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これもまた絆

  「取り敢えず、明日に準備を整えて出発した方がいいよね」


  「不安が結構残るけど、最早一刻の猶予も無いか……」


  「うーん改めて、ユミさんとエニグマさんが進路決める際の中心になりますよねー」


 まぁ、そこそこ制限はあるみたいだけど、それでも便利とか言う次元は超えてるからね天眼。こちとら戦闘と料理作りとモノづくりなら負ける気がしないけど事、状況を見る事にかけては彼女の右に出るモノはいないだろう。


  「じゃー今から行くか?」


 日が下がり始めたと言っても、所詮まだ午後三時くらいだろう。十分余裕がある。


  「いや、その手の買い物はもう済ませたから自由にしてていいよ」


  「んじゃ、寝る」


  「まぁそれじゃあ休むか」


 エニグマの周到さと気遣いに心打たれた俺達は、大人しく休憩する事を心に誓った。


  「ゥエッ! いや、お二人にとってせっかくの異世界なんですし、観光してきては?」


  そう言うのは引き籠りなのに旅行好きのテレザ。だけどなぁ。


  「私昨日行きたいところは行った。最短最速で目的地に着けるんだよ。そう、天眼があればね」


 本当に便利だよな


  「っレ、レイさんは」


  「特に観光とかあまり好きじゃないんだ」


 動くのだるいし、非常事態に備えられんし。


 何だかんだで常駐戦場の様なもので無暗に動き回る気にはなれない。どうもかったるい。


  テレザはわたわたしながら、寝てるテレザを揺すったり、茶を飲んでいる俺を真後ろに移動して観光を勧めてくる。怖いよ。


  「せっかくの異世界を楽しんで来たら?」


  エニグマがテレザを押し付けようと、思い出したかのように俺(明確には達なのだが玖珂はもう寝た)にチキュウとは違う場所だし楽しめよと言ってくる。多分、結構振り回されたんだろうなテレザに。


  「よし、エニグマお前も一緒に」


  「断る。というか明日の準備がある」


 一刀☆両断


  「なら俺も手つだ」


  「断る。二人でやるとごちゃごちゃになる」


 てめぇ、かつては三人で整理しただろうが。


  「もう一度、行きましょう! 見足りない店があるんです!!」


 やたら興奮冷めやらないのか、ぐいぐい来るテレザ。本当元々、外を見る目的でついて来たこともあってこういう時の押しは強いな。


        食べ物買ってあげますから


             断る


 行こう行こうと、せがむテレザの姿と、珍しくスゲー顔で嫌がる玖珂に家族の陰を見る。戦闘ばかりで忘れかけていた何気ない年相応の姿を見る。


 後、玖珂の姿に三十路無職の姉の姿がダブる。奴も身内が言うのもアレだが見た目だけは喰っちゃ寝しかしてないくせにいいから特にダブる。


     黎、食卓から私のゴハン持ってきて、私は寝る


     今、起きて今寝るのか? もう二時なんだが……


 ……悪夢を思い出した。


このメンツで旅をするのも最後かも知んないしなー


  「エニグマ、後ででいいから、」


  「へ、分かってるよ。そこまで野暮でもない。君の魔力波長から合流する」


 流石に付き合いも長くなってきたのかそこは以心伝心だった。


 後は、玖珂かな。


 毛布に包まり見ざる聞かざる。その状態はまるで毛布の色がヒノキ色なのも含めてまるでこんがり焼けた春巻の様である。


  「ぶっちゃけ、特には行きたいと来ないんだよね。ここ」


 言わざるには成れなかったようだな。


 テレザが後ろにいるのをわかっていながらバッサリ切り捨てる。正直、ここにゲームか漫画があったらソレ見てそうな、その格好に自身の、そして身内の負の遺産を重ねそうになる。


 叩き起こして連れて行こう。自分の為にも。


 とは思ったんだがなぁ。


  「ウゴゴゴ……我が眠り妨げしものに裁きが降るだろう」


  「何、素っ頓狂な狸寝入りこいてやがる」


  「おわぁ、おわぁ私はもう眠いのです」


  「ウソですよね」


  さっきからこの調子でどうにも会話が成り立たん。


 というかこの調子ならいっそもう起きろよ。そうはいってもきっと起きないんだろうなぁというほど寝姿が徹底している。その姿は分かりやすく言うと


  「メンズヘルスクリニック!」


  「喧嘩を売ったのは、俺だな!」


  「手ぇ! レイさん!」


 天井ソラが焦げ付くほどの雷撃を手に集中させる。


 万霊よ! 我が威吹に応えるがいい。万古普遍の命のあり方、ここに集いて形を成さん。四方より出でて中央に座主、番いの獣。五獣の中の王たるものよ土に在りながら木たるそのあり方で


自身の生命力(オーラ)と自然の魔力(マナ)を混ぜプラズマフォトンへ変換する。それは有角にして番の獣の器となって彼の地からこの地に命を降ろす。


 赤くバチバチと雷が鳴る。事象を生命の核として構築し、仮想の肉体を成す。


 次元さえも歪めて貫くその雷を前に、周囲が焦って止めだす。


  「すとーっぷ! いや本当に止めてください」


 何故か、頭がかっと飛んでついつい新技を発揮しそうになった。反省。


 だがそんな俺に玖珂は何故か急に態度を変える。


  「……神触率五六、外意拒絶思想の仮構築済みと守護再構成人格の形成は不完全……汝等こゝに至るもの一切の望みを棄てよ。神の御業を人が修めるとはそういう事なのだ……か」


 その目は冷たく、そして憐れむような目。そして自嘲と、ほんの少しのでも切実な深い愛。何故先ほどまで殺されかけてたと言うのにそんな目で俺の事を見るのだろう。


  ワカラナイ


 まるでそれは、それをわかる何かが自分の魂から壊死して消え果てしまったかのような感覚さえある。まるで何かに都合のいい生命体に造り替え、すげ替えられているような感覚。 


  「玖珂、何だそれは?」


 ふぅ、とまるで優しくナニカをかき消すようにため息をつく。


 そして、もぞもぞと蒲団からでだすのだが、先ほどまでとは違う風情を身に纏っていた。


  「ユミさんが立った!」


 テレザはなんというか興奮しすぎて、微妙に玖珂の心の機微に気づいてないみたいである。どうも好きな物に付随する何がしかには足元がお留守になるみたいだ。


  「うん、期でも変わったのかい?」


  「変わってなんかないよ。朝も元々、そのつもりもあって残ってたんだし」


 微妙に空気が重い? 険悪という訳ではない、ないが……なんというかシーソの中心に立っている気分だ。行動を間違えればどちらにでも染まる辺りが特に。ワクワクして気が付いていないテレザを除いてとてつもなく、重い……


  「いや、嘘つけよ。怠けるつもりもあっただろう」


 ハズだったのだが、全てが全て言葉通りの意味でも無かったので、ついつい重い空気をこじ開けて突っ込んでしまった。話の内容はいまいち分からんが、雰囲気的に何やらシリアスな理由のみで朝からずーっとこの部屋に残っていた事になっている。他は分からんが絶対にそれは違う。


  「フッァ、確かにね」


  「ふぇへ、さて、それはどうーだろうーねー」


 思わず空気が、漏れ出す。張りつめていた故か、二人の口から詰まっていた物が溢れだすのも早かった。


 まるで口を小さく開けたゴム風船のようにどうやらシリアスもふにゃふにゃにほどけて言ったようで、和やかにこそなってないが、なぁなぁで何とかなりそうだ。


  「まぁ、気は変わったので一緒に行くさ? エニグマは後で合流だっけ」


  「そうだね。きっと例の場所で落ち合うと思う。君ががむしゃらに外に行きたくないって言ってた理由の一部にね?」


 折角の明るい空気もなんのその、エニグマの言葉に玖珂は、珍しく顔色を睨めつけながらも悪くした。


  「なんだかなーレイ君、テレザ先に行ってるよー」


  「早いですよーぉお?! え、その姿で行くんですか?」


  「一応外、歩いても可笑しくない姿だからだいじょぶ」


  「浴衣と下駄だと寒くありませんか?」


 とは言っても喧嘩をするつもりも無くなったのか後ろ手をひらひら振りながら小さなバック(いつの間に買った?)を担いで扉の方へすたすた歩く。浴衣を纏うその姿は寒空の下ではさぞ寒いだろうに気にせず、関せず、進んでいく。


  「パジャマからの早着替えで何故、浴衣を選んだのかは知らないけど、俺らもさっさと行かないと置いてかれるっぽいな行くぞテレザ、用意はできたか!」


  「うわ! いつの間にか黒い皮の服に着替えてさっさと行かないでください!」


  「元になった服レーサースーツだっけ? あんななりで暖かいんだよなぁ 元は寒いらしいくせに」


 そんな俺達のくだらなくも素晴らしい茶番を前に、エニグマは、呆れた声で荷物を整理しながらバタバタと過ぎ去る俺達を見守っていたのだろうなぁ


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