龍と書いてドラゴンと呼ぶ?:他人の手は暖かい(冷え性の方の話)
二、
目の前で俺の妹を連れて父さんたちは去っていく。
「お父さん!お母さん!」
「ごめんな、輝・・・・すぐ、帰ってくるからな」
「いい子にしてるのよ?」
「いやだ!僕も一緒に行く!」
幼い俺はそれを追いかけようとしたのだが、無理だった。
その後、交通事故に巻き込まれてしまった俺の家族たちは無傷で生還したのだが、そのせいだろうか?俺はその後、預けられたじいちゃんの家にずっと住んでいる。そこでは毎晩毎晩、化け物が襲い掛かってくる夢を見ている。そう、今だって続いている………しかし、今日は誰かの手が俺の手を握ってくれている。ただ、ただそれだけのことで俺の苦しみは抑えられた。
「う、うう……………うぐっ!ん?」
「だ、大丈夫!?」
目を開けてみればそこには加奈の姿が見えた。ツインテールをおろしているのでぜんぜん見た目が違う。気がつけば俺の手は必死に加奈の手を掴んでいる。
「はぁ、すまん」
「大丈夫なの?てっきり襲ってくるかと思ったけど……あんたが襲われているみたいね?」
「眠れなかったろ?やっぱり、美琴さんに頼んで部屋を変えてもらおうか?」
やれやれ、このことを美琴さんに話すのは少々気が引けるのだが(もしかしたら夢で襲ってくるのは彼女かもしれないからだ)この家の客人となった加奈の安眠を妨げるのはよろしいとは思えない。
「う、ううん!別にいいわよ!あんたが襲われているところを見るとざまあみろって感じがするから!」
にやりと笑ってこっちを見てくる。彼女は元気を出して欲しいと俺に思っているのだろうか?それとも、俺を蹴落とそうとしているのだろうか?
俺の視線を感じたのだろうか?加奈は取り繕うように俺を見た。
「あ、あんたがどんな化け物に襲われても私が護ってあげるわ!」
「………加奈………そうか、ありがとよ………」
やれやれ、俺は何でこんながきんちょに護ってもらわねばならないのかね〜お仲間が一人もいないこの状況じゃ、加奈のほうが心配だろうに………
「ほら、お子様は早く寝ないと成長しないぞ」
「何よ!せっかく人が心配してあげてるのに!」
「………わかってる、けどまぁ、悪い………もう、起こすことなんてないと思うからな………心配しないで寝て結構だぞ」
「そう、そうならいいんだけど………」
「悪いな」
俺はそういって加奈に
「おやすみ」と告げると目を閉じたのだった。不思議と、その後はあの夢を見なかった。普段だったら二度寝しても同じ夢を見てしまう。しかし、今日は違っていた。
「なるほど、これなら悪夢も見ないか………」
俺の手にはしっかりと加奈の手が握られていた。俺は加奈の隣で寝ていたというわけだ。
「す〜………す〜………」
やれやれ、本当に俺は何をしているのだろうか?
「ほら、朝だぞ加奈!」
日光が顔に当たっているだろうに、まったく起きない加奈のほっぺたを引っ張って起こしてやろうとしたのだが…………
「ぎしゃ〜!!」
「ぐはっ!!」
俺の手に噛み付いてきやがった!?な、なんと言う奴だ!
「うまい〜」
「うまい!?そんなに俺の手はうまいのかっ!?」
「ほらほら、何を朝から騒いでいるんだい?」
美琴さんがやってきた。既に着替えて手にはフライパンが握られている。
「すいません、起きるのが遅くて………」
「………なんか、夜中騒いでいたけど加奈のせいか?」
どうやら、声を聞かれていたようである。
「い、いえ………」
「そうかい、いい加減、夜中になんで騒いでいるのか教えてもらいたいんだけど?」
「そ、その………後一回、チャンスをください……それで、次、叫んだ場合は正直に話します」
「そうかい、それなら仕方がない………ほら、さっさと加奈を起こしてつれてきな!」
美琴さんが去って言った後、俺は手に噛み付いている加奈をぶら下げたまま、ため息をついたのだった。
「さて、今日は休みだ………無論、それはお前たちが休みであって私は仕事だ。泰助は既に仕事に行っている………輝、今日は何をしないといけない?」
「ええっと、食事を作ったり家事をしたりですか?ああ、あとはいつものように修行ですね?」
「確かに、それもだが今日は加奈にこの町を案内してやれ」
「俺がですか!?」
「そう、お前だ!………もしかして嫌なのか?」
そういって怪訝な表情をしてくる美琴さんに俺は首を縦にせざる終えなかった。
「………わかりました。その前に………一ついいですか?」
「ああ、いいぞ」
「ここの地形は未だに入り組んでいるんで………俺、迷う可能性があるんですけど?」
「ああ、そういえば輝は方向音痴だったな」
「なるほど、だから渋ってたのね?」
二人から馬鹿にしたような表情をされるのだが、事実は隠していても事実だ。いまさら暴露するのは非常に恥ずかしいのだがしょうがない。
「迷わないように気をつけますよ」
「よしよし………いいか、加奈。絶対に輝の手を離すなよ?離したらお前は迷子だ。太って眼鏡かけた見た目が危なそうな連中はお前のような存在を欲している可能性が非常に高い」
「何でよ?」
俺に不思議そうに聞いているのだが、俺も不思議だ。これには首を傾げるしかない。
「まぁ、そういうのが世の決まりというものだ!じゃ、私は仕事があるからな!きちんと夕食の準備もしておくように!ああ、きちんとティッシュとハンカチを忘れるなよ!」
そういって美琴さんは姿を消してしまったのだった。
二人して町を散策している。周りからはきっと兄妹に見られていることに間違いないだろう。
「この町に住んでいるんでしょ?何で道を知らないのよ?」
「失敬な!きちんと学校への道とスーパーや商店街に行く道、そして、マラソンする道………ああ、これは山の中だった。とりあえず、少しぐらいなら知っているんだぞ?」
「それなら、その手に持っている地図を離しなさいよ?」
加奈は俺の言うことはあまり聞かないのだが美琴さんの言うことは聞くらしい。きちんと俺の手を掴んで離してはくれないのだ。
「嫌だ。これを離したら間違いなく、遭難する」
「ありえないわよ!」
睨み付けてくるのだが、何をされようが俺は絶対にこの手を離さない!そういえば、手で思い出したのだが朝のことをまだお礼をいっていなかったな。
休日でいつもより人通りが多い道を歩きながら俺は加奈に礼を述べることにした。まぁ、何かをしてもらった相手にはきちんとお礼をするように幼少の頃より叩き込まれている俺はお礼をしないと気持ちが悪くてしょうがない。たとえ、それが小さい人だったとしてもだ。
「加奈、そういえば………夢のこと、ありがとな………あの後、手を握ってくれたんだろ?」
「何言っているの?あ、あれはねぇ〜………あんたが勝手に私の手を握ってきただけよ?」
「そうなのか?」
「そ、そうよ!け、決して私から握ったわけじゃないからね!お、お礼なんかけ、結構だから!」
ま、まぁ………お礼はいえたからこれでいいかな?しかし、なんだか納得がいかないので俺はちょっとしたプレゼントをすることにした。
「ここ、どこ?」
「デザートの食べ放題。お前がどのくらい食べるかわからんし、好みがわからん。好きなだけ食べろ。ただし、絶対に残すなよ?」
追加料金を取られてしまうからななぁ………バイキングの意味を教えたところきちんと納得したのか、お皿を持って去っていった。俺は席に座ってコーヒーを飲むことにした。
バイキング終了時刻、俺は店員さんの
「二度と来ないでくれ!」という顔を後にしていそいそとその場を後にしたのだった。俺は店に迷惑を掛けてしまってモンブランを四つほどかって帰ることにした。
「………しっかしまぁ、予想以上に良く食うな?」
幸せそうな顔をしている加奈に俺は首をかしげる。先ほどの量がこの体のどこに消えてしまったのだろうか?
「むぅ〜あんたが好きなだけ食べていいって言ったじゃない!」
「いや、別に非難しているわけじゃなくて、どっちかというと褒めてるほうな」
「え、そうなの?ま、まぁ………私にかかればこんなものよ♪」
ものすごく単純明快なお子様思考である。まぁ、このくらいにしていいだろう………
「さ、そろそろ帰るぞ。家に帰って夕食の準備をせねばならん」
「そうなの?どこにももう寄らないの?」
「ん〜どうかな〜あと、今日寄るところは……………スーパーぐらいか?」
「夕食の材料買うの?今日の晩御飯は?」
本当に幸せな奴である。
「………さぁなぁ、何にしようか………」
ケーキを食べている間に考える予定だったのだが、加奈の食べっぷりを見ているとすべてのことが頭から外れてしまったのが誤算だったな。無駄な時間を過ごしてしまった。まぁ、幸せそうな顔をしていたから別にいいかもしれん。
「まだ決まってないなら私、ケーキがいいなぁ〜」
「却下………お前なぁ、ケーキは夕食じゃないぞ?あと、あの家じゃ洋風のものは禁止!」
「………じゃ、みたらし団子?」
「………そういう問題じゃなくて………今日の晩御飯!ザリガニ味噌汁は駄目だぞ?昨日不評だったからな?」
本当に困ったものである。少しの間創作料理はやめておこう。俺たちの寿命が短くなってしまう可能性が非常に高い。
「ん〜私は何でもいいや」
「それが一番困るんだよな〜」
考える側としてはどうでもいいという考えが一番困る。的確なアドバイスをしてもらわないと………
「しょうがない、今日は親子丼にするか…………」
困ったときは大体、親子丼となってしまう。卵は完全に分解されるには一週間ほど時間がかかると聞いたのだが………本当だろうか?
それはさておき、俺たち二人はスーパーへとやってきた。
「あら、輝君………妹さん?」
「ま、まぁ………そんなもんです」
「む!私はあんたの妹じゃないぞ!」
レジには知り合いのおばさんがいて俺たち二人を見て驚いている。それはそうだろう。普段だったら一人出来ているのに脇には俺より頭が一つ分ちんまい女の子がいるからだ。彼女かと聞かれなくて本当によかった。
「じゃ、彼女?」
「違います。ええっと、美琴さんの家で預かっている女の子です。俺の妹分ってところですかね」
「そうなの?けど、妹さんだと思うわぁ………どことなく、雰囲気が似てるもの!」
俺と加奈はお互いの顔を見て首を傾げるしかなかった。まったく、どこが似ているというのだろうか?
「美琴さんによろしくね?」
「ええ、わかりました」
帰り道、気がつけば夕日が沈みかけていた。なんだか、今日は精神的に疲れた。
「なんか疲れているみたいね?荷物、もってあげようか?」
「いや、いい………別に疲れてないから」
「何よ!せっかく人が親切で持ってあげようとしてあげたのに!」
「加奈に渡すと卵を割る恐れがあるからな………」
「割らないわよ!」
睨み付けてくるのだが、まぁ、所詮は子どもだ。別に怖くともなんともない。
「それより、手を離すなよ?離したら、明日になるまで俺が探さないといけないからな」
「………わかってるわよ」
加奈はそういって俺の手をしっかりと握ってきたのだった。




