龍と書いてドラゴンと呼ぶ?:木の初恋ははかないものだ
四、
俺の目の前にとても大きな木があった。
「…………ま、今日はここまでかな?」
「終わりっすか?」
さすがに全力疾走とはいかないし、微妙にまだ走ったほうがいいという気持ちもないでもないが、本日はこのくらいにしておかないとなんだか、いけないような気がしたのだ。
「この木、おおきいっすねぇ〜」
「ああ、だけど………まだ、これより大きい………というより、歳をとっている木があるって俺は聞いてるな」
俺は木に触ってみた。
『おいおい、どこ触ってんだ?坊主?』
「………南海、なんかしゃべったか?」
首をプルプルと振る南海。
「じゃ、だれ?」
『目の前にいる我だ』
「………いやぁ、てっきり木がしゃべったのかと思ったぜ………さぁ、下着を買いに行こうか、南海?」
「そうですね、そうしましょうか?」
いやぁ、今日はやっぱり疲れているんだろうなぁ………木がしゃべっているように聞こえたぜ〜
『待てというのが聞こえてねぇのかよ!』
「うおおっ?」
「うわっす!!」
地面からいきなり根っこが生えてきて俺たち二人を捕まえる。
「な、何じゃこりゃ?」
「根っこっすよ?見てわからないっすか?」
「そりゃ、わかる!」
「じゃ、何で聞いてきたんすか?」
「………もういい、お前と話したくない………」
「?」
根っこを引きちぎろうとしたのだが、そううまく引きちぎれてはくれないようだった。
「やれやれ、これは一体全体、何なんだよ?」
抜け出そうにも抜け出せない………
『無理だ。これは我が解かねば取れることはない』
「南海、また何かしゃべったか…………いたたたった!わかった!わかった!世の中にはしゃべるも木もいるって!認める!認めるから!」
『うむ、わかったようだな』
何とかおろしてもらって隣の南海を見る。こちらはきょとんとしている。
「木ってしゃべるんっすね?」
「そうだな、しゃべる木もいるんだな………ところで、俺たちに何か用か?」
木がしゃべることなんてめったにないし、テレビに送ろうと一瞬だけ考えたのだがやめておこう。
『うむ、重大なことをやってもらいたい』
「何を?」
『三丁目の山田さんの家で自家栽培されているプチトマトのみっちゃんにこの恋文を届けて欲しいのだ』
そういって手渡されたのは葉っぱだった。
「………悪いが、俺たちは郵便屋さんじゃねぇんだ………郵便番号と住所かいて自分でポストに出してくれや………これから用事だってこっちにあることだし…………」
「手紙をやるぐらいならいいんじゃないんすか?」
「駄目だ、面倒だからな」
そういって相手に背中を見せると相手が再び根っこで襲い掛かってくる。しかし、今度は完璧に避けることが出来た。
『………頼む!もう、もう、みっちゃんは長くないんだ!』
「………長くないって、どういうことだよ?そんなにプチトマトは長生きじゃねぇだろ?もしかして、そのプチトマトはお前さんよりも年上か?そりゃ、珍しいよぼよぼなんだろうな?」
『違うぞ!みっちゃんは絶好調の赤色で張りだってよくてみずみずしいんだ!生葉のCMに出ている熟れすぎたトマトのようじゃないぞ!』
「………ああ、そうかい」
『この通り!頭も下げるから!』
ぼきぼきぼきぃ!!
「うわぁぁぁあ!!折れてるっす!このままいくとつぶされちゃうっすよ!!」
「わかった!わかった!俺たちがきちんと渡してくるから!ストップ!」
『おお、そうか………それはありがたい………』
「じゃ、行くか南海」
「了解っす!」
こうして、俺たちは葉っぱを持ってその場を後にしたのだった。
「で、話はわかったけど何で私が行かないと行けないのよ!へ、へくしゅん!」
「まぁ、旅は道連れ世は情けだからな」
「厄介ごとを持ってこないでよ!」
「それ、言っちゃうと私たちのことを全否定になっちゃうっすよ?どう考えても、私たちは厄介ごとそのまんまっすからね。加奈さん、初対面の私が見ても騒がしいっておもうっすからね」
そういわれて完璧に加奈は完璧に固まってしまった。
「…………あ、あんたはそう思う?」
「ん?まぁ、騒がしくなって俺は嬉しいぞ?加奈は元気がいいからな」
「そ、そうよね?べ、別に騒がしてもいいわよね?胸も小さくてもいいわよね?ね?」
物凄い剣幕でそう言ってくる………な、何だ?普段の加奈よりも怖いぞ?
「あ、ああ………まぁ、外見だけじゃ人は語れないからな」
「そ、そうよね!」
「けど、加奈さんって中身も悪いと思うっす!」
「ああ、それは一理あるなぁ………」
「………南海って言ったかしら?私に何かうらみでもあるの?」
「いや、ないっすよ?事実を言ったまでっす」
きょとんとしているところをみると本当に事実なのだろう。加奈は犬歯をむき出して怒り狂っている。
「もう!ただじゃおかないわよ!今日お昼に出来るようになったことをここで試してあげるわ!へ〜んし〜ん!!」
雷がいきなり現れて加奈に当たる。地面が揺れ、雷雲が立ち込めてゆく………
俺たちは恐怖を感じながらその姿を見ていた。
「へ〜正義の味方みたいに加奈って変身できるんだなぁ………ま、加奈が変身してもちょっと無理あるだろうな」
「何になるんすかね〜………まぁ、大体わかるきもするんすけどね〜」
しゃ〜〜
「って、龍かよ?それって変身っていうより戻ってないかな?」
「そうっすね、変身じゃないっすよね〜………まぁ、期待通りで私はちょっとがっくりっす」
「おっと、無駄なことにちょっと時間をとられすぎたな………さ、行くか南海?お〜い、加奈、それどうやって戻るんだ?」
首をかしげる加奈。
「………ま、今回は自業自得ということで………」
「まぁ、しょうがないっすよ」
「ばれないように家に帰っておくんだぞ?」
ようやく、目の前に三丁目の山田さん家が現れる。
「しかし………どうやって渡せばいいんだ?」
「そうっすね、このままはいっても不法侵入で逮捕されてしまうっす」
さてさて、どうしたものだろうか?
「とりあえず、家の周りをうろうろしてばれないようなところからはいるか?」
「そうっすね……でも、この時点で私たち不審者確定っすね?」
「…………深くは考えないようにしよう………よし、南海は左から行ってくれ、俺は右から行くから」
「了解っす!!」
こうして、俺たちは二手に分かれて行動を開始したのだった。
「お母さん、誰か家の周りをうろついているみたいだよ?また泥棒さんかな?」
「………大丈夫よ、この前の泥棒に侵入されたから防犯面は大丈夫だからね」
「なぁ、南海、どこか進入口はあったか?」
「いや、ないっすね………こうなったら適当に葉っぱを放り投げてそれで終了でいいんじゃないんすか?」
「それじゃ駄目だろ?いいか、約束しちまったものは最後までするべきだからな」
「………変なところで律儀なんすね〜」
呆れたような仕草をしている南海は放っておくことにして、さて、こうなったら………
「よっと!」
「ああっ!不法侵入っすよ!」
「すぐに出るって!」
『侵入者確認!』
目の前にいきなり現れる赤外線つきの物体。
「なんじゃ、こりゃ?………って、のわぁああ!!」
いきなり右腕を振り落として俺を叩き潰そうとする。闇夜に阻まれてその姿を完璧に捉えることはできない。
俺はもといた道路に戻った。
「ありゃ、一体全体………」
「またくるっす!」
その場から離れると、ようやく月明かりに照らされてその姿が確認できるようになった。
それは、機械だった。無骨な人型をしていて、顔にはどらやきが大好きなロボットのお面がつけられていてそのアンバランスさが独特の雰囲気を作り出している。
「ありゃ、まぁ…………」
「………ここから離れれば攻撃を中止する………」
「輝君、どうします?」
南海は俺に指示を求めている。今日あったばかりだがどうやら、俺の言うことを優先してくれるようだ。ロボットはあんなことを言ってくれているが………
「勿論、約束を果たす!」
「そうっすよね?じゃ、私がおとりになるっすからその隙に手紙を置いてくるっす!じゃ、木の下で会うことにするっす!!ほら、こっちっすよ!ポンコツ!」
「………むかぁ………」
あっという間に姿を消してしまった南海。そして、その後に続く謎の機械………あれ?離れたら攻撃を停止するって言ってなかったっけ?
「まぁ、いいか………」
俺は立ち上がってこっそりと進入したのだった。
俺は何とか手紙を渡し終えて木のところへもどってきた。
「いや、二体目がいるとは思わなかった………」
二体目はコロッケ大好きな武者型?ロボットのお面だった………
「おかえりっす!」
『きちんと置いてきてくれたようだな……ありがとう』
「いやいや、いいって………さて、南海、帰るか?」
「そうっすね」
いいことをした後は非常に気持ちがいいことを俺は久しぶりに体感した。まぁ、たまにはこういうこともいいのかもしれないな………こうして、俺たちは帰ったのだった。
ちなみに、余談なのだが………
「ママ、あの泥棒さん何もとらなかったね?」
「そうね………野菜泥棒だったのかしら………あら?」
「どうしたの?」
「ここのプチトマト………全部つぶれてるわ………」
「プチトマトだけにプチッとまとまってつぶれてるね?」
「そうね、まぁ、しょうがないわね〜」
ということになってしまったそうだ。




