近くにいてよ
深夜2時。酒臭いキャバ嬢が家路に向かって急いで歩いていた。辺りは暗闇、オレンジ色の街灯が所々にあるのみで足元や辺りは暗かった。
キャバ嬢は後ろから誰かが付けている気配を感じていたが振り返らなかった。かつてお客に執拗に付けられたりストーカーまがいの行動をされて困った経験があったのだ。後ろを振り返る事で相手に意識させてしまうのが1番良くない。好意と勘違いするからだ。
キャバ嬢の星川まなみは22歳になったばかりだ。こんな所で事件になりたくないという一心で早足で歩いた。常日頃、防犯グッズのクマよけスプレーをハンドバックに入れて持ち歩いていたのだが、この日に限って玄関の靴入れの上に置き忘れてしまったのだった。悔やむというのは、まさに、この事だった。
星川まなみは軽くパニック状態になってしまったのか、帰り道を間違えって路地裏の方へ足を運んでしまった。さすがにマズイと思い走る事にしたのだが、ビール2本、ウィスキー5杯、ウォッカ5杯を飲んでいたので酔いが一気に回ってしまった。
後ろから聞こえる足音も速くなった。
星川まなみは焦った。動悸が止まらなくなり、呼吸も荒くなっていた。この先を左に曲って100メートルほど先に行けば住まいのマンションがあった。まなみは足を速めた。
「お嬢さん、へへへ。すみません、お嬢さん」と星川まなみは肩を強く掴まれて耳元で荒い呼吸音と共に、くぐもった声がした。
星川まなみは恐怖のあまり振り返って相手の顔を見ることができなかった。
『神様、助けて。怖い』と星川まなみは心の中で強く叫んだ。
「お嬢さん、オラはね、女に飢えているんだ。5万円あげるからヤラせてくれないかな?」と男は興奮しながら言った。
星川まなみはパニック状態になっていて身動きできずにいた。
「死にたくないでしょう? だったら言う事を聞いた方が身のためだよ。オラの家は逆方向にあるから一緒に来い」と男はドスのある声で言うと星川まなみの胸をまさぐった。
星川まなみは恐怖で体が強張っていた。命の危険を感じて体が小刻みに震えてきた。
男は星川まなみのお尻を執拗に触り始めた。星川まなみは体を拗らせて避けようとした。
その時、小さく口笛がした。
星川まなみと変質者の男は黙って立ち止まった。
「おい、そこのチンカス野郎。64歳くらいの変態男め。今からお前を去勢してから逮捕する。覚悟はできちゃってますか?」と明るい声がした。
「だ、だ、貴様、誰だよ!?」と変態男は言うと星川まなみを強く押し退けた。星川まなみは勢いよく電柱に頭を強打して気絶してしまった。
「貴様、なんて事をするんだよ! 去勢開始!!」と闇の中から走ってくる人影があった。
変質者の男は身構えた。どうやら格闘技、腕に覚えのある男のようだ。
闇から浮かび上がった男は笑顔だった。笑いながら走ってきたのだった。
「必殺、近くにいて四!!」と闇から現れた正義の男が叫ぶと変質者の首をヘッドロックして走り出した。
「臭い!!!!」と変質者は怒鳴った。
「一体、何が臭いんだい?」と正義の男は笑いながら変質者をヘッドロックしたまま爆走して尋ねた。
「あんたの脇が臭い!!!!」と変質者は息も絶え絶えで涙ながらに訴えた。
「貴様、俺が1番不快にしている事を言ったな! 俺はなワキガだ!! 通称、ワキガ刑事だ!! 来週、一気に警部に昇進するワキガ刑事だ!! 本名は早乙女華恋だ!! 女みたいな名前だろう? 死んだ婆ちゃんが名付け親だよ!! いや、死んだ爺ちゃんだったかな?」と早乙女華恋刑事は一気に捲し立てた。
だが、変質者はあまりの臭さに意識を失っていた。
まさに恐るべしとは、この事だ。早乙女華恋刑事の必殺技『近くにいて四』。
「おい、新入りの大和愛人よ、聞こえるか?」と早乙女華恋刑事は無線で話した。
パトカーが後方からやって来た。
だか、パトカーの運転席にいる男は全裸だった。
つづく




