久しぶりの陽光と、ポチの決意
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険峻なライオネ山脈――その迷宮を、僕たちはついに抜けた。
道に迷う余裕なんて、なかった。
ただ前へ。生き延びるために、最短を選び続けた。
そして――出口。
「……ひかりだ。久しぶりの、日の光だ……!」
誰かが震える声で叫んだ。
地下での避難生活は、過酷の一言に尽きた。
半月もの間、一度も太陽を拝めなかった者さえいる。
特に辛かったのは「火」が使えないことだ。
煙がこもる地下道では、暖を取ることも、温かい食事を作ることも許されない。
凍える体で互いに身を寄せ合い、冷え切った保存食をかじるだけの日々。
だからこそ、目の前に広がる眩いばかりの陽光と、肌をなでる温かな風は、何よりの救いだった。
「みんな、よく頑張ったね。まずは温かい食事にしよう!」
僕の一言で、竜人たちは一斉に動き出した。
やがて、あちこちに火が灯る。
鍋から立ち上る湯気が、空気を満たしていく。
――ああ、やっと“人の暮らし”だ。
温かい汁物を口にし、ようやく生きた心地を取り戻した一同に、安堵の表情が広がる。
空が穏やかな黄金色に染まり始めた頃、僕は決断を下した。
「今日はここで一泊する。交代で見張りを立てて、明日の早朝に出発だ」
山脈を抜けたとはいえ、ここはまだ魔物の勢力圏。
一刻も早く先を急ぎたいが、千人を超える集団の疲労は限界に近い。
森を抜けるまであと五日。竜の里までは、おそらく一週間。
リプトン村長が、焚き火の爆ぜる音に混じって静かに口を開いた。
「主様、そろそろ『組み分け』を決めておきましょうか」
里に到着したあと、誰がどこに住むか。
それは新しい生活を始める彼らにとって、最も重要な関心事だ。
「元々は十三の村に分かれていたんですよね。全員合わせると、ええと……」
「はい。正確には、千二百三十六名おります」
リプトン村長が即答したその数字を聞いて、僕は心の中で小さくガッツポーズをした。
――見事に、四で割り切れる。
「なら、居住区を東西南北の四つに分けましょう」
「トウザイ……ナンボク、ですか?」
不思議そうな顔をする村長に、僕は丁寧に説明する。
太陽の昇る方が「東」、沈む方が「西」。最も高く昇る方を「南」、その反対を「北」。
竜人たちは根が素直だ。
理不尽な内容でなければ、僕の提案をスッと受け入れてくれる。
これからは全員が同じ「里」の民。
だからこそ、新しい帰属意識を持つための「住所」が必要だった。
「承知いたしました。では、各村の長たちと調整しましょう。村同士の相性もございますゆえ、彼らの意思も尊重してよろしいでしょうか?」
「ええ、それが一番です。お願いしますね」
リプトンさんは深く頷き、話し合いのために人混みへと戻っていった。
周囲に残ったのは、ティーナ、サムとカイの兄弟、そしてヴァルちゃんとポチ。
僕の気心が知れた、大切な面々だけだ。
僕は改めて、大きな背中を見せているポチに向き直った。
「ポチ、改めて礼を言わせてくれ。お前が殿を務めてくれたおかげで、一人も欠けることなくここまで来れた。……本当に、ありがとう」
僕の言葉に続くように、みんなが次々と感謝を口にする。
ヴァルちゃんも「キュイー!」と誇らしげに鳴いた。
「いやぁ、めっそうもない! 俺は当然のことをしたまでというか、なんというか……へへっ」
大きな体を小さくして照れるポチに、僕は少し真面目なトーンで続けた。
「ポチ。お前はもう、僕たちの家族だ。それは絶対だ。……その上で聞いてほしい」
ポチの動きが止まる。
「……お前、自由が欲しくて旅に出たんだよな」
ポチは、少しだけ目を細めた。
「だからさ。ここに縛られる必要はない」
「行きたくなったら、行け」
みんなにも同じことが言える。――まあ、隣で顔を真っ赤にして僕の服の裾を掴んでいるティーナだけは、絶対離さないけど。
「……心配、ご無用ですよ」
ポチは照れくさそうに頭を掻きながら、力強く笑った。
「今では、皆と一緒にいることこそが、俺にとっての『自由』なのかもしれませんし」
「そうか。……なら、いつまでも仮の名前じゃダメだな。そろそろ、本当の名前を教えてくれないか?」
これだけの功労者だ。ふさわしい敬意を持って呼びたい。
だが、ポチは少しの間をおいて、晴れやかな顔で断言した。
「前の名前に、良い思い出なんて一つも無いんで。『ポチ』のままでいいです。これからもずっと、ポチとしてよろしくお願いします!」
さらっと重い過去をぶちまけられた気がするけれど、本人がそう言うなら野暮なことは言わない。
「わかった。じゃあ、これからもよろしくな、ポチ」
僕たちは夜の帳が下りる中、固く、温かい握手を交わした。
竜の里までは、あと少し。
握った手を、夜の中でゆっくりと離した。
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