだけど入り辛くてJKに助けてもらったんだよね、先生?」


坂下が意地悪そうな笑みを浮かべている。


「…ま、そんな所」


「へぇ〜、ではごゆっくりご覧ください」


華はそう言うとケーキ補充の為に奥へ行ってしまった。


華にはどんな風に見えただろうか。


高校生の女の子に腕を引っ張られて店内に入ってくる彼氏。


浮気しているように見えただろうか。


それともただ頼りない男に見えただろうか。


「先生?」


「…ん?どうした?」


「あの人、先生の彼女でしょ」


「え、なんで?」


「なんとなく。雰囲気で分かっちゃうんだよね〜」


坂下は得意げに言った。


「そうそう。茉莉ってそういう所鋭いよね」


友達はそう言いながらケーキを見ている。


「先生、奢ってよ!ここまで連れてきてあげたんだし!」


「まじか…。」


「嫌ならいいよ!塾中に先生の彼女がこのお店で働いてる事言っちゃうから!」


「それはやめてくれ。…分かったよ。どれにする?」


坂下と友達はケーキを1種類ずつ選び、満足そうだ。


「俺の小遣いが…」


俺の財布が泣いている。


奥から華が出てきた。


「ほら、赤井先生行くよ〜!」


「あ?!え…」


俺は再び坂下に腕を掴まれ外へ連れ出された。


「おい、坂下。お前…」


「本当は彼女を見に来たんでしょ?先生の彼女、すっごく美人だねっ!」


「お、おう…」


「先生には勿体ないぐらい!」


「ま、まぁな…」


「じゃあ私達帰るね!先生、ケーキありがとう!」


そう言うと坂下たちは帰っていった。



ーーーーー


俺は商店街をぶらぶらしていた。


ブブッ


スマホが鳴った。


『今日、前からバイトの子とご飯行く約束してたから夕飯いりません。バイトお休みになったのに早く帰れなくてごめんね。華』


(そうか。)


俺がバイトしている間、華は何をしているのか、寂しい思いをさせているのではないかと思っていた。


華には華の生活があり、交友関係がある。


俺がいないと生きていけない華ではない。


少しホッとした。


また変な事に巻き込まれたらと過保護になり過ぎていたかもしれない。


(友達に会いたいな…)


高校時代の友達はみんなバラバラになり、会う機会があまりない。


今住んでいる所は地元ではない為、小中学の友達にもすぐには会えない。


急に寂しくなってきた。


「たまには銭湯にでも行って気分転換するか」


俺は家の近くの銭湯に寄ってから帰った。


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