Act.19 天馬大陸競技会
お久しぶりです。はじめましての方も、こんにちはの人も、どうぞごゆっくり。
日向夏に教えて貰った大会にエントリーするため、俺たちは淡い日の刺す通りを歩いていた。
彼女が言うに、天馬大陸競技会のルールは、以下のようなものらしい。
1.一ヶ月に渡り、エスラット共和国とラスティア王国の国境付近に位置するオアディール山を走破する。
2.如何なるスキルの使用も許可する。
3.使役獣を同伴させるのは飛翔不可の使役獣に限る。
4.他選手に致死量の攻撃を与えると、全選手に与えられる復活の指環が発動し、脱落となり、医療室にへと転移させられる。
5.ゴールしたタイムを競う。ランクと順位に応じて今後の生活に役立つものを授与する。
6.必要以上の傷害を与えるものは選手権を剥奪する。
7.コースに指定は無く、如何なる場所を使っても良い。
8.コース内にあるものは如何なる物でも使用して良い。
9.レース開始後4刻の間は他選手に危害を加えてはならない。
...実際に死なないのだけがせめてもの救いか。ルールを聞いた限りランク差による一方的な蹂躙を防ぐためか、ランク別に行われるらしいな。
とある事件(笑)が起きた娼館の前を過ぎ、大通りから少し離れた路地、日向夏曰く近道だそうだーーを通り、ギルドへと向かう。
あの話を脳内で思い出すだけでもなんか日向夏に冷たい目を向けられるんだよな...もしかしてテレパシー持ち?
「ひゃっ!?」
「うにゃっ!?」
ごっちーん。突然現れた黒い質量の塊に衝突し、いかにもネコ科らしい悲鳴と共に地面に転がる。
「...こっ...だ!!」
ガラの悪い複数の男の声が足音と共に狭い石畳の通路に響いてくる。
と、思い出したかのように黒い丸が手足をにょきっと生やし、周囲をキョロキョロと確認した後に、日向夏の手を掴む。
うっわぁ、絶対なんかのイベントフラグだろこれ...と心中でぼやきながら、なし崩し的に日の射さない路地の奥へと導かれる。
「あぁもう、しょがない、こっち!早く!」
「え、え?え?」
いまいち状況を掴めないまま、二人の小柄な人影が暗い路地の奥深くへと消えていく。
*
黒い外套の人物に手を引かれ走ること10分程。俺たちは町外れの廃屋で一息付いていた。
「はっ、はっ、はぁ。だ、大丈夫っ、か?」
「え、あ、うん...誰?」
見た目は―上背がないので、年齢はよく分からない。日向夏は完璧なケモ耳っ娘だが、この子は若干野生の血が濃いように思える。理由としては、三対のヒゲと、猫寄りの鼻。見た目の幼さも相まって、庇護欲を掻き立てる要因の一つになっている。
「もしかして...猫印種?」
「そうそう。ただのしがない情報屋だよ。あ、それとボクのことは忘れてね」
「...まぁいいか。事情もあるんだろうし」
「助かるよ」
その小さい手が簾の様なものを押しのけ、木立の影の中に溶けるようにして消えていった。
日向夏も息を整え、小屋から出る。
『そうだ、...日向夏、顔は覚えたか?』
〔はい。変声器の類を使っているような声でもありませんでしたし。次に会ったらすぐ分かりますよ〕
頼もしいことで。
その後歩くこと三十分。ようやく元の行き道に戻ってこれた...のだが、実をいうと、時間がひじょーにマズい。道草を食ってしまったおかげで、受付締め切りに間に合うかどうか怪しくなってしまったのだ。
というわけで、レッツ、全力ダァッシュ!
日向夏の渾身のダッシュのおかげか、何とか締め切りの時間には間に合った。
火照った身体を冷ましながら、建物の中に入っていく。こちらに気づいた風のシュイちゃんが、レーンに手招きをしてくれる。
「おそいよー。セイもう終わって外いっちゃったよ?」
「ごめんごめん...受け付け、お願いできる?」
「...大通りのアイス一個、おごってね?」
えぇー、といった感じの顔をしながらも、どこか笑顔なのが仲のいい何よりの証拠なのだろう。
競技会に関しては、特にチームにおける人数制限も無いらしく、三十人以上の大パーティーや、ソロの強者などもいるそうだ。ニガロザの二人(?)に関しては使役獣として登録され、それぞれ収縮自在の金属製の足輪が渡される。
またこの足輪がなかなかよく分からないもので、少しグレーの入った金色をベースに、明るめの青色や黒色の金細工が施されており、なお且つ伸縮自在ときているのだ。
もうこれ分かんねぇな、と内心でつぶやきつつ、シュイと日向夏の手続きの様子を眺める。
「それじゃ...これで登録完了だね。競技会、頑張って」
「うん、頑張る。入賞したら、何かおごってよ?」
「入賞したら、ね」
そんな会話が口火となったのか、二人の会話が弾んでしまい、カウンターの先輩らしき人から冷たい視線が贈られてきた所で二人は話を切り上げた。
「あ、あぶないあぶない。忘れるところだった。ヒナ、これ」
手渡されたのは、先ほど手渡されたものと似たようなデザインの指輪だった。
大会規則にあったあれか、と思いながら指輪を見ていると、実際そうだったらしい。
「あらぁ?ヒナカちゃんじゃなぁい。ヒナカちゃんも受付?」
「あっ、はい。そうです。ドゥーシャさんも?」
「そうよぉ。今年もここの代表に選ばれちゃって...書類が多くなって面倒なのよねぇ」
まぁ、ランクTだもんな。そりゃそうなるわな。ほぼ最強と言っても過言ではないレベルなのだから。
「え...ドゥーシャって...あの、『双剣乱舞』の、アンネ・ドゥーシャさん?なんで?」
なんで、仲がいいの?という言葉が発せられる前に、日向夏が答える。
「あ...まぁ、仕事の帰りで色々あって...それで」
まぁ、いろいろあったね。いろいろ。
ドゥーシャも競技会の申し込みに来たらしく、ついでといった感じでシュイちゃんに受付用の羊皮紙を貰っている。締め切りギリギリに来るような冒険者は意外にもあまりおらず、空いた席に腰掛けて急ぎ目に羽ペンを躍らせる。
ドゥーシャは国の選抜ということもあって、競技会に関してはベテラン中のベテランらしい。新参の俺たちからしたら、まさに情報の宝庫なわけだ。ということでドゥーシャに質問のシャワーを浴びせ、様々なノウハウを得られた。
今回は長らく参加していなかったという乙女`sも参加するらしく、今回の賭けはどう動くか全く予想がつかないらしい。
ちなみにこの競技会には各国のお偉いさん方も観戦にくるそうだ。ひとえに賭け、と言ってしまったが、こいつは大会が主催するのが一般的なのだが、観戦に来た貴族や王族のお方々も賭けるようで、貴族からしたらちょっとした額なのだろうが、そこらの村を買い上げてもお釣りがくるぐらいの駆け引きをやっているそうだ。
たまに節度をわきまえない阿保貴族が自分の賭けた選手が勝たないと、嫌がらせをしてくるそうなので、そこんとこ気を付けておいてねぇ、とも言われた。
「あ、そうそうヒナカちゃん、知ってると思うけど、今年は雪が降りに降った割に晴れの日が少なかったでしょぉ?」
「確かにそうでしたね...それがどうかしたんですか?」
「そのせいで若干開催日数が延ばされたみたいなの。開催日数が長引くと、その分貴族たちの気が荒くなるから、絡まれないように気を付けてねぇ」
「はい。心の符帳に書き留めておきます」
貴族ね...面倒ごとの匂いしかせんなぁ。
競技会は二つの部門に分かれており、一週間目から六週間目ぐらいまではランクが高い順での個人レースとなる。これは国別対抗に出場する選手への配慮なのだそうだ。そして六週間目以降、この催しで最も盛り上がると言われる国別対抗のレースになる。これにはドゥーシャや乙女`sが参戦しており、各国の威信を賭けたレースになるそうだ。
「そういえば、魔獣中継の総括主任はどうなったんですか?」
「あぁ、おばぁちゃんに決まったわよぉ」
ここでのおばぁちゃんとは、白銀の科学者こと、テルルのことだ。ドゥーシャは長命なアルヴと言っていたので、ドゥーシャをとってしておばぁちゃんと言わしめるテルルの年齢がより一層分からなくなってきたな。
魔獣中継とは名前から察せられる通り、向こうのテレビ中継と似たようなものだ。違う点としては、術者のレベルによって画質が非常に上下することや、映し出される映像が術者の使役獣の目を通したものという点だ。この中継がキレイに映るかどうかでも、国のレベルの高さが問われるらしい。
ドゥーシャから聞けるだけ話を聞いた俺たちは、メンバーの実力を計るため、クエストを受けることにした。難度としては、そこまで難しくないものがいいだろう。というわけで俺たちが選んだのは、
「このバレンドラゴン討伐の受注をお願い」
「はい。クエストの受注を承りました。...がんばって」
「うん」
というわけで、シニ―スタール回収のクエスト、こなしていこうかな?




