第一話 嘘の告白
僕の名前は結城優樹という。だじゃれのような名前だ。
これは幼いときにシングルマザーだった母親が再婚したためだ。
元の名前は高山優樹といった。ただ高山だったときの記憶それほどない。
僕にはトラウマのような事件がある。
それは中学の卒業を一月後にひかえた二月のある日のことだ。
僕は伊達小春から第一校舎裏の中庭に来るように言われた。
移動教室からのすれ違いにである。
一瞬のことだったので思わず聞き返してしまう。
「放課後、中庭で待ってるから。結城君、必ずきてね」
それだけ言うと伊達小春は自席に戻る。
僕はそんな彼女の端正な横顔を見送ることしかできなかった。
10年前の僕は冴えないオタク少年だった。それは10年たった今もそれほど変わらない。変わったところといえば体重が少し減り、背が少し高くなったぐらいだ。
そんな僕がクラス一の美少女といわれる伊達小春から呼び出されるといはいかなる理由だろうか。
伊達小春は自他ともに認める美少女だ。
その絹のような黒髪は背中の真ん中あたりまで伸ばされている。秀麗な顔立ちに眉のあたりで切り揃えられた前髪が特徴的であった。
人形のような美貌で、背は低めだが15歳ながら胸は大きく膨らみ男子たちの視線を集中させていた。
そんなクラス一の美少女である伊達小春がこんな地味オタクの僕に何のようだろうか?
僕は疑問を頭の中でぐるぐるさせながら、放課後に校舎裏に向かった。
第一校舎の中庭には飲み物の自販機やベンチなんかもあり、校内のリア充たちのたまり場になっていた。
すなわち僕には縁遠いスポットである。
緊張しながら約束の場所に向かうと伊達小春はベンチに浅く腰掛けていた。
僕と目が合うとにこりと微笑む。
一瞬で僕の心臓は早鐘を打つ。
女子に免疫がない僕はその笑顔を見ただけで、達してしまいそうになる。
まあ、それは10年たった今もそれほど変わらないが。
僕が近づくと伊達小春は隣に座るようにうながす。
僕はごくりと生つばを飲み込み、隣りに座る。
伊達小春からは花のような良い香りがした。それはシャンプーなのか柔軟剤なのか。
とりあえずとても良い匂いだった。
「どうしたの? そんなににやけて」
くすくすと伊達小春は微笑む。
動作の一つ一つが絵になるし、可愛らしい。
「は、はなしって」
僕はかみかみになりながら、言葉を発する。
姉の優美以外の女子と話すのは何ヶ月ぶりか。
「結城君って前にレディマーズの話をクラスでしてたわね」
伊達小春の小さい口からかなりマニアックなアニメのタイトルが語られた。
レディマーズは火星の王女様が地球の平凡な少年と同居するというラブコメアニメだ。
直ぐに服を脱ぐマーズ王女に主人公が慌てふためくというドタバタラブコメだ。
「えっとまあ、してたかも」
クラスのオタク友達とレディマーズの話題で会話をしたような記憶がうっすらある。
日常のひことま過ぎてあまり記憶にない。
「実は私もあのアニメみてるのよね。マーズ王女って元気が良くて好きなのよね」
伊達小春はレディマーズについて語る。
伊達小春とはクラスは一緒だったけど話をするのは、ほぼ初めてであった。
でも話してみると意外と話しやすくて親しみやすい。それに話題も僕とかぶることが多くて、会話が面白い。
まさかクラス一の美少女がこんなにもオタク趣味を持っているとは思ってもみなかった。
僕と伊達小春は時間を忘れてアニメやゲーム、コミックの話をした。
夢のように楽しい時間であったのは間違いない。
そして伊達小春は急に姿勢を正した。
ううんっと咳払いする。
「そ、それで結城君。卒業する前に言いたいことがあるの。聞いてくれないかしら」
大きな瞳を潤ませて、伊達小春は僕の目を見る。
その瞳は吸い込まれそうなほど綺麗だった。
「結城君好きです……」
それはあまりにもストレートな告白だった。
あまりにもストレートすぎて僕の脳は処理しきれない。
目がまわる気分になる。
あのクラス一の美少女が僕のことが好きだって。
僕は伊達小春の端正な顔を見る。
白い顔を真っ赤にいている。
もしかして僕なんかに照れているのか。
こんな美少女に告白されてことわれる男子がいるだろうか?
いやいない。
「は、はい。付き合いましょう」
僕は気持ち悪いぐらいにどもりながら、伊達小春の告白を受けた。
「残念、嘘告でした!!」
ぎゃははっと笑う女子たちの声がする。
振り向くと三人の女子たちがいた。
ツリ目が石田弥生で背の高いのが小西マリア、スカートの下にジャージをはいてるのが前田沙織だったか。
伊達小春といつもつるんでいる女子のグループだ。
突然あらわれたスクールカーストのトップたちに僕は驚愕する。
小西マリアが僕にスマートフォンをむけていた。
「小春っちがあんたみたいなキモオタに告るわけないじゃん」
なおもぎゃははっと笑い前田沙織は僕に告げる。
えっあの告白は嘘だったの。
伊達小春を見ると彼女はおおきな瞳を下に向けて黙っていた。
僕とのオタクトークも油断させるための嘘だったのか。
僕の浮かれる様を見るためにこんなことをしたのか。
僕は怒りと悔しさで頭に血が登るのを覚えた。
「なにキモ結城、アーシらに文句でもあるの?」
石田弥生の視線は完全に僕を馬鹿にするものだった。
「文句あるなら彼氏呼んでこようか」
石田弥生の彼氏は高校生でヤンキーだという噂だ。
僕のようなオタク中学生がかなうはすがない。
僕のことを小西マリアは面白そうにスマートフォンで録画している。
きっと後で僕の姿をみて笑うつもりだ。
その中の一人が伊達小春だ。
伊達小春も僕を馬鹿にして、笑うつもりでこんなことをしたのか。
好きになりかけた僕が馬鹿らしい。
「文句なんてない……」
僕はそれだけを言い、中庭から離れる。
さり際に伊達小春を見ると彼女はうつむいたまま、地面を見ていた。
何故かその瞳は潤んでいるようにみえた。
いや、きっと気の所為だ。
こいつは石田たちと一緒だ。
僕を笑い者にするためにこんな手のこんだことをしたのだ。
僕の存在などスクールカーストトップの彼女らにとってはただの暇つぶしだったのだ。
僕は悔しさに頭がくらくらするのを覚えながら、学校を出た。




