龍と書いてドラゴンと呼ぶ?:魚が釣れたらテイクアウト!
三、
「暇だな………」
休日二日目、俺は家でごろんとしていた。加奈と美琴さんは加奈の生活用品(下着など)を買いに出てしまい、泰助さんは仕事である………気のせいか、泰助さんが休みの日なんてないような気がする。
「ま、暇なら散歩でもするか」
俺は立ち上がって体を動かすと玄関へと向かって歩き出した。
暇なときは体を動かすのが一番なのだろう。あんまり体を動かすと色々と後で面倒なことになってしまうのだが………暇なものはしょうがない。
川を通る途中、俺は一人のおじいさんが釣竿を垂らしているのを見つけた。
「おや、輝君じゃないか?」
「こんにちは」
この人は俺の知り合いで、じいちゃんの友達で名前はサムさん。名前は外国人みたいだがれっきとした日本人らしい。見た目は七十ほどだと思うのだが、実年齢は教えてくれなかった。
「……今日はいつものようにさんぽかい?」
「ええ、まぁ………そんなもんですけど………サムさんは釣りですか?」
「ああ、そうだよ………ところで、えさが切れたんだ………悪いけど、わしが戻ってくる間ちょっと釣竿を見ていてくれないかね?さっき、とても大きな魚の影が見えたんだ」
「へぇ、そうなんですか?わかりました」
おかしいな、ここの川にはそんなに大きな魚はいないような気がするのだが………
とりあえず、俺はサムさんが戻ってくる間釣竿を見ておくことにした。
「じゃ、よろしくたのむぞぃ………お前さんが大きな魚をつったらお前さんにいいものをやろう」
「ええ、わかりました………」
小さくなっていくサムさんの後姿を眺めて、完全に消えたところで釣竿のほうに視線を向ける。
「あ、きたっ!これはラッキーだな!」
サムさんがいなくなってすぐに手ごたえを感じた。
「うぉぉぉ!?」
思い切り握っているのに俺を川に落とし込もうとしているのか………とりあえず、めちゃくちゃ大きい魚が引っかかったようだ。
「ぬぉぉぉぉぉおおおお!!!逃がしてなるものか!」
俺は持てる力すべてを発揮して、相手が緩んだ隙に一気に引っ張り上げる!
「………」
「ぎしゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
目の前に広がるものは真っ赤な口蓋だった。
「お〜い、輝!」
「………じ、じいちゃん!?生き返ったのか?」
「ほっほっほ!やられてしまったのか?」
「え?やられたって?」
「お前さん、死んどるぞ?今のお前さんの本体、モザイク決定画像ナンバー1じゃな………しっかしまぁ、あの程度の青尻娘にやられるとは………嘆かわしいぞ?最近、緩みすぎじゃないのか?」
「………やっぱ、そう思う?」
「うむ、ここから見ていたが最近のお前さん、駄目駄目………力は目覚めてきよったようじゃが、肝心な部分が甘すぎ!あの程度の龍にやられるなど言語道断じゃ!」
「で、でもさぁ………普通、魚釣りをしていて龍がつれるなんておもわねぇよ?」
「じゃ、お前さんは帰り道を普通に歩いていたらいきなり雷が落ちてきて龍がいないと否定できるか?」
「…………」
「もっぺん、いってこんかぁ!!」
「うぉぉぉぉぉ!!!こんなところで負けてたまるかぁぁぁぁぁぁ!!!」
半分飲まれかけていた体の力を総動員して相手の口から脱出!
「ぐるる!」
「ったく、こんなところで死んでられるかっての!」
再び相対する龍。しかし、今回の相手は深蒼色で、落ち着き払っている。その目に俺はどのように映っているのか………きっと、餌にしか思っていないのだろう。目がぐるんぐるんなっているところを見るとちょっと薬をやっているような印象を受ける。
「さぁて!今日こそ龍鍋だな!」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
とりあえず、俺は相手との距離をつめるとこめかみ辺りを狙って一撃を繰り出す。相手はそれを承知しているのか、すばやくそれを交わして長い体で俺を倒そうとしてくる。それを避け、上からのしかかって相手を殴って、橋から川に落とす。
「はぁ………はぁ………どうだ?」
どの程度の効果があったかよくわからないのだが………あのラリっている龍を倒すことが出来たのだろうか?
俺は気になって橋の上から下に落とした龍を探したのだが………
「う、嘘!?」
橋の下には一人の人間が顔を下にして浮かんでいた。
あわてて下に降りて濡れることも構わずに川に入ってその人物を助ける。
「だ、大丈夫か?」
「いや、正直マジで天国が見えたっす………」
その人物は目をぐるぐるまわしながらも死んではいなかった。よかった、人工呼吸とかしなくて………俺はその人をとりあえず家につれて帰ることにしたのだった。
深い蒼色のワンピースを着ているその人は女性のようだ。俺より、歳が一、二歳ほど上のように見える。髪は長めで濡れてしまっているので服にべっとりとついている。
「………いやぁ、しっかし……助けてくれた挙句に食べ物まで用意してくれるとは嬉しいっすね〜」
猫のような目をした人物はこの家が珍しいのか先ほどからきょろきょろとしている。
「………もしかしてとは思うが……あんた、龍か?」
「そうっすよ?それがどうかしたっすか?」
とても変わったしゃべり方をしていて俺の知り合いにもこんなしゃべり方をする人がいるのだが………聞きなれない。
「名前は?」
「名前っすか?ないっすよ?あんたが決めてくれると非常に嬉しいんすけど?」
ニコニコしながらそう言ってくるあいてに対して俺は………さて、どうしたものだろうか?加奈のときは適当に決めてしまったし、見た目外国人の娘に加奈というバリバリ日本人の名前をつけるのはどうかといまさらながら思う。目の前の人物も深い蒼色の髪の毛をしていて非常に悩む。ええい、こういうときこそいんすぴれ〜しょんを大切にするべきだ!直感で決める!
「………じゃ、南海でどうだ?」
「ん〜かまわないっすよ?あんた、結構いいネーミングセンスをしてるっすねぇ〜」
すまん、南海よ………水波が原語だ!
「じゃ、これからよろしくお願いするっす」
「え!?」
「え!?ってあんた、私に名前をつけたっていうのに見捨てるっすか?ううっ………白状ものっす!私の体の奥まで入ってきたくせに!」
「人聞きの悪い言い方をするな!お前が俺を消化しようとしていたんだろうがぁぁぁ!」
「あんまりっす!!うわ〜ん!」
泣き出した相手に俺は今度は慰めに入るしかなかった。
「あ〜ほらほら、泣くな!」
「嫌っす!泣くっす!ここにいていいよって言ってくれるまで嫌っす!」
「ちょっと待て、とりあえず、泣き止め………」
相手をなだめて立たせて俺は頭の中でどういうか考えてみた。
「いいか、俺は残念ながら居候のみだから俺の許可じゃなくて美琴さんの許可が要るんだ。とりあえず、聞いてみるからな?」
そこへ、加奈の
「ただいま!」という声が聞こえてきた。
「やばい!」
「え、何がっすか?」
「と、とりあえず隠れてくれ!」
「わわっ!そんなに押すと………」
「で、何をしていてこうなったわけ?」
俺の頭には大きなたんこぶが出来ており、近くには
「鋼鉄大根」と書かれていた大根の無残な姿(木っ端微塵)が確認できる。
「………いえ、その、南海さんを加奈から隠そうと思いまして、勢いあまって押し倒してしまっただけです」
ものすごく俺を睨みつけながら加奈は続ける。
「…………その人、あんたの友達?」
「違う………知り合い。しかも、お前のほうが友達なんじゃないか?」
「え?」
「その人、龍だ」
ぎょっとして加奈がニコニコしている南海のほうを見る。
「あ、あんた………龍なの?」
「そうっすよ?あれ?加奈ちゃんも龍何すか?妹さんなんでしょ?」
「違うぞ、南海。こいつはお前の友達であろう、龍だ」
そういって俺はきょとんとしている加奈に事情を詳しく説明した。
「…………そ、そんな………龍ってみんな、ぺ、ぺったんこだと思っていたのに………何、この差?これが格差社会って奴!?」
「子どもだからっす!これが大人と子どもの差っすよ!」
「お〜い、何を言っているんだ?」
絶望感に打ちひしがれているであろう加奈の顔を見るのは初めてなのだが………それはさておき、これからどうしたものだろうか?
「なぁ、加奈…………美琴さんはどうしたんだ?」
「格差………格差………」
駄目だな、これは………
「輝、呼んだか?」
何故か冷蔵庫から姿を現した美琴さんにぎょっとなったのだが………この人には常識というものが通用しないのだろう。
「すいません、また、龍をつれてきちゃいました」
「…………まったく持って進歩のないことこの上ないな………名前は?」
俺が答えようとすると南海が立ち上がる。
「名前は南海っす!これからよろしくっす!」
「ま、好きにするがいいさ」
あまり興味を持っていないのかそんなことを言って首をすくめる。
「さて、そんなことより夕飯の準備だ!輝、今日はぶり大根にしてくれ」
「うわぁ、それ、いいっすねぇ〜」
「格差………格差………」
飯も食べ終わってお風呂の時間となった。俺は大体五分ほどで風呂から上がるのだが、その前に走ってくることにしている。
玄関へと向かう途中、頭にタオルなどを乗っけてのほほーんと歩いている南海にであった。
「あれ?輝君ははいらないんすか?」
「まぁな………後ではいる。これからちょっと体を動かしてくるんだ」
「感心するっすねぇ〜………お供したほうがいいっすか?」
「いや、いい………それより、加奈の世話でもしてやってくれ」
「かしこまりましたっす…………っていいたいっすけど、加奈さん私と一緒にお風呂に入るのが嫌らしいっす!」
「そうか……」
きっと、格差がどうとかという奴だろう………まぁ、厳しい現実を見ないと人は成長しないからな………
「じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃいっす♪」
俺は玄関を出て裏山へと向かって歩き出したのだった。徐々にスピードを上げることにしている。しかし、今日は後ろから俺を引き止める存在があった。
「ちょ、ちょっと待って欲しいっす!!」
「南海か………どうした?」
「その、替えの下着を買うことになったっすからついていくっす!」
「そうかい、それなら勝手にしてくれ」
考えてみればそうだろう………今日はもうゆっくりしていたかったのだがまだまだ人波乱がありそうであると俺は思って南海と共に走り出した。
感じていた通り、俺は厄介ごとに巻き込まれることになった。




