新たな仲間たちと、多種族が交わる街『パレス』
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そう、僕らは竜神様に定期的にお神酒を捧げる約束をしている。
手元にはちょうど、大量の米モドキとティーナのおじいさんが残してくれた麹のレシピがある。あれを作らない手はない。
順調に発酵が進めば、生酒なら一ヶ月後には完成するはずだ。
僕はインフラ整備を終えて手が空いた二つの村に、新たな任務を割り振った。
一つの村には日本酒造りを、もう一つの村には、まだ誰も住んでいない空き家の修繕と改修作業を依頼した。
竜神様が方々に散った他種族へ声を掛けてくださっている以上、遠からず彼らがこの里へやって来るはずだ。
新たな住人たちを迎え入れるための家を、今のうちに整えておく必要があった。
春が過ぎ去り、初夏の気配が風に混じり始めた頃、ついに彼らはやって来た。
もともとリプトンさんたちの村があった場所からライオネ山脈を越えるには、あの地下の抜け道を使わなければ、迂回ルートを全力で進んでもゆうに二ヶ月はかかる。
彼らもまた、過酷な道を歩んできたのだろう。
彼らは方々の辺境に身を潜めていた。
ある者は迷いの森に似た危険な森に、ある者は比較的安全な山脈の麓に、またある者は日の当たらない地下水脈を根城にして、細々と命を繋いでいたという。
「パレスに続々と入って来ますねぇ!」
ポチが楽しそうに声を上げる。
彼の言う通り、多種多様な種族が途切れることなくこの地へ足を踏み入れていた。
僕は、眼下に広がる巨大な街を見渡した。
竜人族。
エルフ。
ドワーフ。
リザードマン。
樹人族。
追われ、奪われ、居場所を失った者たちが、
今、この場所へ集まり始めている。
ならば――もう“村”では足りない。
「今日から、この街の名は――『パレス』だ」
誰かのための国ではない。
ここは、
帰る場所を失った者たち全員の居場所だ。
長旅で疲弊した彼らを労うため、街の至る所で温かい炊き出しを行い、僕の指示で急造した大衆浴場を開放した。まずは温かい食事で腹を満たし、湯に浸かって長年の汚れと疲れを洗い流してもらう。
そして、それぞれに家を割り当てる前に広場へと集まってもらい、僕からこの街におけるたった一つの絶対的なルールを伝えた。
「この街のルールは一つ、『働かざる者食うべからず』だ!」
むろん、病人や乳飲み子、まともに動けない老人たちは例外である。
「ただし、無理強いはしない。自分にできることを見つけ、自分に合った仕事をしてくれればいい。最初は基本的な作業をローテーションで体験してもらい、その中で適性を見つけてほしい。もし『自分はこれが得意だ』という技術があるなら、事前に申し出てくれ。それを最優先で任せよう!」
そう宣言し、彼らをそれぞれの家へと案内した。
一晩ゆっくりと考え、翌日に自ら申告してもらう。結論が出ない者は、予定通りローテーションに組み込み、働きながら自分に合った居場所を探してもらう手はずだ。
結果として、適材適所はすぐに見つかった。
エルフは手先が器用で布づくりが上手い。
ドワーフは逆に鍛冶仕事しかできない。
リザードマンは泳ぎが達者なため、海での塩づくりと漁業に。
樹人族は森の恵みを採取するのが楽しいらしく、嬉々として森へ入っていった。
樹人族には『紙』を作れるという素晴らしい特技があった。
「紙、紙、紙、エヘヘへへ、身を削って作る紙はたまらないなぁ」
削るのはいいけど、ほどほどに…。
エルフも耳が少し尖っていて髪と瞳が緑色であること以外は区別がつかない。
エルフと聞けば、もっとこう……華奢で神秘的な種族を想像していた。
「兄ちゃん! その布こっち持ってきな!」
だが実際にいたのは、
腕まくりした恰幅の良いエルフのおばちゃんだった。
偏見って怖い…。
意外だったのは、これほど多種多様な種族が集まっているのに、見た目にはそれほど大きな違いがないことだった。
竜人族は成人前に尻尾があることと紫の瞳を除けば、人族となんら変わりない。
ただ、ドワーフだけは……うん、見事なまでにテンプレ通りの『ドワーフ』だった。ずんぐりむっくりとした体型で、ガハハと豪快に笑いながら嬉しそうに酒を煽っている。
リザードマンも、手足に水かきがあり、水色の髪に青い瞳をしている以外は人間の姿そのものだ。樹人族も、土色の髪と瞳を持つ穏やかな人々だった。
そしてもう一種族、『コボルト(ゴブリン)』もやって来ていた。
地球のファンタジー作品で有名なあの小鬼だが、性欲旺盛で凶暴な魔物などでは決してなかった。
話しかけてみると驚くほどフレンドリーで、気難しいところなど微塵もない。
彼らは特に財政管理や事務処理に天賦の才を持っており、城の執務室に入ってもらったのだが……これが間違いの始まりだった。
彼らは小柄な体に黒髪のオールバック、漆黒の瞳を持つ、まだ二十歳過ぎの若者たちだったが、その労働意欲は異常だった。
『ここが我らの生きる道! 残業? なにそれ美味しいの?』と言わんばかりに、食事が運ばれてくれば書類の山の上で数時間眠るだけ。
見事なまでに自発的な超絶ブラック企業の誕生である。
何度「休んでくれ」と頼んでも、立派な家を与えても、業務改善を提案しても、あまつさえ「お嫁さんを探そうか」と気を引いても、彼らは絶対に執務室から引こうとしなかった。
結果、パレスの城は完全にワーカホリックなコボルトたちの巣窟と化してしまった。
だがその代償(?)として、パレスの治世は劇的に向上した。
住民の正確な把握、適材適所への無駄のない人員配置、物資の流通管理など、すべてがコボルトたちの驚異的な事務処理能力のおかげで円滑に回っている。
深夜。
城の執務室から、なぜか陽気な音楽が聞こえてきた。
恐る恐る覗いた僕は、絶句した。
黒髪オールバックのコボルトたちが、
ブレイクダンスしながら書類を捌いていたのである。
「処理完了ォォォ!!」
「次の帳簿持ってこぉぉい!!」
なんだこのブラック企業。
頼むから、一度でいいから家に帰ってゆっくり寝てくれ……!
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