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Act.18 ぐーてんもーるげーん!

「はっ...はぁっ...はぁっ」


不明瞭な視界の中、誰かが必死に走っている。何で走っているんだ...?

が、その答えは分からず仕舞いに急速に視覚から色が失われていくーーー



引き戻された意識が覚醒したのは、豹族の少女の家の窓辺だった。広い寝室にはもう一人少女がハンモックに揺られている。窓辺から見える景色は、一面霧氷に覆われた森で、中々にマイナスイオンが放出されていそうな雰囲気の景色である。


そんな中、一匹の山猫が半開きのドアを通って俺の横に丸まる。彼は俺と同じく朝は早いほうだ。


『ふあぁ...いつも早いですね、兄者』


彼、ことニガは欠伸をしながら器用に念話で俺に話しかけてくる。


『おはよ。朝型だった記憶はないんだけどな...年か?』


まさか、と苦笑しながら返してくるあたり世渡りの上手いことだ。いつもの如く、ニガの首輪に変化し、少し他愛のない会話を交わす。白銀の森で一度朝の散歩に行った時以来、ニガは朝の散歩を気に入ったらしく、こうやって時間に余裕があるときは二人で朝の散歩に行くようにしている。


「お、そこにいるのはニガ君かな?どこ行くんだい?」


日向夏とは正反対だね。眠そうな目を擦りながら、こちらに寄ってくる。


〔おはようございます。今から兄者と散歩に行こうと思うんですけど...来ますか?〕

「お、そういう事なら。おいらも週末の朝は、森で食材になりそうなものを取って来るからね。丁度いいや、付いていくよ」

〔分かりましたそれじゃ、行きましょうか〕


因みに日向夏とロザはというと...ご察しですねぇ。寝顔は可愛いというけど、ベースがベースだから、日向夏は別段可愛いね。


セイディが静かに準備を始める。と言っても、プーレートメールでは無く、軽いレザーアーマーを着用し、護身兼採取用の細身のナイフを腰に下げている。


何故か俺がナイフに注目しているのがバレたらしい。セイディが親切に答えてくれる。が、


「これかい?こいつはちょっと特殊な能力があるんだけど…そうだなぁ、後で教えてあげるぜ♪」


何故か教えてくれなかった。なんぞ楽しそうだな…まあ、期待しておこうではないか。準備が整ったので、裏口から外に出る。近くには川が流れているのか、水の流れる音も聞こえる。


セイディ曰く、この森にはあまり人が入らないらしく、よく獲物や山菜がとれるらしい。

セイディが何か罠らしきものを作り始める。


『何してんだ?罠か?』

「ご明察。おいら前衛職なのに罠作ってみたら意外に上手くいってさ。それで暇なときにちょくちょく練習とかしてるんだ」


こういう時に役立つしね、と呟きながらテキパキと罠を作り上げていく。ニガは一人で散歩兼自分の食料を獲りに森の奥深くに入っていった。


「よし。次に行こうか」


そう言って次々にトラップの敷設が進んでいった。数十分もしたころ、ニガが野兎を咥えて戻ってきた。


『ちょっと余ってしまったんでどうぞ』

「そうかいそうかい。朝飯のメニューが増えるねこりゃ」


それでは、と言い残しまたニガは森の奥深くに消えていった。


そういばこの世界、もとい惑星であると推測されるこの星の公転周期はどの位なのだろうか、という疑問がふと湧いて出てきたので、セイディに聞いてみる。

分かりやすく言うと地球とほぼ同じらしい。俺の解釈が追い付かなくなるので全部向こうの数え方で数えているんだけど。


その後もニガがセイディの入れないようなところにある山菜を取ってきたりして、着々と麻袋が食材でパンクしそうになっていった。

あまりにもニガが有能すぎたので、セイディが「家でも何か採取用の魔獣飼おうかな...」と呟いていた。


罠にも数匹小型の魔獣が掛かっていて、今日の朝飯は豪勢なものになるであろうと予測出来るほどだった。

それじゃあ帰りますか、といった雰囲気の中、そいつは突然現れた。


「ぶるひぃぃぃっ!!」


実に2m越えの猪である。正確には猪似の魔獣なのだが、いかにも雑魚臭漂わせるオーラを醸し出している残念な奴である。


「おっ?こいつぁこいつぁ、「美味なる猪」コスティリヒア・イーバじゃないか」


美味なる猪て...ネーミングセンスよ、ネーミングセンス。逆に猪が可哀想になってくるわ。

セイディが刺突の構えをとる。


「てぇいっ!」


コンマ二秒未満の時間で猪の足裏、つまるところアキレス健の位置まで移動したセイディがそのまま剣を薙ぐ。アキレス健を失った猪はそのまま重力に屈し、その巨体を地面に張り付ける。


次の瞬間、動けない猪の首元に剣を逆手で持ったセイディが鎌の要領で動脈を切り、生命を手放させる。南無三。


「ふぃ~。久々にまともに動いたかもな~。あ、どうしよ...バラさないとだめじゃん...めんどくさ」


なら狩るなよ、という言葉が実在しない喉の奥までせり上がるが何とか堪える。あ、そうだ。


『なぁセイディ、解体やらせてくれないか?』

「まじ!?やったぁ!ありがと!」


どんだけ解体したくなかったんだよ...と苦笑しながら作業に取り掛かる。幸い川が近くにあったのですぐに血抜きは出来た。

ちなみに解体したかった理由としては、単に豪風魔術のレベルアップをしたかったのもある。が、セイディにあんな凄い動き見せられちゃあこっちも黙ってはいられないからな。そして最後にもう一つある。魔石である。


このくらいの魔獣だと、どの位の魔石が手に入るのか試したかったのもある。なんせ一番最初に手に入れた魔石がランクA近くのやつだったからな。相場がわからんのだよ、相場が。


『あるっちゃあるが…微妙だなぁ、こりゃ』

「魔石のことかい?」

『そ。こいつ貰っていいか?』

「いいぜ〜。ま、将来への投資って言ったところかな?」


家にある使うには少し物足りないやつもくれるそうだ。セイディってこういう所があるんだな。笑顔の下には的な奴が。まあセイディの場合笑顔の下にあるのは計算高い顔なんだけども。


「よし...じゃ、帰るとしましょうか」



家に着いたのは日の昇り方からして九時ぐらい、もとい西の刻ぐらいだった。

セイディ曰く珍しく日向夏が起きているらしく、家に灯りが灯っている。


家に入り、日向夏に森であったことを話しながら料理に取り掛かる。

どちらかと言うとセイディの方が手際が良いが、日向夏もそれについて行ける程度には料理が上手いね。その事を言ったら、


「いやいや、ヒナの方が上手いよ〜。食材の切り方とか真似出来ないからさ〜」

「え〜?そう?セイの方が上手で手際いいじゃん」


うんうん。互いを認め合えるいい仲ですな。

そして驚くべきは出来上がった料理である。ONE ○IECEさながらの肉のフルコースなのである。胃がもたれないのかと心配した俺がバカだったらしく、日向夏たちはそれを二十分もしないうちに食べやがんの。


二人+二匹の胃袋には驚嘆を隠しえないね。しかもなんぞデザートまで作り始めたし...どんだけ食う気だ貴様ら...恐ろしや。


アイスらしきものにジャムをぶっかけたデザートを口に運びつつ、セイディが会話の口火を切る。


「なぁヒナー、ヒナって今回の天馬大陸競技会ペガズス・べアークラウフ出るのかい?」

「うーん、天馬大陸競技会かぁ...どうしよ...」


天馬大陸競技会?なんだそりゃ?という思考が日向夏に流れていたのか、日向夏が説明をしてくれる。

曰く、天馬大陸ーつまるところ今俺たちがいる大陸全土から各国の冒険者や騎士団などを選抜し、各種総合・・技能を争うらしい。五輪オリンピックみたいなものか?と思ったら、


「ステージを平均七日間かけて走破するレースですよ?」


と、真顔で答えられたなら行きつく先は自明であり、


〔トライアスロンかよ...〕


否、正確にはトレイルラン、もしくは山岳レースといったところか。毎回開催地が変わるようなので、トレイルランではないのかもしれないが。しかし話を聞くに、ただのトレイルランではないらしい。


曰く、他の競技者を生命的な意味で蹴落としながら進行されるレースらしい。

曰く、自分が殺される可能性も大いにあるレースらしい。


...な、中々にスリリィングなレェースではあーりませんか?

が、一概に殺されるといっても本当に死ぬのではなく復活はするらしい。いや、本当に死ぬ体験をすることには変わりはないのだろうが。まぁ事故でも起きない限りは本当の意味で死ぬことはないらしい。


しかし日向夏たちは喜々として話を続ける。何故かニガとロザも乗り気らしく、念話で会話に参加している。「出ましょ?」と日向夏に下から目線(物理ではない)でねだられたらもうお手上げである。

どうやら俺には人権というものが存在しないらしい。

日向夏ちゃんの家に住みたい

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