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22 右の肉球をプニプニされたら

 俺はやっと簀巻きから解放された。円卓から降りてノエルの背中に抱きつくと、ノエルの肩越しに魔王様と目が合う。魔王様はノエルの正面の椅子に正座させられていた。両隣にはマンドラゴラ爺と暗黒竜が、魔王様と同じ体勢で身を竦ませている。


 ノエルは何故か機嫌が悪かった。先程からずっと腕を組んで仁王立ちし、魔王様と言い争っている。


「だから、オレサマはユーリ殿と結婚の約束なんてしてない!」

「本当に?またウッカリ忘れてるんじゃないですか?」

「本当に、誰とも結婚の約束なんてしていない!」

「ではユーリ様が嘘を吐いていると?」

「そうは言っていないが、でも、オレサマも本当の事を言っているのだ!」


 必死に言い募りながら、魔王様の視線がチラチラと俺に振られた。助けてくれ!と目で訴えてくるので、俺はちょっと考えて、ノエルに肉球を差し出すことにした。


 まずはノエルの二の腕に自分の右手をそっと乗せ、肉球の感触が伝わるようにゆっくりと押す。ノエルの視線が一瞬だけ、魔王様から俺の手に移る。更に押す、何度も押す。ノエルの意識が少しずつ魔王様から逸れてゆく。

 ノエルが俺の右手に触れて、フニフニと肉球を押し始めた。フニフニプニプニ、リズミカルに肉球を弄ぶうち、ノエルの怒りが収まってきた。


「いいぞロイ、そのままノエルを鎮めてくれ」


 魔王様の不用意な発言で再燃しかけるノエル。右の肉球をプニプニされたら左の肉球も差し出しなさい、そんな先人の教えを俺は実行した。両手で両の肉球をプニプニしながら、ノエルが深々と息をつく。


「埒が明かないので、魔王様もユーリ様も本当の事を言っていると仮定します」


 肉球プニプニのおかげで、水掛け論に陥っていた話が進み始めた。


「どちらかが、又は両方が勘違いをしている可能性はありますか?確かユーリ様は、大きくなったら魔王国に来いと言われたと、仰ってましたよね。結婚と言わずとも、そう取られるような言動をした覚えはありませんか?」

「それもあり得ない。そもそもユーリ殿と会ったことが無いのに、どう勘違いされるのだ」

「魔王様は魔王国から出られた事がありませんからね。それにユーリ様も、公式には人間国から出た事がないようです」


 Dr.マッドが付け加える。彼は1人離れた場所で、書類を繰っていた。手元の通信機器からは、情報が印字された紙が長々と吐き出されている。


「では、ユーリ様は誰から、魔王国に来いと言われたんでしょうか。魔王様とそっくりな魔族でも居るんですか?」

「擬態や変身が得意な魔族は居ますね」

「そのうちの誰かが、魔王を名乗ったのか?オレサマのフリをして婦女子を誑かすとは、許せないな」

「私は魔王様のウッカリミスの可能性も捨ててませんけどね」

「なっ、ノエルはまだオレサマが信じられないのか?ノエルに疑われるのは悲しいのだ」


 魔王様はいつの間にノエルを呼び捨てするようになったんだ?ノエルと魔王様の距離が、急速に近づいた気がする。喧嘩するほど仲がいいって言うし、ノエルは魔王様と仲良しになったのか?


「魔王様には前科がありますからね。不満なら魔王を騙った偽者を、頑張って探し出してください」

「ああ、良いだろう!偽者を見つけてオレサマの無実を証明するのだ!皆も協力するのだ!」

「面倒くせーけど手を貸してやるか。ノエルもおっかねーし」

「やれやれ、年寄りをこき使わんで欲しいが、しょうが無いのー」

「Dr.マッドは引き続き、ユーリ様についての情報を集めてください」

「了解です。何だかノエルさん、本物の魔王妃様みたいですね」


 Dr.マッドの何気ない一言に、場の空気が固まった。ホンモノノマオウヒサマ?


「この馬鹿野郎!お前はいつも一言多いんだよ!」

「ロイ、違うからな?」

「嬢ちゃん、肉球じゃ!もっと肉球をプニプニしてやるのじゃ!」

「はぁ、やれと言われればやりますけど。皆さんいきなり如何したんですか?」


 プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ。


 高速で俺の肉球をプニプニ揉みながら、ノエルが首を傾げる。俺も首を傾げる。さっき理解出来なかった言葉は何だったのだ?とても不吉な響きをしていたが。

 

「取り敢えず、後は各自で調査で良いよな!」

「そうだな!じゃあそーゆーことで、解散!」


 あっという間に居なくなった魔王様達。1人残ったDr.マッドが、呆気にとられるノエルに告げた。


「ひとまず現状維持ですかね。という事でノエルさん、明日も魔王様の婚約者のフリをお願いしますね」

「えー、嫌なんですけど」

「まあそう言わずに。特別報酬として、ロイのモフモフ券を進呈しますから」


 Dr.マッドの手には、俺の似顔絵入りのモフモフ券10枚綴りがあった。ノエルが俺を仰ぎ見て、心配そうに聞いてくる。


「勝手に報酬にされてるけど、良いの?」

「……ノエルなら」

「よし、話は纏まりましたね」


 Dr.マッドがガシャンと手を叩き、モフモフ券をノエルに渡す。いつの間にこんな物を用意していたんだ。受け取ったノエルは暫し券面を確認していたが、やがて顔を上げると、上目遣いで俺に願った。


「ロイ、この裏面のオプションも、良いかな?」


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