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それからシュイは、隙を見付けては村に遊びにいくようになった。
何度も通ううち、残りの村人とも、しだいに打ち解けていった。以前シュイとひと悶着あった猟師たちとも、和解することができた。
ヤナンとは姉弟のように仲良しで、野山へ連れだしては、狩りや魚釣りを教えた。
ときどきキローネがついてきて、遠くから微笑ましげに我が子の勇姿を眺めている。
里に帰ろうとするシュイを、ヤナンは決まって引き止めた。別れ際、いつも半べそを掻いていた。
ポロノシューはあいかわらず無口で無愛想だが、シュイが勝手に家に入ってきたり、厨房を使って食事を作ったりしても、嫌がる素振りは見せなかった。
ただ、あんなに貧相な食生活だったくせに、味付けにはしっかり文句をつけてくるのだから腹が立つ。
「絶対、美味しいって言わせてやるんだから」
誰かのために食事を作ることに、こんなにやり甲斐を感じるとは。里に閉じこもったままでは、想像もできなかったに違いない。
また折りに触れ、村人に里の生活を語って聞かせた。
村人たちの声も聞いた。イェルフ族に伝わる話とは、だいぶ違っていた。
「お互い、都合のいいように歴史を捻じ曲げているのさ」
ポロノシューは言う。
「珍しいことじゃない。事実と真実とは別のものだ」
彼は、暇を見付けては、子供たちに勉学を教えていた。たまにシュイも生徒になって、人間の歴史を学んだ。
「シュイは、ポロノシューのこと、どう思ってるの?」
ある日。
キローネと二人きりで山菜を摘みにいった昼下がり。
突然、水を向けられた。
「どうって……」
「村じゃ、けっこう噂になってるわよ」
「あたしとあいつが!?」
思わず籠を落とし、せっかく採取した山草がこぼれてしまった。
「村の女の子に恨まれてるわよ」
キローネは悪戯っぽく笑う。
シュイの頬が、たちまち紅色を帯びた。わざとらしく乱暴に山草を拾い集める。
「あたしが、人間のことなんか好きになる訳ないじゃない」
「彼のこと嫌い?」
「そういう訳じゃ……」
「わたしは、あなたのこと好きよ。ヤナンもそう。彼だってきっと、そう思ってるわ」
「まさか……」
「ふふ」
でも、ポロノシューが好きなのはキローネなのよ。
喉まで出掛かった言葉を、シュイは飲み込んだ。
その日、シュイは早々に里へ帰った。
「あたしは里長の娘として……イェルフの女として、一族の血を絶やさないことを第一に考えなきゃいけないんだし」
幼い頃から、ずっとそう言い聞かされてきた。それに対して、何の疑問も抱いていなかった。
「イェルフと人間がいっしょになったって、幸せになれる訳がない」
所詮、住む世界が違うのだ。
「その人がいなくなって、もう二度と会えなくなったら……って考えてみて」
不意にキローネの言葉が蘇る。
「いなくなる……」
自分の部屋の柔らかいベッドに突っ伏して、シュイは考える。
虫が鳴いている。
「あいつがいなくなったら、あたしは……」
目を閉じる。
「あいつがいなくなったら……」
虫の声がやんだ。




