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21 何一つ解決してませんよね?

 ユーリ姫との会談は中断する事になった。泣き叫ぶユーリ姫の様子から、とてもじゃないが続けられないと判断したからだ。王族としての節度ある態度をかなぐり捨てたユーリ姫は、年相応の幼い女の子で、侍従の服を握り締めてビービー泣いている。私は挨拶もそこそこに、魔王を抱えて退出した。


 ケンタウレさんには申し訳ないが、ユーリ姫が落ち着くのを見計らって客室に案内するよう頼んである。情けない顔で見送ってくれたケンタウレさんだけど、彼女には空気を読むスキルも備わっていることだし、上手く立ち回ってくれると期待している。なるべく早くユーリ姫を追い返したかったけど、状況が変わったからね。


「魔王様、裏でじっくりお話しましょうか」


 部屋を出ても魔王を放さず、じわりと腕に力を込める。事情聴取が済むまで逃がさないよ?


 魔王を捕獲したまま会議室に戻る途中、情報収集をお願いしていたDr.マッドと行きあった。彼も一旦会議室に戻ると言うので、同行しながら言葉を交わす。


「魔王様の顔色が悪いですね」

「でしょうね。応接室でのやり取りは、見てましたか?」

「大体は」

「そちらは何か分かりましたか?」

「あまり有益な情報は得られませんでしたが、会議室に着いてから話しましょう」

「そうですね、特に魔王様には、あれこれ吐いて、いえ話してもらわないと」


 冷えた笑みを浮かべて魔王を見下ろす。私の魔王に対する評価は急降下していた。お姫様との結婚の約束を反古にしようとしている、最低野郎だからね!


 震える魔王をギチギチに締め上げながら、私は会議室へと戻った。両開きの大扉を押し開けると、円卓の上に、干乾びたワンコが転がっていた。側には萎びたマンドラゴラ爺と、疲れきった暗黒竜がいて、私達を見てホッとした表情になる。


「えっ、ロイどうしたの!?」


 魔王を放り投げて円卓に駆け寄ると、ロイはボンヤリとした視線を彷徨わせる。顔の下半分の毛が濡れてペシャンコになっていて、いつもと輪郭が違っている。


「ロイ、大丈夫?何で簀巻きになってるの?」

「……ノエル……ノエルが……」

「私はここに居るよ?」


 ポンとロイの肩を叩くと、もぞもぞとにじり寄って来たロイに掌を舐められた。くすぐったいんだけど。離そうとすると涙の滲んだ目で見つめられ、クーンキューンと切なげに鳴くので逃げられない。

 私の掌を舐めながら、次第に落ち着きを取り戻すロイ。精神安定剤的な何かが、私の手から分泌されているのだろうか。

 

 パタパタと尻尾を振り始めたワンコに癒やされていると、視界の端を忍び足で動く魔王に気がついた。


「動くな魔王。そこから一歩でも動いたら、私が偽者の婚約者だってバラしに行く」

「……偽者の、婚約者?」


 魔王ではなくロイが反応した。


「うん、説明したよね?人間国のお姫様に穏便に帰ってもらうために、婚約者の振りをするって」

「そうか、偽者……本当に婚約したんじゃないんだな?偽者なんだな?」

「うん」

 

 あまり偽者偽者言われると、悲しくなってくる。そりゃあユーリ姫と並べられると見劣りするけどさ。さっきまではこれが最善策だと思っていたんだよ。だけど、ねえ?


 隅っこで小さくなっている魔王に、冷笑を向ける。魔王はピタリと静止したままこちらを窺っていたが、私が椅子の1つを指差すと、そろそろと近寄ってきて、椅子によじ登った。ちんまりと座面に正座する魔王。相変わらず顔色が悪いが、少しだけ余裕が出てきたのか、ロイに話し掛けている。


「あー、ロイ?理解したか?全部演技だからな?」

「演技……ノエルに抱き締められてたのも、ノエルに頬ずりされてたのも全部、ただの演技」

「そう、特別な意味なんて無いからな、気にするな、全部忘れるんだ」

「はい」

「よしっ、これでオレサマ死なずにすんだ!」

「何とか無事に乗り切ったのー」

「良かった、本当に良かった!」


 いや良くないよ、何も解決してないよ!なに健闘を称えあってるの?お疲れ様ー解散!みたいな流れになってるの?

 椅子から降りようとする魔王の頭を鷲掴みにする。


「どちらに行かれるんですか、魔王様」

「え?寝室に帰って寝ようかと」

「寝る暇なんてあります?寝てる場合じゃないですよね?何一つ解決してませんよね?」

「だけどよ、今日はもう疲れたし、明日で良いんじゃないか?」


 暗黒竜の言葉に、ウンウンと頷く魔王国幹部達。明日になれば勝手に事態が収拾するとでも思っているんだろうか。


「そうですか。では私も疲れたので、もう婚約者を演じるのは止めますね」

「何故だ、協力してくれるんじゃなかったのか?」

「協力ならしましまよね。幼気なユーリ様に嘘ついて、一晩対応を考える時間を作り出しました。でも皆様は、外交問題よりも睡眠時間確保が大切なようですし?これ以上私に出来る事はありません」

「いや、明日からも婚約者のフリを──」

「お断りします。ユーリ様が仰ったこと、皆様聞いてましたよね?先に結婚の約束をしたユーリ様の方が、正式な婚約者です。それを差し置いて、婚約者のフリなんて続けられません」


 結婚の約束を無かったことにするような魔王は、勇者に滅ぼされればいいと思う。


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