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油断の対価

「さて、ここまで離れれば平気かな?」


 「フラグっぽいこと言うの止めてくれないか? エニグマ」


 「あの、フラグとは一体……」


 エリジアの町から北にある程度移動する。流石に一時間程度しか歩いていない為、当然まだ、エリジアの都市は見える。


 しかし、ある程度はエリジアの町は小さくなって見えるのでここからならそうそう追いつかれることもないだろう。そう思って、少々の無駄話に興じてしまう。


 「しかし、本当にどこ行きましょうか? 北の町っていい所あるんですか? 流石にここから先の地理は苦手で」


 「そうだね。少し遠周りになるけどここから北西の方が町がある。そこに行った方がいいと思う」


 「北西の町ってどのくらいの距離なんだろうな」


 一応、用心であり本当に追われていなかった事も理由の一つかもしれない。ある程度の早歩きでとうとうエリジアの町が見えなくなってくる。さて、俺たちは何時どこで仮眠を取るべきか……



 行き先について言い合ったり、考えたりしていくうちに夜も更に深くなってくる。本格的に離れたので仮眠について考えていた。


 「あまり再会を喜べないけど久しぶりだな」


 そんな時に彼は現れた。そう、ゼリウスさんその人である。そして彼の登場に当然エニグマは突っかかっていった。


 「へー襲わないって言ってたような気がするけどなぁ?」


 「事情が変わったのです。こちらの大命を果たし、犠牲を少なくするためにその忌まわしい剣をいただきます」


 「どの剣の事だい? 確証なく追剥するのは犠牲の内に入らないのかい?」


 当然、エニグマが挑発する。実際に調べられたら即アウトなので流石にブラフすら行えない。相手の善意に付けこむ言葉なのが何とも言えないのだが背に腹が変えられないのも事実である。


 「すまないが、手段を選んではいられないんだ。その剣はいただく、武器を構えろ」


 追い詰められているのか説明やら何やらが不足しているのに武器を構える時間はくれる辺り、根は本当に真面目なのだろう。


 そして、その様な人間が自分を曲げなくてはいけない事態に陥っているという事はつまり、何かトラブルでもあったのか?


 荷物を邪魔にならない所に置き、持ちうる情報から相手方の現状を考える。しかし、やはり答えは出ない。そして何よりそろそろゼリウスさんもいや、ゼリウスも待ってはくれ無さそうだ。



 「腰の剣は使わないなら外した方がいいと思うが?」


 「いやー俺、これを持っていた方が調子いいので持ったままでやらせていただきますよ」


 剣を外せばその隙に剣を持っていかれる可能性の方が高いし、何よりアルヴァの物言いではこの剣による身体能力の向上がある。迂闊に外すのも良くはない。だからと言って剣の位置をずらすのもこの剣には持っていた方が価値がありますと公言しているようなものだし、この程度の曖昧な回答の方がいいだろう。


 「そうか、ますますその剣に興味が出てきたよ!」


 「皆さん! ゼリウスさんが来ます。強化の魔術を!」



 ゼリウスの声とテレザの声をゴング代わりに戦いの幕が上がる。俺たちは無事勝利を収めることができるのだろうか。

  戦いの火蓋は切って落とされた。ゼリウスはテレザを狙ったほうが効率が良いのにも関わらず俺を狙ってくる。当初の予定である剣と戦わないという約束がかみ合った結果この様な行動に出ているのだろう。


  「それでもッ!」


  「なかなかやるな! だが、まだだ!!」


 剣の防御が追いつかない。テレザに身体能力向上魔法を、エニグマが光弾でゼリウスを狙いこちらの援護をしている三対一の状況下にも関わらず、こちらの不利は揺るがない。


  「このままじゃ! でも、他の魔法じゃレイさんに当たってしまう!!」


  「テレザ、こちらは小技で援護をしていくしかない。あいつ、接近戦重視でレイを盾にしながら戦っている」


 そう、こちらの後衛が大規模の魔法を繰り出さない様に間合いを調節しながら俺を盾にしながら戦っている。


 これにより同格だが接近戦の劣るエニグマはゼリウスに決定打を与えることができないし、テレザも当然、俺が邪魔になって攻撃魔法放つことができない。


  「卑怯と罵ってもらっても構わないが?」


  「それで戦局が変わるのならそうしたいんですがねッ!」


 ただジリ貧とは言え闘えているのは、テレザやエニグマを攻撃しないが故に俺への援護に皆が集中できているからだ。そうでなくては一合剣を交えただけでも俺は切り伏せられているだろう。


 はっきり言って仲間からの特にエニグマの光弾によるあちらの剣劇の妨害が無ければ二の太刀ですでに切られている程度には身体能力に差がありすぎる。こちらから攻撃したら絶対死ぬな。


 相手の隙があって初めて二の太刀が防げる。それほどの戦力差が俺たちの前にあった。


  「中々強くなってるじゃないか修行でもしてたかな?」


  「弱いままでは誰も守れませんからね。国も、家族も、尊敬する人も!」  

  「やっぱりそうなんだね」


  「はぁ!」


  会話の最中、確かに注意が逸れたそれを逃さずに剣を縦に振るう最速の剣であり、良いタイミングだったと客観的に見てもそう思う。ただ、


  「隙だとでも思ったのか?」


 当然気づく、遅い! そう思っていた。しかし、想定よりも早く腕が振りあがり剣が目の前にあった。絶望的な能力と技術の差が、それを隙にさせてくれなかったのだ。


 油断していたし、防御も遅れていた。こちらに返しの太刀を浴びせられなかった事もその証拠。


 だが、油断すらもどこ吹く風だと言わんがばかりに遅れて防御が間に合ってしまう。高位魔族、種族の差、経験値の差がどうしても埋まらない。


  「さて、そろそろ茶番は御仕舞にしよう」


 テレザは補助に手一杯、エニグマも必死にこちらの援護をしてくれている。それでも、こちらはこの状況をひっくり返せない。


 なのに、この状況をひっくり返す手段があると相手は言っているのだ。俺たちはどうしようもない袋小路に追い詰められているのかもしれない。


  「お前たちにお見せしよう。ナナセ殿下より賜った必殺の剣を!」


 相手の動きが止まった、今なら逃げられる。頭ではそう思っていても本能がそれを否定する。他のみんなもそう思っているらしく、テレザは自身が持つ最大級の防護呪文をそしてエニグマが何らかの呪文を唱えている。


 ただ、一つだけ言わせてもらいたい。俺はそんなもの習ってねぇえ!! だが、そんなこと言ってる場合ではない。


 どうする特攻するか? 別にゼリウスは何らかの事情があって止まっているだけであり隙はない。特攻すればむしろ俺が隙を作る羽目になり、切られる事だろう。飛んで火にいる夏の虫どころの話ではない。



 逃げるのも論外。速さに関しても相手の方が上であり、背中を見せる羽目になる。エニグマの転移も短距離で準備も長時間かかるのでこれも隙以外の何物でもない。


 ではどうする。あれに対してどうすればいい? エニグマをテレザを確認する。決まっているか……仲間を信じてこちらも反撃の準備をすればいいのだ。


  「覚悟を決めたようだな!」


 そうゼリウスさんが言ってくる。もしかして?


  「まさか、待っててくれでもしたか?」


  「ナナセ様の剣は卑俗の剣ではないからな。こちらから破ってしまった約束だ。互いに賭ける物があるのなら正面から打ち砕く! お前もその気概を見せてみろ!!」


 好き勝手な事を言ってくれる。だが、そこまで言われて燃えないのも男ではないか!


   「行くぞ!!」「来い!!」


 そういってゼリウスは地面に剣を突き立てる。技の準備であるだろう。ならばこちらは距離を取る事で回避行動の後にゼリウスに攻撃を当てやすい間合いを測る。身体にかかる防護魔法、と何らかの補助魔法、テレザとエニグマの援護を受けてこれならば勝てる! そう思いながら反撃の機会をうかがう。


 しかし、


  それは、


    途方もなく、


         都合のいい考え方だった事を、


                       次の一撃で思い知らされる。


          「六導流奥伝・蒼龍撃!」


 要は地面を鞘に見立てた居合の一種であり、確かに一発勝負で見せるのに適した技だった。剣を地面に突き刺すことで、剣先を死角になりがちな足先に隠し相手に実際の間合いを誤認させる。


 腕力に優れた物ならば地面にさすことで生じる隙などもないし、先ほどの攻防からも攻撃速度も申し分ない。故に一撃勝負にはこれほど適した物もあるまい。問題はリーチであり、地面に突き刺す関係上当然動けない為リーチは極端に短くなる。


 故に、ある程度の距離を事前に作っていた俺には届かないはずだった。


 だがそんな淡い希望は、抉られた地面のつぶてと共に消え去った。


  「ぐぁっ! ここまで……届く、なんて」


  「レイさん!」「レイ!!」


 地面が抉られた時に飛んできたつぶてにより俺の身体が穴だらけになる。が、それよりも重要なのは飛んできた斬撃の方である。


 骨は無事であるからもしかしたら動かせる可能性がある。



 そう、骨が無事であることが、目視で確認できる 



 胸から肩の方が抉られて骨が今にも見える。


  「龍の爪は大地をえぐり蒼き空へと帰る。しかし、見事だ! この一撃を受けて生きていた奴は存在しない」


 目の前の称賛の声や仲間が俺を気遣う声すら今の俺には遠い。正真正銘のピンチって奴なのかもしれないな。

フラグは回収するもの



逃げることも可能だけど高確率で後ろからズバンっとやられます



技について補足


正しくはこれ、剣を地面にさして剣先の距離を誤解させ、地面をえぐった時のつぶてで相手の視界を防ぎつつ下から攻撃するって言う意外と卑怯な技だったりする。


 ナナセ卑怯な技使わないもんとかシンパが勝手に思ってるだけで本人は基本的に決闘以外ではというか戦場では卑道も常道だと思ってます。彼自身あんま使わなかったけど


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