ぷつん
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湊人と華は何の発展がないまま高校3年生になり…
「母さん、おかえり」
「お邪魔しています」
華がペコリと頭を下げる。
「華ちゃん、いらっしゃい!会いたかったわ!」
母さんが華にギュッと抱きつく。
「く、苦しいです…」
「あら、ごめんなさいね。ドーナツ買ってきたからみんなで食べましょ!湊人、運んで」
「私も手伝います!」
華が手際良く準備をしてくれたおかげで俺はほとんど役目がなかった。
「湊人、華ちゃんを見習いなさい。普段お手伝いしてるかどうかすぐに分かるわよ!」
「うっせーな。いいじゃん、別に。早く食べよーぜ!俺、チョコついたやつ〜!」
「…本当にいつまで経っても子供なんだから。華ちゃん、湊人が迷惑かけてない?嫌な事があったらすぐ言ってね!湊人も悪い奴ではないから、きっと直してくれるはずよ」
「大丈夫ですよ!湊人はいつも優しいです」
華が微笑んだ。
俺たちはしばらく談笑し、華が帰る時間になった。
「俺、送ってくる」
「いってらっしゃい。明日から学校なんだから、あまり遅くならないようにね」
俺たちは家を出て歩き出した。
「ったく。口煩くて困るよ。」
「そう?優しいお母さんじゃない。」
「そうか?」
俺たちは手を繋ぎながら歩いていく。
「明日から新学期か。華、早く新しい学校に慣れるといいな」
「うん。女子高ってどんな感じなんだろうね。ドキドキする。」
「別の高校になっちゃったけど、近いしたまには一緒に登下校しような」
「うん。楽しみにしてるね。」
華の家に着いた。
「華。」
「ん?…っ」
俺は華にキスをした。
華は驚いた顔をしている。
「へへっ、じゃあな!」
俺は恥ずかしさを誤魔化すため華が見えなくなるまで走った。
ーーーーー
あれから数ヶ月。
俺たちは高校3年生なった。
相変わらず俺たちは毎日連絡を取り合っていたが3年生になってからはお互い忙しく、なかなか返事が返せなくなっていた。
華はもうすっかりと女子高に慣れ、日に日に綺麗になっていく。
俺とは釣り合わないのではないかと日々不安に駆られる。
俺は部活が終わり、部室で着替えをしていた。
「俺、この前ついにヤッたわ」
「まじで?遅くね?」
男子部室は基本的に下ネタオンパレード。
(俺に話題振られる前に帰ろう…)
俺は急いで支度した。
「そういえば、お前まだ続いてんの?」
橋本だ。
「続いてるよ。」
「お前はもう最後までしたんだろ?」
「…。」
ここは正直に言うべきなのか。
それとも嘘ついた方が身のためか。
嘘ついて華に良からぬことがあっても困るか。
「してない。俺たちは健全だからな」
「まじかよ!高3の彼女持ちがヤッた事ないとかありえないだろ!」
「湊人、度胸ないな。」
「お前、性欲ないのか?」
俺は何故かボロクソに言われた。
「いいんだよ。あいつのタイミングに合わせられれば」
これ以上、言い返す事ができない。
「でも華ちゃんって新と付き合ってた時は絶対ヤッてたよな。キスマーク付いてるの見たことあるし」
「だよな。新はよくて湊人はダメっていうのもおかしくないか?」
「本当は他に本命がいたりして」
完全に俺たちをネタにして楽しんでいる。
でも俺もたまに本命は他にいるんじゃないかと思う事がある。
あまりにも釣り合わないから。
「…帰る。」
部室のドアを勢いよく閉めた。
俺と華はキスまでしか進んでいない。
華の傷付いた心が開くまでは無理しないと決めている。
でも、本当は俺としたくないだけなのではないだろうか。
だんだん自信が無くなってきた。
(はぁ。)
「なに、その大きなため息」
「!!」
振り返ると美奈がいた。
「お前、なんでいるんだよ」
「帰る方向が同じなのと、あなたの忘れ物を届けにきたの」
どーんと突き出されたのは今日渡されたプリント。
「これ、今日持ち帰らなくて良くね?」
「…まぁそうね。正直に言うと、湊人が落ち込んでるように見えたから追いかけてきたの」
「…そうか」
俺たちは並んで歩く。
「なぁ、俺って華と釣り合ってないよな」
「そう?2人がいいなら気にしなくていいんじゃないの?」
「まあ、そうなんだけど。なんとなくさ。」
ファミレスの横を通り過ぎる。
1組の男女が出てきた。
「…ねぇ、あれって」
美奈が俺の袖を引っ張り、止まる。
「ん?…華」
華が少し年上の男と歩いている。
「湊人。これ、どういう状況?」
「分からない…」
あの男は誰だ?
メールや電話をしていても会話に出てきたことはない。
華と男は談笑し、華の家の方へ向かっている。
俺は固まっていた。
「湊人、何してるの!ついて行かなくていいの?」
「あ、あぁ。行ってみるか」
俺たちは尾行をした。
華たちは気付くことなく歩いていく。
男からは華への想いがダダ漏れしているのが分かる。
「くそっ。あいつなんなんだよ」
「あの人かっこいいよね。」
「おい。」
「あ、ごめん。」
男の俺が言うのも何だが、男は高身長のイケメンだ。
言い寄られたら俺なんか瞬時に捨てられる可能性が高い。
華の家の前に着いた。
華がペコリとお辞儀をすると男は華の頭をポンポンと撫でた。
そして2人は微笑み合い、男は去っていった。
華の顔が少し赤らんでいるように見える。
華が家に入るのを確認すると俺たちの緊張が解けた。
「…。」
俺は呆然としていた。
「…湊人、大丈夫?」
「あぁ。なんか、疲れたな。帰ろうぜ」
俺は美奈の返事を聞かないまま歩き出した。
公園が見えてきた。
後ろを振り返ると美奈が下を向きながら歩いている。
「美奈。俺、少し公園で休憩してから帰るけどお前どうする?」
「ん〜、私も行くよ」
「そっか。じゃあジュース奢るよ」
「いいよ、ジュースぐらい自分で払うよ」
「今日付き合ってくれたお礼だよ。何がいい?」
俺は美奈をベンチに座らせ、自販機にジュースを買いに行った。
「…湊人はいつまでも優しいなぁ。」
美奈はボソッと誰にも聞こえないような声で言った。
「お待たせ。ほらよっ!」
「ありがとう」
「「…」」
会話がない。
美奈とは長くいるせいか会話がなくても特に何も思わない。
「湊人。大丈夫?」
「…俺、自信なくなったわ」
俺の手が震えた。
止めようとしても止まらない。
「もう、ダメかもしれない…」
俺がどんなに好きでも華とは釣り合わない。
華には俺よりもっとふさわしい人がいる。
華もそう思っているのかもしれない。
「湊人。」
美奈が手を俺の手の上に置いた。
「私は、湊人の側にいるよ。私じゃダメかな…湊人が苦しんでるの見たくないよ…」
美奈が俺に抱きついてきた。
俺は呆然としていたが、無意識に美奈の背中に手を回した。
そして今までの頑張りと緊張の糸が一気に切れたように涙が溢れてきた。
俺には無理だったんだ。
頑張ったけど、もう限界だ。
美奈は何も言わずギュッと抱きしめてくれた。
あれから何分経ったか分からない。
俺はやっと落ち着き、美奈から離れた。
「美奈、ごめん。キモいな俺は」
「泣きたい時は泣けばいいんだよ。我慢はよくないよ。」
「あの、返事なんだけど…」
俺は美奈がしてくれた告白の返事をしようとした。
「あ、あ〜いいの!気にしないで!というか言わないで!私こそ変な事言って本当にごめんね!」
「…ずっと好きでいてくれてありがとうな」
「…うん」
美奈が微笑んだ。




